らきど るきはぴば
珍しく、筆頭幹部に呼び出された。シマの見回りがあるから、深夜近い時間になると返事したら、それでもいいから、とりあえず立ち寄れ、と、いつになく強めに命じられた。相手は、仕事はいくらでもあるから待っている、と言う。しょうがないから早めに、見回りは切り上げて本部へ戻った。
本部も、さすがに深夜を過ぎると静かなものだ。夜も常時、誰かが常駐はしているが、それだって大人数ではない。部下たちは帰らせて、一人で、エレベーターに乗った。
筆頭幹部の部屋の前も見張りは居ない。事前に人払いしてあるほどの話とは、何事だろうと首を捻りつつ、部屋に入る。
「ノックぐらいしたら、どうだ? ルキーノ。 もし、俺が、ここへ女でも連れ込んでよろしくやってたら、どうするつもりだ。」
「見物させてもらうさ。もちろん、見物料は払うぜ。」
「視姦プレーか、悪くないな。」
「・・・・・・それ、本気か? ベルナルド。」
「おまえなら、見せてやってもいい。」
筆頭幹部は、ニヤリと頬を釣り上げて、ふははははと笑って、「五分待ってくれ。」 と、手にしている書類に目を落とす。区切りはあるだろうから、その間に、俺は部屋の内線で、珈琲を注文した。これぐらいなら、詰めている部下の誰かが運んでくれる。
手持ち無沙汰に、ラックにある雑誌を読んで、時間は潰すことにした。五分で終わるはずがないのだ、この男。
・
・
・
珈琲が届いて、それにミルクと砂糖を入れて口に含む、そこそこの味がするから、よしとする。すでに、あれから十分は経過しているが、筆頭幹部は、まだ書類と格闘中だ。途中で、電話を二本かけた。一本は、掃除屋だ。
「ベルナルド、俺への用は時間がかかるものなのか? 」
ちょいとした用件なら、話をすれば、すぐに終わる。それなら、仕事を止めて先にしてくれ、と、俺は暗に頼んだ。こんなところで、新聞を読んで寛いでいるほど暇じゃない。
「まあ、一晩かかるだろうね。」
「はあ? 」
「もう少し待ってくれ。」
・・・・・一晩?・・・これは珍しい・・・・・
いつもは、俺が誘う。だいたいが、この部屋に訪ねて、ここから引き摺りだす。以前、ベルナルドが仕事中毒でダウンしてから、俺が誘い出して休ませる、という暗黙の了解みたいなものができた。これについては、どちらの部下たちも承知しているので、怪しまれている節はない。
葉巻の口を切って火をつける。そういう呼び出しなら、わざわざ、こんなところへ呼びつけなくてもいいだろうに、と、俺は苦笑する。
「なら、先におまえんとこのベッドを温めておいてやろうか? 」
「その前に、話があるから呼んだんだ。」
「だから、それはなんだ? 」
「もう少しで終わるから、ちょっと待て。・・・・そうだ、退屈しのぎの問題を考えさせてやろう。この間、我らがカポが言い出したおかしな質問の答えを、俺に提示しろ。」
「ジャンの質問? ああ、あの世界がってやつか? 」
この間、ジャンがおかしなことを言い出して、とうとう頭のネジが、ふたつみっつ外れたかと、幹部一同慌てたことがある。なんでも市長が、話のネタに、「この世界が後一時間が終わるとしたら、どうする? 」 と、周囲に尋ねたらしい。我らがカポのジャンは、その質問が妙に気になったらしく、わざわざ、俺たちにまで質問したのだ。その時は、ジャンの頭がおかしくなったんだと慌てて、話は有耶無耶になっていた。
・
・・・・・世界が、後一時間で終わるなら、何がしたいかって言われてもなー・・・・
・
俺には、漠然としすぎていて、これといって思い浮かばなかった。女房子供の墓参りをして終わってもいいのだが、それも、どうせ、その後、顔を合わせるなら必要はないだろうし、教会は満杯だろうし、今更、懺悔も何もあったもんでもない。ジャンは、みんなでパーティーでもして派手に終わろうと言いやがったが、それもピンとこない。
・
・・・・だいたい、俺らの稼業で一時間のフリータイムがあるなんてことのほうがおかしいんだ。・・・・・・
・
何も予定のない一時間。これを作るのが非常に難しい。それに、無事に、その一時間を過ごせるかどうかも怪しい。なんせ、いつどこから狙われてもおかしくない稼業だ。別に、俺は仕事が嫌いじゃないから、そんな生活に嫌気はさしていない。外回り対外折衝担当だから、ベルナルドのように書類仕事をしているほうが稀だ。だから、気詰まりはしていない。年末年始は地獄のハードスケジュールだが、それだって慣れているから、どうにか切り抜けられる。
・
・・・・・・沖に出て、ヨットを好きに走らせたら気持ちいいかな・・・・・・
・
護衛も仕事も関係なく、海に出るのは気持ちが良さそうだ。そこで、のんびり世界の終わりを眺めているなら、平和に終われるだろう。
・
・・・・・・いや、ハードにセックスってーのもあるか・・・・・・・
