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【静帝】シズミカサイロク【サンプル】

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 気遣わしげな視線を向ける少年にたまたまだと静雄は答えた。少し答えがそっけなくなってしまったのは、未だに名前を思い出せない罪悪感のようなものだろうか。
 こんなことなら店に入る前、来良の制服を着た学生を見て少年ことを思い出した時に、さっさとトムに名前を聞いておくべきだったと後悔しても遅い。
「静雄さんってどんなお仕事してるんですか?」
 そうすばり静雄に聞いた少年の質問に驚いたのか、正面に座っていた少年の友人がぶほっとジュースを噴き出した。
「汚いなあ、正臣」
 ごほごほと咳き込む友人の目がおまえのせいだろうと如実に語っているのをわかっていないのか、それともわざとなのか無視して、少年は汚れたトレイを片付けている。
「俺らは出会い系サイトの料金の徴収やってんだよ」
 静雄の代わりに答えたトムに帝人は感心するように続けた。
「皆さんそんなに出会いたいんですねえ?」
「それが出会いたいんですよ」
「でもわざわざ取り立てるなんて、先払いするシステムには出来ないんですか?」
「一応、うちも基本は先払いなんだけど、ほら、延長料金とかあるでしょ」
 女の子との大事な時間に支払いに行っている暇はないので、超過分は自動で課金される仕組みになっている。
「ああ、なるほど。だから延長料金の踏み倒しが発生するんですね」
「竜ヶ峰君と紀田君も使ってみる?」
 静雄はそんな風に高校生へ提案するトムにえっと驚いて彼を見た。良識のある彼は普通なら冗談でもあまり未成年にそんなことを言ったりしない。
 だが静雄と目の合ったトムが笑ったのを見て、二人の名前のことを考えて口数が少ない自分に対して気を使ったのだとわかった。トムの察しの良さに感心してしまう。
「え、ええっ!良いですよ」
「意気地なしの帝人君はいつまでたっても杏里とはお近づきになれないもんなあ?いっそ他の子と出会ってみる?」
 冗談めいたトムの提案に本気で顔を赤くする少年に、彼の友人が追い討ちをかけた。
「正臣ッ!!」
「こらこら、店内で騒いだら他のお客様にご迷惑だろ?」
 それでなくとも店内は平和島静雄がいるだけで、地元の人間たちの意識はそこに集まっている。ましてや静雄とそれなりに親しげに会話する高校生がいるのだ。
 その奇妙な光景に、いつもなら視線は合さないように目をそらす人間達の好奇の視線が静雄達のテーブル一帯に集まっていた。
 友人のからかいを跳ね除けるように立ち上がった少年は、その衆人観衆の視線を一身に浴びて、さらに顔を真っ赤にして椅子に座り直している。
「隙ありっ!」
「あ!あああっ!!」
 顔を赤くした少年が席で小さくなっていると、友人がトレイに置かれたドリンクを掠め取って一気にすすった。どこかで見たような光景だった。
「っったああ……あ、あたまが、頭がキーンってする……」
「シェイクの一気飲みなんかするからだろ?馬鹿じゃないのっ?!」
 頭が痛いとこめかみを押さえる友人に、帝人は空っぽになってしまった容器を確認して、ドリンク代を返せと詰め寄って容赦ない言葉を浴びせかける。
 静雄やトムに対してはひどく腰が低く礼儀正しく接する彼も、気の置けない友人に対しては随分と辛辣だ。
 それが彼らなりの信頼と甘え方なのだと分かるのは、二人の顔がそれでも笑っているからだ。そんな関係の友人を持たない静雄は少しだけ彼らが羨ましくなった。
 至極普通の人付き合いを半ば諦めてさえいる静雄がめずらしくそんな風に思ったのは、おそらく静雄に屈託無く笑顔を向ける少年、竜ヶ峰帝人のせいだった。
 思えば帝人は最初からあまり静雄に対して、他の人間のように厚い壁を作ることもなかったなと思い返す。静雄を知っている人間なら近寄ること自体避けるだろうに、今では帝人は街中で静緒の姿を見つければ声をかけ、普通なら聞き難いことも聞いてくる。静雄に対する興味を隠そうともしない。
 そんな帝人に対して静雄がキレることなく接していられるのは、その態度の端々に真面目さや謙虚さを感じるからだ。そして人と付き合う上での彼の行動や言動が静雄限定の取り繕ったものではなく、飾り気無いものに感じるからだろう。
 静雄も最初に会ったときのことはまありよく覚えていないが、きっと静雄の噂は知っていただろうし、最初は怯えも見せていただろう。それでもだんだんと会って話をする回数が増えるにしたがって、少しずつ気安さを抱き、親しみがわくのが分かる。
「ほら」
「え?」
「バニラで良かったか?」
 ドリンクを返す返さないと言い争っている学生達を横目に、静雄はレジに並んで新しいシェイクを一つ買ってきて帝人に渡した。
「え、いや、い、頂けませんよ……」
「缶ジュース一本おごるよりも安いんだぜ?この間の露西亜寿司のにぎりの礼だと思ってもらっとけよ」
 本当は名前を覚えていなかったことに対するわびや、久しぶりに知り合った人間に対する思いもあったのだが、驚いて真ん丸に見開かれた瞳から少年の戸惑いが如実に見て取れて、それはそれで何とも言えないおかしさがこみ上げてくる。
 どうしたら帝人が受け取るだろうかと考えて、静雄は昨日のことを思い出す。静雄の睨みに肩を縮こまらせていた少年を、脅かして受け取らせるのも決まりが悪い。
「素直に受け取らないって言うなら、おまえが稼いで返すまでの貸しだ。ちゃんと借りたこと覚えとけよ?竜ヶ峰」
 そこまで言うと昨日の静雄の言葉を思い出したのかようやく帝人は礼を言って、なぜか恥ずかしそうにストローを口にくわえた。