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【静帝】シズミカサイロク【サンプル】

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「おまえら、昨日60階通りで静雄が暴れてたの見たかよ?ロッテリアの隣のパスタ屋の看板、また吹っ飛んでたぜ」
「まじで?これで何回目だよ。あの店も懲りねえよなあ?」
 もう看板なんか出さなきゃ良いのに、とクラスメイトたちが、静雄によく壊される店の看板を揶揄して笑っていた。
 別の意味で宣伝効果があるのだから無くても困らないだろうというのは、確かに平和島静雄と彼の行動をよく見聞きする人間の意見として的を射ている。
 一方で、よく知らない人間からしてみれば、何のことだろうという話も多々あるのだ。
「俺、その時ちょうどロッテリアにいたんだけど、吹っ飛ばされてた男さ、すっげー馬鹿なんだぜ。静雄にぶつかった後、振り返って舌打ちして、しかも捨て台詞なんか吐いたもんだから……」
 それ以上はおかしくて話せないとばかりに、話の中心にいたクラスメイトは噴き出した。
 話に加わっていた他のクラスメイトたちも静雄に悪態をついた男の顛末を想像して苦笑していた。
「ばっかー。絶対、そいつ池袋の人間じゃねえだろ」
「でも、あの金髪とバーテン服を知ってるやつなら近づかねえけど、知らないで見たら案外ふつうのやつだからさ、その男も勘違いしちゃったんじゃん?」
「そうかも。女連れだったし、カッコ良いとこ見せたかったのかもな」
 その結果が静雄に殴られて全治数ヶ月では、格好がつかないとクラスメイトたちはどっとわいた。
「おまえらも気をつけろよ、紀田、竜ヶ峰」
 そう声をかけられた時、帝人は教室の一番窓側にある自分の席で、昼食のサンドウィッチを口に頬張っているところだった。
 クラスメイトからそんな風に突然話を振られて、それまでほとんど真剣に話題を聞いていなかった帝人は、何を気をつけるのかと首を傾げた。
「静雄だよ、静雄。おまえ知らねえの?」
「へ?静雄?って誰?」
 そう答えると、帝人と一緒に昼食を摂っていた正臣が、拳骨を作ってこつんと軽く帝人の頭を叩いた。
「おいおい、帝人。初日に教えただろ?絶対に近づくなって!」
 その説明を聞いて、クラスメイトたちが話題にしていたのが、平和島静雄のことだとわかった。
 帝人が池袋に出てきた初日に街を案内してくれた正臣が教えてくれた中に、その名前は確かにあった。池袋では要注意人物の一人で、無闇やたらに近づくなと教えてくれたことはもちろん帝人も覚えている。
「要注意って名前は聞いてるけど、まだ本人を見たことないしなあ……」
 帝人のイメージでは、その要注意人物はサイモン並に大柄で、とてつもなく強くて怖ろしげな人間ということになっている。クラスメイトたちがこぞって話題にするのだ。いったいどんな人間なのかと、ますます想像ばかりがふくらんでいく。
「まじかよ?池袋駅とか、60階通りとかよく歩いてんじゃん?」
「街中で騒ぎがあったら、だいたいあいつが中心にいるし……」
「街灯とか標識もだいたい三日に一つはあいつに壊されてるしなあ」
「ガタイ良いから人混みでも頭一つ飛び出してるし、金髪だし、いっつもバーテン服だし、結構目立つだろ?」
 正臣とクラスメイトたちは、静雄を見たことがないという帝人に次々とどんな人間か話して聞かせるが、それは帝人の想像を補足する効果しかない。
「だからまだ見たことないんだってば。だったら紀田君、今度見つけたらこっそり教えてよ?」
「ええ、でもなあ……」
 あんまり近づきたくないな、と正臣は首を振った。
