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【Alwaysシリーズ 2 】 The light

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銘々のステンレスの皿にバラバラとフードを移すと、犬たちはガツガツとその中に頭を突っ込んで食事を始める。
ドラコはそっと新しい水を、その横に置いて、玄関へと向った。

ネクタイをしめながらハリーはスーツ姿で、その前でじっとドラコが来るのを待っている。
ドアの前でドラコを抱きしめると、名残惜しそうにちゅっと唇にキスをした。
「できるだけ早く帰ってくるから」
それだけ言うとハリーは「遅刻しちゃう」と、慌てて跳びだして階段を駆け下りていく。
ドアがバタンと閉まり、うるさい相手がいなくなった途端に部屋はシンと静まって、ドラコと犬たちだけになった。




(世の中はもっと難しくて、つまらないものだとずっと思っていた)
リビングへと戻るとソファーにバラバラに散らばっている、昨夜ふたりで肩寄せて覗き込んでいた住宅雑誌を、一箇所に集めながらドラコは思う。

(でも本当はとても簡単に幸せになれるんだ)
この高慢な自分が、自分以外の誰かの世話をするなんて思ってもみなかった。
それが心地いいとは思わなかった。

ドラコは窓から見える空を見た。
今日はいい天気になりそうだ。

食事を終えたばかりの犬たちがドラコのまわりに集まってくる。
こげ茶色の瞳で、しっぽを振りながら、5匹はじっとドラコを見上げた。
ドラコの顔に自然と笑みが浮かんでくる。

(やさしくて、澄んでいて、きれいな瞳だな……)
その犬たちの頭をなでる。
ふわふわの手触りに、自分の感情のままに動く尻尾。
尻尾は垂れたままでも、ご機嫌に左右に揺れていて、満腹でとても気分がいいことを表していた。

とても分かりやすい。

(ハリーはこの犬たちが僕に似ているってよく言うけど、僕にしたらハリーのほうがこの犬たちとそっくりに見えるよな……)
機嫌がいいときのハリーも、泣きそうなときのハリーも、困っているときも、悩んでいるときも、ドラコはハリーの瞳を見ただけですぐに分かってしまう。
この目の前で揺れている犬たちの尻尾のように、ハリーの気持ちが手にとるように理解できた。

ドラコの前でハリーはとても表現が豊かで饒舌だ。
いつもドラコだけには何も隠そうとせず、むしろ大げさなくらい自分の気持ちを伝えてくる。

ドラコは対人関係が苦手で、いつも相手が何を考えているのかさっぱり分からず、つっけんどんな態度で接してしまい失敗ばかりしていたけれど、ハリーの裏表がない行動はとてもドラコを安心させた。

ハリーはこれまで苦難と試練の連続で、苦しんだり悩んだりして、きっと悲しい思いのほうが多かったに違いなかった。
きっとすがりたいのはハリー自身なのに、いつもドラコの前で笑ってばかりいる。
嬉しそうな顔しかしなかった。

(愛しているよ、ドラコ)
(大好きなんだ)

含んだものがない真っ直ぐな言葉はストレートにドラコの胸に届いて、それはとても幸せにしてくれた。
「愛している」とハリーは何度も言う。

この自分の前にいる犬の揺れている尻尾のように、何度も繰り返される言葉。
ハリーが「好きだ」と言うたびに、ドラコはとても幸せになった。



居心地がいいように部屋を掃除しよう。
洗濯をして、食器を洗って、犬を散歩に連れて行って、帰ってからブラッシングを丁寧にしてやろう。
アイロンは苦手だからそれはハリーにしてもらって、自分の仕事は早めに切り上げて、食事は夕方になったらすぐに取り掛かろう。

ドラコは自分のこの手で、幸せにしたい相手を幸せに出来ることが、なによりも嬉しい。

きっと会社が終るとハリーは急いで、おなかを空かせて帰ってくるだろう。
通りから見上げると、アパートの部屋にはオレンジ色のあかりが灯っていて、ハリーはホッと安堵し、きっとそれを眺めて嬉しそうに笑うだろう。


「僕の帰りを待っていてくれる家族がいる」
そう思って、ハリーはそのあかりを見上げるから――


―――だから僕はふたりの家に、暖かなあかりを灯そうと思う。


                         ■End■




*「犬とハリーとドラコ」の平凡な淡々とした日々です。こういう日常の1コマを切り取ったような物語を、時々書いていけたらなと思っています。