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煙草とコーヒー、それからハチミツ。

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             煙草とコーヒー、それからハチミツ。









まだモーニングの時間で、日差しがきつかった。
テラスは空いていて、カウンタで注文したコーヒーを持って、かろうじてシェードの影に入ったテーブルに着く。灰皿を確認して、まだ煙草は取り出さない。
待ち合わせまでは少し時間があった。足を組んでコーヒーを一口。
若者向けのショップが立ち並ぶ大通りに面したテラスにいるのは、他にサラリーマン風の2人組だけだった。車は殆ど通らず、平日の割に通行人が多い。
煙草を1本抜いて、口にくわえる。火をつけないままなんとなくぶらぶらさせていると、通りが少し騒がしくなった。
連れが現れたのかと思ったが、見慣れた金髪は見えなかった。
代りに現れたのは赤いヒールが嫌味なく似合う、スタイルのいい女だった。黒いパンツルックで、首に赤いスカーフを巻いて、大き目のサングラスをかけた女。ハニーブラウンの髪が日差しにきらきらと反射する。通行人が携帯電話を女に向けている。写真を撮る音がそこかしこで響いた。
そんな背景をものともせず、女はまっすぐテラスへ入ってくると、目の前にやってきて、断りもせず座った。
「・・・・・・早いんじゃね?珍しく」
口から煙草が落ちた。少なからず、動揺していたらしい。
「それコーヒー?」
女はぐ、と顔を近づけてくる。店員が、慌てたようにテラスへ出てきた。
「アイスカフェラテ」
テーブルに近づかれる前に、ぴしゃりと女が言って、店員は立ち止まった。
かしこまりました!とそのまま店員が後ずさる。
「あのさ、ここカウンタで注文するの。あともうすぐ連れが来るんだけど」
「知らないわよ」
一言。
シャッター音がまた、2,3回。
顔をあげて、通りで携帯を構える通行人を一瞥すると、怯んだのか手が下がった。
「機嫌悪ぃなぁ。美人が台無し」
女はカップの横に落ちた煙草を無造作に取り上げ、ダークレッドの唇に挟んだ。
「この暑いのに何でホットとか飲んでるの」
「ん?朝だから」
「火」
「・・・はいはい」
「言われなくても女が煙草咥えたら用意しなさいよね、それ位」
「ホストじゃねぇんだから」
上着のポケットに入れた100円ライターをとりだす。カチ、と着火音。女は息を吸い込んで、火を灯らせる。
吐き出された煙をよけて、ライターをしまう。
「不味い」
「自分の煙草どうしたよ」
「バッグごと置いてきちゃったのよ」
「・・・・・・仕事中かよ」
「休憩中」
「近く?」
「歩いてきたわ」
「誰か付いてんだろ」
「多分ね」
「俺、一緒にいていいわけ」
「私が、ここに、勝手に、座ってるの」
「自覚していたとは」
「むかつく男」
また煙が吐き出される。
今度はよけずに、目をつぶるだけにした。
先程と違う店員が、トレイにグラスを乗せてテーブルにやってきた。
「お待たせしました、アイスカフェラテです」
セルフサービスの店なのに給仕してくれた店員に、代金を渡す。
ガラス窓越しに他の客や店員がこちらを注目しているのが見えた。
サラリーマン二人組も、ちらちらとこっちを見ている。
「むかつく女」
「泣くわよ」
「うぜぇ」
「女の扱いがなってないんじゃないの、トム。そんなだから彼女できないのよ」
「放っとけ」
「放っとくわよ。今までもそうしてきたんだから」
「俺に女扱いしてほしいわけ?」
「そんなわけないでしょう」
2口吸っただけの煙草を灰皿に押し付けられる。
テーブルの下で、細く長い足が組まれた。
「あんまり注目浴びたくないんですけど」
「こんな頭してよく言うわ」
ちょっと触らせなさいよ、と一房つまんで引っ張られる。
「いたたたた、てまた撮られてるし!」
「大丈夫よ。ちゃんと始末するから」
「あんたが言うと怖い」
「データを、削除してもらうって意味よ、もちろん」
「前科あるからなー」
「あなたほどじゃないわ」
「人聞きの悪い」
女は手を放すと、ようやくカフェラテのストローに口をつけた。
「ドラマのロケやってんのよ。つまんないことでキレちゃって、引っ込みつかなくて」
「慌ててんだろうなぁ、あっち」
「喉乾いたから何か飲もうと思ったけど財布もカードも何もかも置いてきちゃったし。そうしたらトムが」
「俺が都合よくいたのでラテをたかったわけね」
「うるさいわね、後で返すわよ」
「別にいいけど、仕事を放り出すのは感心しねぇな」
「あなたの部下ほどじゃないわ」
「・・・・・・まぁ、知ってるか」
「有名だもの、わざわざ調べたりしてないわよ」
言い訳がましく聞こえたのは、うがちすぎか。
赤い唇に、煙草の次に挟まれたストローを通って、カフェラテが吸い込まれていく。
白い喉は赤いスカーフに隠れて、見えない。
「トム、また面倒事に巻き込まれたり、してないわよね?」
「またって、いつからの話してんの」
ていうか今現在が面倒事なんですけど。
女はため息をついて、そろそろ行かなくちゃ、と言った。
「大丈夫なら、いいの。でももし何かあったら、できることはするわ」
カフェラテはまだ半分残っていた。
こちらへ引き寄せて、飲み残しのストローを咥えて、ラテを啜る。
甘くて、冷たい。
「さんきゅ。あのさ、俺、そいつと付き合ってんの」
「は?誰と」
「面倒な部下と」
女は立ち上がりかけて、また座った。
じっと、目を見つめられたので、見つめ返す。
傍目にはどう映っているのだろうなこれ、と思う。
「・・・そう。残念ながら、いくら私でも日本の法律まで変えることはできないわ。海外でいくつか同性婚は認められているから、移住して国籍取るとかの問題ならなんとか」
「ストップ!ありがとう!別に結婚は考えてないから!今のままで!!」
「ほんとに?あなたはよくても彼氏が望んでるかもしれないでしょ?」
「理解がありすぎて助かるよマジで。でもほんとに、別に何かしてもらおうと思って言ったんじゃねぇから」
驚かせてやろうと思ったのだ。
それはささやかに成功したようだが、この女はこちらの予想を上回った。
まあ芸能界じゃ、ありふれた話だったのかもしれないが。
女はくすりと笑った。それまでの妖艶な笑みとは違う、自然にこぼれた笑みだった。
「まあ、よかったわ。幸せそうで。くそうらやましい」
「くそとか言うな」
「詳しく話を聞きたいところだけど、もう行かないと。電話してもいい?」
「どうぞ?」
「煙草とカフェラテ、ごちそう様」
立ち上がった女を、座ったまま見送る。
スタイルのいい彼女が歩いていくと、通行人が振り返ってその後ろ姿を見る。
「・・・後で返すって言わなかったっけ」
ストローを咥えて、底まで啜る。氷に邪魔されてずずず、と音が鳴った。