・
どうせなら、気持ちいいことをしているうちに、なし崩しに終わるのもいいかもしれない。相手は、当然、前髪を気にしている筆頭幹部なんてことになるのだが、さて、相手はどうだろう、と、思っていたら肩を叩かれた。
「なかなかいい時間つぶしだったみたいだね? ルキーノ。」
ソファの背後からベルナルドが微笑んで立っている。執務机の上は綺麗に片付けられていた。
「それで? 」
「もう日付は変わったから、今日の夜なんだが、ジャンたちが夕食会をしてくれる。」
「ジャンたち?」
「そう、ジャンとイヴァンとジュリオたちだ。おまえの誕生日だと聞きつけたので、それを口実に騒ぐつもりだろう。それで、明日の予定を空けてもらおうと思ったんだ。仕事が詰まっていたら、せっかくのジャンのプレゼントが台無しになる。」
「俺の誕生日? おいおい、ベルナルド、そういうのは断ってくれ。もう喜ぶ年じゃねぇーんだぞ? 」
「おまえの誕生日なんて、どうでもいいんだ。ジャンが楽しそうに企画しているのが可愛くてね。ジャン大好きおじさんの俺としては、それを叶えてやりたいだけだ。」
「おまえ、ジャンにだけは甘いよな? 」
「おまえだって、ジャンには甘いと思うがね。・・・・せっかく、ジャンが祝ってくれるんだ。素直に受けてやってくれ。」
「まあいいけどな。それが用件か?」
なんて他愛もない用件なんだ? と、俺は呆れるしかない。そんなことなら、お得意の電話で済む話だ。ジャンに甘いのは、お互いに自覚がある。あの金髪ワンワンがカポになって、俺たちは、ようやく互いを信頼することを覚えたのだ。CR-5はジャンが要だ。あいつでなければ、仕えたくないというのが幹部連中の正直な気持ちだろう。
「それと、たまには俺から誘ってみようかと思ってね。随分、ご無沙汰だが、まだお相手してもらえるかな? ルキーノ。」
「それは俺が言う台詞だ。」
背後から肩に置かれているベルナルドの手を引っ張り、そこにキスをする。ジャンがカポに就任する前後は忙しくて、時間が取れなかった。こうやって、ふたりで誘い合うのも久しぶりだ。
「さっきの質問の答えなんだがな、ベルナルド。おまえは、一時間どう使うんだ? 」
本部も、さすがに深夜を過ぎると静かなものだ。夜も常時、誰かが常駐はしているが、それだって大人数ではない。部下たちは帰らせて、一人で、エレベーターに乗った。
筆頭幹部の部屋の前も見張りは居ない。事前に人払いしてあるほどの話とは、何事だろうと首を捻りつつ、部屋に入る。
「ノックぐらいしたら、どうだ? ルキーノ。 もし、俺が、ここへ女でも連れ込んでよろしくやってたら、どうするつもりだ。」
「見物させてもらうさ。もちろん、見物料は払うぜ。」
「視姦プレーか、悪くないな。」
「・・・・・・それ、本気か? ベルナルド。」
「おまえなら、見せてやってもいい。」
筆頭幹部は、ニヤリと頬を釣り上げて、ふははははと笑って、「五分待ってくれ。」 と、手にしている書類に目を落とす。区切りはあるだろうから、その間に、俺は部屋の内線で、珈琲を注文した。これぐらいなら、詰めている部下の誰かが運んでくれる。
手持ち無沙汰に、ラックにある雑誌を読んで、時間は潰すことにした。五分で終わるはずがないのだ、この男。
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珈琲が届いて、それにミルクと砂糖を入れて口に含む、そこそこの味がするから、よしとする。すでに、あれから十分は経過しているが、筆頭幹部は、まだ書類と格闘中だ。途中で、電話を二本かけた。一本は、掃除屋だ。
「ベルナルド、俺への用は時間がかかるものなのか? 」
ちょいとした用件なら、話をすれば、すぐに終わる。それなら、仕事を止めて先にしてくれ、と、俺は暗に頼んだ。こんなところで、新聞を読んで寛いでいるほど暇じゃない。
「まあ、一晩かかるだろうね。」
「はあ? 」
「もう少し待ってくれ。」
・・・・・一晩?・・・これは珍しい・・・・・
いつもは、俺が誘う。だいたいが、この部屋に訪ねて、ここから引き摺りだす。以前、ベルナルドが仕事中毒でダウンしてから、俺が誘い出して休ませる、という暗黙の了解みたいなものができた。これについては、どちらの部下たちも承知しているので、怪しまれている節はない。
葉巻の口を切って火をつける。そういう呼び出しなら、わざわざ、こんなところへ呼びつけなくてもいいだろうに、と、俺は苦笑する。
「なら、先におまえんとこのベッドを温めておいてやろうか? 」
「その前に、話があるから呼んだんだ。」
「だから、それはなんだ? 」
「もう少しで終わるから、ちょっと待て。・・・・そうだ、退屈しのぎの問題を考えさせてやろう。この間、我らがカポが言い出したおかしな質問の答えを、俺に提示しろ。」
