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【静帝】シズミカサイロク【サンプル】

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 その時、相対した静雄は金髪にサングラスという風貌を除けば、帝人にはいたって普通の人にさえ見えた。
 むしろ、ぶつかったことを責められるどころか気をつけろと注意され、都会の真ん中でそんな言葉をかけてくれる人間もいるのかと、感心すらしていたというのに。
 だが、今、帝人が目前にする平和島静雄の印象は、その時の男の雰囲気とはかなり異なる。そもそも、背は高いが細身の身体のどこに、自分より横にふた回りも大きいサラリーマンを持ち上げて、数メートルも投げ飛ばす力が秘められているというのか。
 噂は全部本当だったのだと、帝人は現実に遭遇しても信じられない気持ちだった。
「……もう静雄にはぶつかるなよ」
 今度の正臣の忠告は、学校で聞いたものと同じ言葉でも帝人の身に沁みた。真剣な顔で言う正臣に、帝人も同じくらい真剣な顔で頷いた。
「き、気をつけるよ……えっ、あっ?!」
 ちょうどその時、帝人の方を向いていた正臣の後ろで突然、人垣が動いたかと思えば、その人ごみを越えて黒い物体が、帝人と正臣の立っていた場所を目掛けて飛んできた。
「危ないっ、紀田君っ!!」
 帝人がとっさに正臣の腕を掴んで、その場所から退避すると同時に、バコッという嫌な音を立てて、その物体が地面に衝突した。地面にぶつかった物は、サラリーマンが持つような、おそらくパソコンの入った鞄だった。
 鞄の中で粉々になっただろうパソコンの姿を想像しながら、もしこの鞄が頭にでもぶつかっていたら自分たちはどうなっていただろうかと、帝人と正臣は互いに青ざめて顔を見合わせた。
 そこへ割れた人垣から背広を着た中年の男が腰砕けの格好で這い出し、呆然と立っていた二人の前にあるパソコン鞄に近寄ってきた。
「ひっ、ひぃ、ぱ、パソコンがあ……」
 男の手があともう少しで鞄の取っ手に辿りつくというところで、後ろからゆっくり歩いてきたバーテン姿の男が先に鞄の下にたどり着いて、その鞄を思い切り踏みつけた。
「……パソコンが何だって?」
 グシャリというパソコンの断末魔を聞いて、サラリーマンの男の顔が驚愕に染まる。パソコン鞄を掴もうとして持ち上げられた腕が、その形のまま鞄の手前で虚しく固まっていた。
「……いい年したおっさんだったらよお、パソコンよりも先にまず大事にするもんがあるだろう?今時、中学生でも不注意で人にぶつかったら、すみませんって頭のひとつやふたつ下げられるんだぜ?」
 地面にへたり込んでいたサラリーマンは、既に抵抗する気も奪われたのか、静雄に襟を取られてされるがままになっている。
 そんな光景を見つめながら正臣がぼそりと帝人と名前を呼んだ。
「……おまえ、静雄にぶつかった時、頭下げただろ?」
「思いっきり下げた」
「律儀に謝った?」
「うん、多分すみませんって何回も言ったと思う」
「よかったな……」
「うん、よかった……」
「俺も今度から人にぶつかったら頭下げよ」
「それが良いと思うよ」
 そんな風に正臣が感慨深げに言う言葉に力いっぱい頷いた。
 目の前でふっとんでいく男と、その男を殴り飛ばしたバーテン服の男を見ながら、帝人も都会のルールが決して絶対的に正しいわけではないのだということをひとつ理解した。



 その数日後、ダラーズの集会で帝人はまた静雄を目撃することになった。
 集会で静雄の姿を見つけて、誰よりも驚いた人間の一人はきっと帝人だ。これでまた、ダラーズの評判は大きくなるのだと、池袋に来てまだ数日しか経っていない帝人にも十分想像できた。臨也に言われるまでもなく、改めて自分の作ってしまった組織の大きさに戸惑ってしまう。
 だが、ダラーズのおかげで新しい人との繋がりも出来た。例えば門田やセルティのように。そして集会以来、帝人は街中で度々静雄を見かける。彼の姿を知る以前は目に止まることなどなかったというのに、一度、彼のことを知ってしまえばあの金髪にバーテン服という出で立ちがやけに目に付くのだ。それは友人らの言う通りだった。
 静雄は街中で暴れていることもあれば、公園でぼーっと煙草をふかしている時もある。同僚らしいドレッドヘアの人と並んで歩いているところも見かけた。驚いたことに、セルティと一緒にいるところもよく見かける。
 集会の夜以来、セルティは街で帝人を見かけるとメールで挨拶してくれるようになった。正臣と一緒にいる時など、さすがに説明に困ることもあって彼女に駆け寄ることも出来ない。その代わりに遠くからこっそり手を振って、メールで挨拶を返す。
 その逆もあった。帝人がメールの着信を受けてセルティの姿を探すと、二回か三回に一回くらいの割合で、静雄がセルティの隣にいることがあるのだ。
『静雄さんと一緒にいるところをよく見かけますけど、仲良いんですね?』
 込み入った話で失礼かと思ったが興味深くもあったので、ある時セルティにそんな質問をすると、彼女からすぐさま返信が戻ってきた。
『静雄は新羅の高校の同級生なんだ。私もそれ以来の付き合いだ』
 セルティに新羅という同居人がいることは帝人も聞いて知っていた。静雄たちの年が正確にいくつくらいなのかは知らないが、それでも十年近く付き合いがあるのだという。
 そんなに長く知り合いなら確かに彼らの間にある気安い雰囲気にも納得する。十年来の付き合いの正臣と帝人が一緒にいるところを見て、仲良くないという人間もおそらく周りにはいないだろうから。
 人間ではないセルティと屈託無く付き合うことの出来る人だと知って、帝人はなおさら静雄に興味を覚えた。
「平和島静雄さんか……」
 さて、そう振り返って自分がどれだけ静雄のことを知っているか考えてみると、あまり思い浮かぶ情報もない。ほとんどが噂話の類だ。
「近づくのはやっぱりちょっと怖いかな……」
 以前、片手でらくらくと男をふっ飛ばしていた静雄の姿を思い出す。そんな常人離れした力をまざまざと見せつけられては、やはり近づくのも躊躇われた。
 どんな生活を送っているんだろうか。セルティの話ならできるだろうか。そんな風に思い巡らせてみても、帝人が静雄と話しいているというシチュエーションはさっぱり想像できない。
「まあ、そうだよね……」
 二人は同じ池袋の街に住んでいて、ダラーズのメンバーで、セルティという共通の知人がいるだけのつながりしかない。歳も違えば、接点を持とうとしても大した機会も無いのだ。
 今度、セルティと一緒にいる時にでも声をかけて紹介してもらおうかと、その時になれば尻込みしてしまってきっとうまく出来もしない妄想めいたことを考えていた帝人だったが、偶然にも静雄と話をする機会はそのすぐ目の前にやって来ていた。
「うわああっ!!」
 静雄のことを考えながら60階通りを通り過ぎようとしていた帝人は、何かに足を取られて道路の真ん中で思いきり前のめりに転んでしまった。
 咄嗟に手をついたが、膝をしたたかに打った。手をついた地面にはチラシらしきものが数枚落ちていて、そこには露西亜寿司と書かれているのがちらりと見えた。