居心地のよい場所
「ホント、貴方が落ち込むと困るんだよな」
「・・?・・・何の事だ?」
シャアはアムロが何気なく言った言葉の意図が分からなかった。
「・・・貴方、意外とニブイな」
そう言うと、アムロが手を伸ばしてシャアの頬を優しく撫でる。
「あのな、俺だって自分の事はどう言われようと無視できるけど、大事な相手を侮辱されると、黙ってられない性分でね」
いつの間にかアムロの表情は、まるで悪戯をする子供の様に変っていた。
「奴等があんまりおイタをする様じゃ、こっちも大人しくしているつもりは無いって事さ」
なにやら含みのある台詞に、シャアは不安を隠しきれないでいた。
「だって、バレなきゃ平気だろう?」
不敵な笑みを浮かべるアムロを前に、シャアの不安は確信へと変って行く。
「・・アムロ、まさか君」
「俺の今の状態って、外出禁止って訳じゃないし、監視者が常時張り付いている訳でもない。昔の軟禁状態とは違うんだ。目晦ましならお手の物さ」
シャアが落ち込んで戻って来た事によって、アムロの怒りの矛先と言うべきよりも、悪戯心と言った方が無難かもしれないが、とにかく、彼の気持ちを180℃変換させてしまったのだ。
連邦は寝た子を起こした。
白い悪魔と異名を付けられた天才パイロットをMSから切り離す予定だったにも関わらず、自らコックピットのドアを開けてしまった。
「ギュネイと入れ替わるのは無理でも、一般兵のノーマルスーツを着れば顔は分からないし、MSだってヤクト・ドーガよりもギラ・ドーガの方が無難だよな。ああ、心配するな。絶対にバレないから」
今すぐにでも行動を起こしそうなアムロ。
盛大な溜め息を付いたシャアは、暗い気分を吹き飛ばす様に頭を振るうと、拳を握りしめて立ち上がる。
「来月だ!この次こそ撤回させてみせる。アムロ、それまでは大人しくしていろ」
「俺の話しを聞いていたか?バレないって言ってるだろう?」
「ダメだ!!君はその辺のMSに乗るべきじゃない」
「おいおい、その辺って・・・。総帥自らがそんな事言ったら・・」
「ダメと言ったら駄目だ!」
シャアは言い募ろうとするアムロの反論を語気を荒げて止めさせた。
そのままソファから離れ、執務机の上から受話器を取る。
「ナナイか?連邦とすぐさま連絡を取れ。・・・ああ、そうだ。アムロの件だ。このまま有耶無耶にはしない。何としても、今度こそ勝ち取るのだ!」
どうやらいつものシャアに戻った様だ。
次から次へと電話で指示を出す。
アムロはそんなシャアを優しく見守っていた。
終 2010/05/01 (加筆改訂 2011/07/21)