温もりと間接キスとカラス
「まーた達海さん、どこ行ったのよ」
現在20時。
有里はまだ明るいクラブハウス内をかつかつと音を立てて進んだ。
「今度の試合の書類のサインしてもらわなきゃいけないのに!あ、いた」
達海は医務室から出てきた。
「あ、有里。どーしたどーしたそんな怖い顔しt」
「どーしたじゃないです!今すぐFAXでこれ送りたいんでサインお願いしますって!」
「はいよー、で、ペンは?」
「あ、」
やってしまった。と有里はため息をついた。最近こういうの多い。
「だから、そうやってせかせかしてるとまたぶっ倒れるんだって。
気をつっけろよ」
「もう、そういうの何回も聞きましたよ」
しかし、達海の優しさに甘えたくなるのもたびたびある。
「お、有里さーん!」
「世良君。これから帰り?」
「そーっす!有里さんまだ残るんすか?」
世良が少し心配そうに行った。
「うん、あとこれをFAXで送ったら終わる予定だから」
「忙しいっすねー…俺も頑張んないとなぁー
じゃぁ、お先に失礼しまっす!」
「うん、お疲れー」
心配してるのは誰だって同じだった。
「よし、じゃあ今日はこれで終わりにしようかな」
書類も送り、担当とも話をし、切りがいいし。と有里は事務室を出た。
「あ、達海さんだ」
サッカーコートでふらふら歩いていた。
(ちょっと話していこうかな…)
有里は達海へと歩いていった。
「あれーまだいたんだー」
「達海さんこそどうしたんですか。こんな時間に」
「いやーこうやって涼むのもいいなって」
そう言って、ころんと寝っころがった。
「でも、今日はちょっと寒くないですか?」
有里は達海の隣に座った。
「そーだねーでも、俺はこの上着があるし」
そして達海はその上着を脱いで有里に渡した。
「ほれ、寒いんだろ」
「えっ、いいですよこのぐらい平気なんですから!」
「言っとくけどなー」
よいしょっと達海は立ち上がっててくてくとコートの真ん中の方まできたときに
有里のほうへ振り向いた。
「みんな心配しすぎって思ってんかもしんないけども、そんなの当たり前なんだよ。
もちろんサッカーだって独りの選手でプレイすることもできねえけども
こうやって『プロ』としてやって行けるのも選手たちだけじゃ出来ない。
俺だって必要だけど、こんなふうに柱になってくれる人もいるんだ。
柱を壊されたら、大変なんだよ。」
達海は上着を有里にかけて肩に手をぽんと置いた。
「だから、みんな有里を感謝して心配してんだ」
有里は上着に包まって声を出さずに涙を流した。
同じようなことを以前、ドクターにも言われ
達海にも言われた。
しかも思っていたことを。
でもなんだか寒かったはずの身体も上着と達海の言葉で温かく感じた。
「なーに泣いてんだよ。おい?」
しばらく有里は声を出さずにしていると達海は隣に座ってそっと肩を抱き寄せてきた。
「…何してんですか…」
「俺も寒いんだよ」
「あ、家の鍵忘れた」
と椿が出口に向かうときに思い出し、クラブハウスへと戻った。
(多分、更衣室だろうなぁ…)
そしてコートに達海と有里がいるのを見つけた。
「あれ?」
二人は肩を寄せ合っている。
「え?」
有里には達海の上着がかかってる。
「んん?」
椿はハッとなって気づいた。
(まさか、二人はそういう関係だったなんてっ!!!)
作品名:温もりと間接キスとカラス 作家名:rana