「そうだよな。やっぱ厄災には自分から近づくもんじゃねえよな?」
「そうそう。C組の木沢なんかさ、中学の時の話だけど、調子乗って静雄に声かけたら、右大腿骨骨折、全治六ヶ月でいまだに入院生活だもんよ」
 そのC組の生徒の名前を帝人は知らなかったが、入院しているということは入学してから今まで一度も登校していないということだ。
「それマジかよっ?!」
 声かけただけで殴られるのかと、震え上がる帝人や同級生達に正臣は首を振って話を付け加えた。
「いやいや、一緒にいたやつの話だと静雄も三分くらい黙って、木沢のくっだらねえ自慢話を聞いてたらしいんだけど、いきなり襟首つかまれて、道路脇のゴミの山にぽいって投げられたんだってさ」
「それで骨折?」
「落ち方が悪かったんだと」
「そいつ、勇者を通り越して本物のバカだな」
「それはあれか?台風の目を見に行こうとして嵐に捕まるってやつ?」
「吹っ飛ばされるのわかってて行くなよってかんじだよなあ」
 殴る蹴るの暴行を受けたわけでもないが、安易に自分から静雄に近づいていったことが原因で怪我をしたのだと、クラスメイトたちは頷きあっている。
「まあ、つまり、この中で一番心配なのは帝人だってことだ。知らないからって池袋の街をぼーっと歩いて静雄にぶつかったりするなよ?」
 だいぶ慣れてきたとはいえ、池袋の街を歩いていれば、まだまだ一日一回は人にぶつかっている帝人には、ぼーっと歩くなというのはひどく的確なアドバイスだった。
 しかし、人ごみの中で顔も見たことのないたった一人の人間にぶつかるなという助言は一体どうやって守れというのか。
「遭遇する確率的にはすごく低いんじゃない?」
「だからもしもだよ、もしもっ!!」
「あー、はい、はい……」
「帝人君ってばひどいっ!!俺はこんっなに、君のこと心配しているのに」
 この時、わざとしなを作って嘘泣きをする正臣に、それさむいよ、とおざなりに返事をしてしまったことを、帝人は数時間後に後悔することになった。
 というのも、その日の放課後、帝人はようやく平和島静雄に遭遇したからだ。
 学校が終わると帝人は正臣と連れ立って街の中心へ足を運んだ。すると池袋のメインストリートの一つのちょうど真ん中あたりに大きな人だかりが出来ていた。
 それを見つけた正臣が帝人の肩を叩いて群衆を指差し、つられて帝人がその方向に目を向けた。
 群衆の中心でどうやら暴れているらしい男は、頭一つ分だけ飛びぬけて大きく、男の金色の髪が帝人からもよく見えた。
「あー、帝人君?噂をすれば、だ。あの人垣の中心で男の胸倉掴んでる金髪にバーテン服の男が、今日、俺たちが噂をしていた平和島静雄だ……」
「あー、紀田君?あの人が、あのサングラスかけた背の高い男の人が平和島静雄さんだって?」
 隣で正臣の言葉を繰り返した帝人が、だらだら冷や汗を流していることも知らずに、くどいぞ、と正臣は帝人を振り返って文句を言った。
「だからそうだって言ってんだろ?」
「……手遅れかも」
「は?」
「だからぼーっとしてぶつかるなよって話……」
 そう言って暴れている静雄を中心にした群衆から目をそらす帝人の様子を不審に思った正臣も、続く帝人の言葉に想像がついて、まさかと低い声で呟いた。
「そのまさか……初日に、池袋駅で――ぶつかりました」
 帝人の激白に正臣も顔色を変えた。
「いっ、いやいやいや、まあ、待て。落ち着けっ!……考えてみれば今、おまえは無事だ。つまり、ぶつかったことを静雄も大して気にしなかったってことだ」
「そ、そうだよね、うん……」
 帝人は初日に池袋の駅で背の高いバーテン服の男とぶつかった時のことを思い出して、自分は何もまずいことはしていなかったはずだと振り返った。