英雄、ミッドチルダに降臨す3
6.隊員家康の新生活
「……という訳で、今日から一緒に働くことになった徳川家康君です。皆仲良ぅしてなぁ」
家康が機動六課に入った翌日、ロビーには機動六課の職員達が呼び出され、整列した彼らの前には部隊長のはやてが立ち、家康の紹介をした。
彼女の隣に並ぶ家康はロビーに整列している機動六課の隊員一人一人を見渡していた。
これから共に戦う仲間の顔を覚えようとしているのだ。
なのはやフェイト、ヴィータ、スバル達フォワードチーム、それに加えて昨日見かけなかったピンク色の髪のポニーテールの女性隊員が立っていた。
はやてによると、彼女たちが機動六課の前線部隊らしく、さらにその後ろにはショートヘアの金髪の女性、青い体毛の狼、茶髪のロングヘアーで、眼鏡をかけた女性、銀髪で眼鏡をかけた男性隊員など、『ロングアーチ』と呼ばれる後方支援部隊が紹介された。
ちなみにはやてはその『ロングアーチ』の部隊長である。
(本当に女性の割合が多い部隊だな。ワシの知っている軍とは正反対だな)
家康は内心その部隊の男女差に驚いた。六課の中心を担う男性隊員はエリオと銀髪で眼鏡をかけた男性と黒髪の軽い雰囲気を漂わせた青年の三人だけしか居なかったのだ。
(ここでは男が後方で支援し、女性や子供が前線に立つ、か……。まるで雑賀衆のような部隊だな)
六課メンバーの前線要員を担うなのは達を見て、雑賀衆を思い浮かべた。家康の世界には子供の兵士は居なかったな、と心の中で呟き、笑いながら戦国の世で己の力を以て手を組んだ最強の傭兵集団のことを思い出した。
雑賀衆とは紀伊の鉄砲傭兵集団のことで、戦闘のプロであり、「雑賀衆と手を組んだものが勝つ」と言わしめる程であり、戦場で死を恐れない強さを持つ。その雑賀衆をまとめるのが雑賀孫市という女性だ。彼女は女性でありながら三代目雑賀孫市を名乗り、強さと誇りを以て鉄砲傭兵集団をまとめた。
「全は個、個は全」というフリーガンを掲げ、誇り高き雑賀衆の頭領として戦場を駆け抜けた。
なのは達と雑賀衆とはどこか似通った点があった。
とんとんとはやては家康の肩を叩き、自己紹介をするように勧めると、家康に自分が持っていたマイクを渡した。
「某の名は徳川いえや……」
家康が自己紹介をしていると、周囲はざわめき始めた。何事だと途中で止めると、はやてにマイクの向きが逆さまになっていると指摘される。
「え?」と呆けた声を出し、周囲は笑い声を上げた。
笑われた家康は顔を赤らめて手に持っているマイクの向きが逆になっていることに気づき、「あ」とまたしても呆けた声を出して周囲に笑われる。マイクを逆に持っている家康は何が何だか分からなくなり、恥ずかしくなった。
「家康さん、マイクはこうやって持つんですよ」
反対側に立っていたフェイトが家康にマイクの持ち方を教えると、彼はようやく納得した。
「お? そ……そうやって持つのか。ありがとう、はやて殿、フェイト殿!」
フェイトとはやてに礼を述べると、家康は改めて自己紹介をした。
「えー某の名は徳川家康。訳あってここ機動六課に入ることになった。短い間だが、宜しく頼む!」
グダグダになりながらも家康は短い自己紹介を終えると、六課の職員全員が大きな拍手を送り、家康を歓迎した。
作品名:英雄、ミッドチルダに降臨す3 作家名:葉月しおん