二次創作小説やBL小説が読める！投稿できる！二次小説投稿コミュニティ！

半田真一の場合１ (三年後)

　青春という単語にここまで胸が痛む高校生も珍しいだろうと思っていた。
　真っ赤になった暗記用のノートを片手に電車に揺られて目指す先は学校でも家でもなければ、ましてや予備校なんて殊勝なものじゃない。都心のわりには寂れた駅に下り立つと、雨の匂いがまとわりつくように漂っていた。これは降るな、と思ったが、別に傘を買おうとは考えない。どうせ帰る頃には雨に打たれたい気分にでもなっているだろう。
『南口徒歩５分ボウリング場前八ツ木ホテル２０３号室』
　出会い系サイトの掲示板を表示して場所だけ確認すると、ふと駅の時計に目を遣った。待ち時間のないように学校を出たはずなのに、まだ三十分はある。半端だな、と思って無意味に笑った。昔から俺はそうだった。雨が降っても濡れないようにと鞄の最奥へ押し込んだノートを今更出すのも馬鹿馬鹿しくて、改札側のファーストフード店に足を向けた。
　食欲なんてないと思っていたが気付けば空になった皿と残り少ないポテトがトレイに散る。外を見れば予想に違わず雨は軒先を濡らしていて眉をしかめたが、空しさは天気のせいではないと分かっているのだ。ただ、感傷だけは雨のせいにしていたい。潰せなかった時間を埋めるため、無造作に取り出した教科書にマーカーを引いて珈琲を口にした。ブラックなんていつから飲むようになったんだろうと考えて、自分が吸うでもない煙草の味を、知ってからだろうかと思った。
　空は薄暗かった。帰りは遅くなるから夕飯はいらない、と送ったメールが、いつまで親を不審に思わせずにいてくれるか分からない。雨がきた。今夜は寒い。多分どしゃ降りだから、家路につくまでに、やっぱりどこかで傘を買おう。帰ったらマフラーを出して、それで、温かくて甘いもの飲んで寝るんだ。
　だから今日は少しでも、早く、家に帰りたい。そう思ったら予期せず涙が溢れて一粒、男子高校生の割には丁寧に認められた数学の公式の上に染みを作った。