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ラフ・メイカー

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「この梁山泊は壊滅して、宋江殿が死んで……梁山泊の、というか……私たちの頭領には楊令が立った。しかし、その果てまでは私は見られなかった。私も、志半ばで死んでしまったようだ」
腰を下ろす。胸の下まで水に浸かる。その時になって初めて、溜まっている水が涙であることに気が付いた。
「私の心には、これだけの哀しみが詰まっていたのかな。お前が死んだと聞いた時には、多分この部屋は水でいっぱいだったんだろうな」
見上げると、天井まで濡れている。まだ乾き切っていないのか、たまに雫を垂らしている。
「どうして、私を置いていなくなってしまったんだ、林冲」
首を曲げて、扉に向かって話し続ける。
「お前がいなくなって、私はどうしようもなく一人だった」
扉の向こうから、答えは何もない。
「信じていたのに。どうして」
自分の言っていることが、子供染みた駄々でしかないということは分かっていた。しかし、止めることはできなかった。
部屋の水嵩が増して来た。
立ち上がり、それでも水嵩は喉元まで来ている。
「林冲」
ごぽ、と音を立てて水に沈んだ。水の中は、ぞっとするほどの静寂だった。
体が水の中に揺られる。息が苦しくなる。意識が遠くなる。
その時、耳を劈くほどの音がした。
もの凄い勢いで水嵩が減って行く。扉の取っ手に掴まって流されないように耐える。足が地に着くほど水嵩が減ったところで辺りを見回した。
窓枠に、日輪を背負う人影。
手には、鈍く光る鉄鎗。
木製の鎧戸は粉々に砕かれて見る影もない。

「酷い泣き顔だ、公孫勝」

懐かしい声が、そう言って笑う。
冷たい水に濡れた頬に、熱い涙が一筋伝った。
「駈けることしか能がないくせに、偉そうにするんじゃない。遅すぎるだろう」
声が震えているのが分かる。
二歩、三歩と窓枠に近付く。
「だが、間に合っただろう」
窓枠に腰を下ろし、その男が腕を広げる。
「待たせて悪かった、公孫勝」
広げられた腕の中に飛び込む。暖かい。
涙が止まらない。

何も考えられなくなる、真っ白な世界。
最後、私は笑っていた。