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エア・コンディショナーと追憶ごっこ

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兄とめぐみの間にあったことを、すべて聞きたいわけでは、決してなかった。めぐみに兄のすべての部分が取られるだなんて、思っていたことも一度だって。
ただ、もし半ば偏執的に泉水を愛する兄の、脳裡の片隅に彼とめぐみを重ね合わせて見ている部分が少しでもあるのなら――泉水はとても耐えられそうもないと思う。自分が誰かの代替であるだなんて、いくら血を分けた兄であっても、許せることでは決してない。

扉はいつまでも開かなかった。鍵をかけた自室の前に佇む気配も、去る雰囲気は一向にない。
小さいころから似ていると言われたうつくしい従姉妹は、今の自分を見たらいったい何と言うだろう。きっとひたすらに馬鹿にして、少しだけ嫉妬して、それでもやはり、めぐみはめぐみのことが一番好き、ときつい声で言ってみせるのだろう。兄を傷つけたのと同じ、やわらかで華奢なその手で、吐けそうにもない小さな赤いくちびるで辛辣に、真摯なる一撃を我々兄弟に叩き込むだろう。

囁いている声が聞こえる。蝉のこえばかりが世界に降る。ひとりの部屋に、泉水はいる。
泉水お前のほうが大事なんだって、なあ嵐士、どんな口でお前はいったい今、そんなことを言うんだろう?