「ジャンの質問? ああ、あの世界がってやつか? 」
この間、ジャンがおかしなことを言い出して、とうとう頭のネジが、ふたつみっつ外れたかと、幹部一同慌てたことがある。なんでも市長が、話のネタに、「この世界が後一時間が終わるとしたら、どうする? 」 と、周囲に尋ねたらしい。我らがカポのジャンは、その質問が妙に気になったらしく、わざわざ、俺たちにまで質問したのだ。その時は、ジャンの頭がおかしくなったんだと慌てて、話は有耶無耶になっていた。
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・・・・・世界が、後一時間で終わるなら、何がしたいかって言われてもなー・・・・
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俺には、漠然としすぎていて、これといって思い浮かばなかった。女房子供の墓参りをして終わってもいいのだが、それも、どうせ、その後、顔を合わせるなら必要はないだろうし、教会は満杯だろうし、今更、懺悔も何もあったもんでもない。ジャンは、みんなでパーティーでもして派手に終わろうと言いやがったが、それもピンとこない。
・
・・・・だいたい、俺らの稼業で一時間のフリータイムがあるなんてことのほうがおかしいんだ。・・・・・・
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何も予定のない一時間。これを作るのが非常に難しい。それに、無事に、その一時間を過ごせるかどうかも怪しい。なんせ、いつどこから狙われてもおかしくない稼業だ。別に、俺は仕事が嫌いじゃないから、そんな生活に嫌気はさしていない。外回り対外折衝担当だから、ベルナルドのように書類仕事をしているほうが稀だ。だから、気詰まりはしていない。年末年始は地獄のハードスケジュールだが、それだって慣れているから、どうにか切り抜けられる。
・
・・・・・・沖に出て、ヨットを好きに走らせたら気持ちいいかな・・・・・・
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護衛も仕事も関係なく、海に出るのは気持ちが良さそうだ。そこで、のんびり世界の終わりを眺めているなら、平和に終われるだろう。
・
・・・・・・いや、ハードにセックスってーのもあるか・・・・・・・
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どうせなら、気持ちいいことをしているうちに、なし崩しに終わるのもいいかもしれない。相手は、当然、前髪を気にしている筆頭幹部なんてことになるのだが、さて、相手はどうだろう、と、思っていたら肩を叩かれた。
「なかなかいい時間つぶしだったみたいだね? ルキーノ。」
ソファの背後からベルナルドが微笑んで立っている。執務机の上は綺麗に片付けられていた。
「それで? 」
「もう日付は変わったから、今日の夜なんだが、ジャンたちが夕食会をしてくれる。」
「ジャンたち?」
「そう、ジャンとイヴァンとジュリオたちだ。おまえの誕生日だと聞きつけたので、それを口実に騒ぐつもりだろう。それで、明日の予定を空けてもらおうと思ったんだ。仕事が詰まっていたら、せっかくのジャンのプレゼントが台無しになる。」
「俺の誕生日? おいおい、ベルナルド、そういうのは断ってくれ。もう喜ぶ年じゃねぇーんだぞ? 」
「おまえの誕生日なんて、どうでもいいんだ。ジャンが楽しそうに企画しているのが可愛くてね。ジャン大好きおじさんの俺としては、それを叶えてやりたいだけだ。」
「おまえ、ジャンにだけは甘いよな? 」
「おまえだって、ジャンには甘いと思うがね。・・・・せっかく、ジャンが祝ってくれるんだ。素直に受けてやってくれ。」
「まあいいけどな。それが用件か?」
なんて他愛もない用件なんだ? と、俺は呆れるしかない。そんなことなら、お得意の電話で済む話だ。ジャンに甘いのは、お互いに自覚がある。あの金髪ワンワンがカポになって、俺たちは、ようやく互いを信頼することを覚えたのだ。CR-5はジャンが要だ。あいつでなければ、仕えたくないというのが幹部連中の正直な気持ちだろう。
「それと、たまには俺から誘ってみようかと思ってね。随分、ご無沙汰だが、まだお相手してもらえるかな? ルキーノ。」
「それは俺が言う台詞だ。」
背後から肩に置かれているベルナルドの手を引っ張り、そこにキスをする。ジャンがカポに就任する前後は忙しくて、時間が取れなかった。こうやって、ふたりで誘い合うのも久しぶりだ。
「さっきの質問の答えなんだがな、ベルナルド。おまえは、一時間どう使うんだ? 」