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ラフ・メイカー

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心の真ん中に、穴が空いたような気持ちだった。
劉唐が自分の身代わりになって死んでから、何もかもに全力になれない感じが拭えなかった。
あの腹立たしい男は、それが哀しみだと宣ったが、相手にする気はさらさらなかった。
それなのに、あの男は励まそうとしているのか、慰めようとしているのか、なかなか私を放っておこうとしなかった。
「酒でもどうだ、公孫勝」
調練後、一人で歩いていると林冲が声をかけてきた。以前なら訝しく思い問答無用で逃げるところだが、最近では珍しくもないことだった。意図は依然、掴めていなかったが。
「何を企んでいる?」
「別に。俺もお前も、お互いいい歳だろ。たまには酒でも飲んで腹割って話そうじゃないか」
林冲は片手で残っていた兵たちをあしらいながら、横目にこちらを見ている。顔色を伺っているらしい。
「結構だ。私はお前と違って忙しい」
「人の気遣いを悉く無に帰す男だな、お前」
林冲は飽きれたように溜息を吐いて、頭をぼりぼりと掻いた。
「用はそれだけか?」
さっさとこの話題を切り上げたかった。林冲は歯切れ悪く唸るばかりで、はっきりとした答えを寄越さない。ふいと踵を返して、立ち去ろうとする。
すると、背中に覆いかぶさるものがあった。
「そんな無粋なこと言うなよ、公孫勝」
「離せ」
胸の前で交差された林冲の逞しい腕から、日向の香りがする。
「我慢は、良くないと言うだろう」
「お前は自重という言葉を覚えるべきだな」
「泣きたいんだろう?」
「お前に触れられているという事実のせいでな」
「溜め込んでるだけじゃその気持ちは晴れない。心から、お前に笑って欲しいんだ」
「いい加減、鬱陶しい」
林冲の腕に指を立てて引き剥がそうとする。すると、もう一方の手が公孫勝の両手を捉えた。
左の空いた手が顎を捉えて上向かせようとする。抗うが、全く敵わない。
とうとう唇が重ねられる。固く唇を閉じていると、唇を噛まれた。走った鋭い痛みで思わず唇から力が抜ける。
口腔への侵入を許してしまう。
上顎をなぞられ、全身を痺れが通り過ぎて行く。
ふっと公孫勝は体から力を抜き、林冲にその身を委ねた。林冲の舌に自らの舌を絡ませる。目を閉じて、甘美な感覚を享受する。
林冲の手が、公孫勝の手を解放して腰に手を回す。
その隙を突いて、固めた拳を林冲の顎に真っ直ぐ叩き込んだ。
油断していたのか、林冲はまともに食らって膝からがくりと崩れ落ちた。
「これで満足だろう。私に干渉するのはこれきりにしてもらおうか」
吐き捨てて、その場を去った。
林冲は軽い脳震盪にでも陥っているのか、何も言ってこなかった。

自分の個室に帰り、寝台に身を投げ出す。何ヶ月ぶりかも思い出せない。長いこと帰らなかった部屋は、少し埃っぽい。
以前は、任務で暫く帰らなくても石秀や劉唐が部屋を掃除してくれていたから、部屋はいつも清潔なままだった。
きっと、あの日も任務が終わったら報告が長い自分の先回りをして部屋を掃除するつもりだったのだろう。しかし、劉唐はもう帰らない。 
もう、この部屋を掃除してくれる者はいないのだろう。この部屋は、自分以外が立ち入ることはない。
意に反して、顔が歪む。情けない顔なのだろう。しかし、涙は出て来ない。
薄情な人間だ、と自分でも思う。二十年近く自分を兄のように慕って来た男が死んでも、涙一つ流せない。
その時、扉を叩く音がした。
二回、一回、二回。致死軍の連絡用信号だった。
扉まで歩く。扉に背中を付けて二回扉を叩く。
「どうした」
「笑顔のお届けものに」
「帰れ」
「そうもいかない。おい、部屋に入れろ」
「断る」
「寒いんだ」
「知るか」
確かに、底冷えする夜だった。しかしそれは林冲を中にいれてやる理由にはならない。
「放って置いてくれと言っただろう」
「だがな、俺は頼まれた以上、お前を放っておく訳にはいかないんだ」
「宋江殿か?呉用殿か?」
「いいや、違う。もっとお前に近しい人間だ」
他に誰がいるだろうか。
皆目検討が付かない。
「誰だ」
「劉唐だ」
胸が酷く痛んだ。
「あのお節介め。寄りにも寄って、こんな奴に頼むとは」
声が震えないよう、腹に力を入れる。
「俺だって不本意だ。だが、あいつは俺に後生だと言って頼んで来た。それを断ることが、出来るか?」
「さあな」
「まあ、いい。俺も忙しいからな。明日は、恐らく童貫の軍とぶつかることになる。今日のところは、帰らせてもらう」
「頼んだ覚えはない」
「頼んだのは、お前じゃないからな」
林冲の気配が遠ざかって行く。
そういえば、林冲をこの部屋にいれたことはなかった。入れる道理も無かったが、部屋の掃除役がいなくなった今、あいつに頼むのも悪くないだろう。
明日、帰ってきたら頼んでみようか。きっと苦々しい顔をしながらも、引き受けてくれるだろう。





























呉用の部屋で目が覚めると、一人だった。柄にもなく酔っていたらしい。酒で潰れるなど、何年ぶりだろう。
聚義庁裏から山の中へ入り、山中の川で水を浴びた。
酔いが冷めて行く。
さっぱりとして、自分の部屋へ戻った。相変わらず、部屋は埃っぽいままだ。
寝台に腰掛ける。少しだけ開いた窓から帯状に差し込む曙光に照らされて、埃が舞っている。
扉を叩く音がした。
二回、一回、二回。
致死軍の連絡用信号だった。
扉に背中を付けて二回、扉を叩く。
「どうした」
「致死軍の、欠員補充要請が通りました。あと、次の任務が決定したので聚義庁へ集まるように、との連絡です」
「そのまま楊雄に伝えろ。暫く私は動けない」
「はい」
それきり、音はしなかった。
こんなことが、前にもあった。あの時、心を許そうと思った男は、自分一人を置いて消えた。
なんとも、腹立たしい男だ。
自分を放っておかないと言いながら、勝手に死んだのだ。
元々、生きることに執着しているようには見えなかった。特に死にたがっている訳では無かったが、戦いの中で死ぬことを厭わないと全身で言っているような男だった。あんな男は、早死にして当然だろう。
だが、目からは熱い雫が止めどなく溢れて来た。
「……ふ、っ……う……」
顔を手で覆う。
扉を背に、ずるずるとしゃがみ込む。
指の間から、涙が溢れ出る。
胸が痛い。胸が痛い。苦しい。息ができない。

その気持ちが、哀しみだ。

低く、不機嫌そうな声が、頭の中で響く。
あの無愛想な横顔も、熱い肌も触れることはもうできない。
ただそれだけのことが、咽び泣くほど辛い。
もう、涙を止めてくれる者はいない。
誰も、いない。
今も、まだ俺を笑わせるつもりなのか。











































































気が付くと、粗末な部屋だった。
死んだ後の世界だろうか。
暫く見回すと、見知った部屋である事に気が付いた。随分と荒れ果てて様変わりしているが、ここは梁山泊の自分の部屋だ。
部屋の中には膝下ほどまで水が溜まっていて、扉が開かない。
以前、ここで林冲と押し問答をした。
「林冲、お前が死んでから色々あったぞ」
扉に背を預けて言う。返事はない。