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【静帝】シズミカサイロク【サンプル】

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 そんなことしているやつがいるなんて知らなかったと静雄は感心したように言って、それで話は終わりということなのか、そのままどこかへ歩いて行ってしまった。
 ほんの一言、一対一で会話しただけだったのに、帝人はとても緊張していて、気づくと手汗がびっしょりだ。どれだけ緊張していたというのか、心臓も先ほどよりずっとドキドキしている。
 静雄が行ってしまったことに帝人はほっとするような、少し寂しいような気がした。せっかく静雄と話をするチャンスだというのに、小心者の自分が情け無い。
 そうやってベンチでがっくり項垂れていると、突然首筋にひんやりとした感触を感じて帝人は驚いて立ち上がった。
「うわあっ?!」
 顔を上げるとベンチの前には静雄が立っていて、缶ジュースを差し出していた。
「えっ?!あ、あの……?」
「ほら」
 帰ってしまったとばかり思っていた静雄が再び目の前に現れて、帝人は心底驚いて混乱していた。ジュースの缶を手渡されて反射的に受け取るとひんやりとしていて、先ほど首に感じた感触の正体がそれだったことがわかる。
「とりあえずセルティの代わりだけど、情報提供の報酬だ」
 事件が解決したらセルティからもちゃんと礼があるだろうと静雄は言うが、帝人はそんなつもりでセルティに掲示板の話をしたわけではないのだ。むしろ、セルティの関係する事件に対する好奇心や、セルティの力になれるという帝人の自尊心を満たしているだけだった。
「た、ただ書き込みを見てるだけですから……」
 お礼なんてもらえませんとジュースを返そうとすると、それを静雄にやんわりと手元に戻される。
「おかげでセルティは助かった」
「まだ本当に探し出せるかわかりませんし……」
「俺からじゃ受け取れねえって言うのか?」
 一段とトーンの落ちた声に、見るだけで射殺せそうなくらいに険しい眼力。それでも加減はしているはずだが、途端に雰囲気が変わった静雄のひと睨みに帝人の息が一瞬止まった。それ以上静雄の視線を受け止め切れなくて、帝人はおとなしく震える指で缶のプルトップを開けた。
「い、いただきます!」
「最初から素直にそうしときゃ良いんだ」
 そう言って帝人の頭をぐしゃぐしゃとかき回した静雄の纏う空気は、いつの間にかと思うくらい、あっけなく元通り普段の雰囲気に戻っていた。

   +++

 先日、露西亜寿司でセルティと知り合いだという少年と知り合いになった。その後、時々その少年を池袋の街中で見かける。聞けば、まだ池袋に来て数ヶ月も経っていないというが、早々にダラーズなんてカラーギャングに興味を覚えるなど、どこか危なっかしいなと思ってしまう。
 躓いた静雄の足が当たっただけで背中に大きなアザを作ってしまうような体格で、喧嘩や争いごとに強そうにも見えない。むしろ絡まれやすそうな雰囲気があった。そんなことが気になって、気がつけば手で挨拶くらいするようになった。
 最初に人ごみのなかで静雄が手をあげた時、彼はひどく驚いた顔をしていた。そのあとすぐに笑って会釈したから、静雄に会いたくなかったというのではなく、純粋に静雄の行動に驚いた反応だったのだろう。
 そんなに自分の行動は意外なものだっただろうか。静雄は隣を歩いていたトムにそれとなく聞いてみると、高校生なんて歯牙にもかけないって思われてるのかもなあと冗談ぽく笑われてしまった。
「……納得いかないっす」
 二時間近く一緒のテーブルについて話していたのだ。怪我をさせてしまった件もある。静雄にしてみたらそんな人間を忘れるわけがない。
 自分が他人からどんな風に思われているか静雄だって理解しているが、だからこそわずかでも接触のある人間は静雄にとっては貴重な存在だった。
「じゃあ、あの少年の名前はなんでしょう?」
「名前?」
 そう改めて言われてみると途端に確信がなくなってしまった。自己紹介をしていたことは覚えているが、アルコールも入っていて、肝心な名前の部分が靄がかっている。
「えーっと、ああ、たしか、竜ヶ崎?」
「ブーッ!残念」
 おまえもお互い様だなとトムに笑われて、静雄は頭をかいた。
「なんか凄え珍しい苗字だったのは覚えてるんすけど……」
「そんなもんだ」
 結局、トムから正解を聞かなかったと気がついたのは、その夜、寝る直前のことだった。次に会った時に名前を聞き返すのも決まりが悪い。明日またトムに確認しようと眠りについた静雄は、翌朝起きた時にはそのことをすっかり忘れてしまっていた。
 忘れていたことに気がついたのは、それから一週間ほど経った後のことだった。
 公園のベンチに座ってセルティと、彼女の仕事の話をしていると、件の少年が静雄たちの下へ近づいてきた。その時に静雄は名前の件を思い出して少しだけ焦った。セルティも名前で呼んでいるらしく、苗字がわからなかったのだ。
 セルティの仕事も粟楠会からの依頼で、高校生に話を聞かせるような内容でもなかった。少年の危なっかしい好奇心を刺激する前に早々に追い返してしまおうと思っていると、静雄にとっては意外なことだったが、その少年がきっかけでセルティの仕事の件は片が付いた。
 静雄がダラーズに入ったのは、形だけでも良いから人との繋がりを作りたいという単純な理由からで、実際、ダラーズがどんなグループなのか、何をやっているのかなんてことには、ほとんど興味がなかった。
 専用のサイトがあって、そこに設置された掲示板にメンバーの書き込みがあることくらいは知っていたが、静雄がそれを見たのは最初の一度きりで、書き込んだことなど一度もない。
 もともと実社会でダラーズのメンバーが集まったのは春先の集会一度きりで、メンバーとの繋がりを作ろうと思えば、掲示板が主体になるということはわかる。
 その掲示板の管理を少年がボランティアで担っているというのだ。静雄は少年の話を聞いて、そんな風に他のメンバーのために働いている人間もいるのだと知って少し感心した。
 ダラーズという組織は、今まで静雄が知っている池袋にあったどんな組織とも違う変わった集団だった。都会に出てきたばかりの少年は別に無知でもないし、単にカラーギャングに興味を覚えたというわけではないのかもしれないと、少しだけ認識を改めた。
 次に会うときまでには少年の名前をトムに確認しておかなければと静雄が考えていると、運の悪いことにその翌日、早速また少年と遭遇してしまった。池袋という街も広いようで、案外狭い。
「あ」
「こんにちは」
 仕事が長引き、遅い昼食をとるためロッテリアに入った時のことだった。夕方にはまだ早いが、それでも制服姿の客も多く、混みあっている店内に空席を見つけて、静雄とトムがようやく一息をつくと、隣に見知った顔が座っていた。
「ちはっ、休憩っすか?」
 そう挨拶してきたのは露西亜寿司で一緒にいた茶髪の少年だった。考えてみると彼の名前もよく思い出せない。
「ああ、ようやく昼飯だぜ。学生諸君はもう学校が終わる時間かよ」
「ええっ?!静雄さん達、今からお昼ですか?お仕事大変なんですね。お疲れ様です……」