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ルマエリ・ギルエリ・エリ→ロデで吸血鬼パロ

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「上等だコラァ、ですか」
ローデリヒの呆れ果てた声色を傍らに、ギルベルトはがっくりと肩を落とした。
「だって、あいつ! 窓の外で人の顔眺めて、鼻先で笑ってたんですよ!」
薄手のネグリジェにガウンを羽織ったエリザベータが拳を握る。
バルコニーに通じる窓は開け放たれていて、屋敷のたたずまいにふさわしく天蓋のついたベッドの上掛けが乱れている。
夜風が彼女の首筋をくすぐるたびに、ギルベルトの敏感な鼻には女の匂いがふわふわ漂って来ていた。
本来ならば、自分もローデリヒもここにいるべき筋合いはない。
何せここは、今、拳を振り回して、いかに侵入者を殴りたかったかについて熱弁を振るっているエリザベータが一人で住まう館なのだ。
「そもそもあいつ、空が飛べるんだか蝙蝠に変身するんだか知りませんけど、あいさつもなしに人の寝室のバルコニーに勝手に上り込んで!」
彼女があいつと呼んでいるのは、ローデリヒでもなければギルベルトでもない。
このところ森にしばしば現れるようになった男である。
「それで、ムカっとしたので、ニンニクと十字架とフライパンを握ってこう、窓をばーんと開けて」
「吸血鬼に向かって上等切ったのか」
状況説明に熱心なエリザベータを遮ってギルベルトがあきれた声を上げると、エリザベータもさすがにばつが悪いのかうう、と押し黙った。
「…先に戻って、報告を出しておきますね…」
めまいをこらえるように額を押さえてローデリヒが立ち上がる。
銀の十字が縫い取られた黒いコートの裾を払い、エリザベータを一瞥すると小さく礼をして踵を返す。
「はぁ…素敵…」
エリザベータがローデリヒの後ろ姿を見送ってため息をついた。ギルベルトはあからさまに眉を顰める。
「お前なあ、のんきに頬染めてる場合じゃないだろう。噛まれたところはもう大丈夫か?」
エリザベータは、聖水を浸したハンカチを首から離した。
「もう、痛くはないんだけど…」
ギルベルトは、エリザベータの華奢な首筋に鼻先を寄せて匂いを嗅いだ。
こそばゆそうにエリザベータが体をよじる。
紳士的には程遠いこんな行為が許されるのは、ギルベルトの特殊能力あってこそのことだった。
「精神汚染まではされてないだろうけど…完全に目はつけられたな」
「ええー、あなたが駆け込んでくる直前にちょっと噛まれたくらいだったのに」
「普通はそのちょっとで、血ぃ吸われる快感で身も心もとろけて、さらわれちまうんだよ!」
ギルベルトは牙を剥いてエリザベータを威嚇する。めくれ上がった唇から突き出す鋭い犬歯に、エリザベータがしげしげと見入る。
「うわあ、すごい。本当に狼の牙みたい」
「みたいじゃねーから、本物だから」
神学校時代に若干のごたごたに巻き込まれた結果、死に損なって半人半狼の特性を手に入れた彼の嗅覚には、甘いエリザベータの血にツンと混ざる違和感が手に取るように分かった。
「あーあ、フライパンで一発ぶん殴ってからニンニクを口に押し込んでやろうと思ったのに」
己の力量に一点の曇りもなく信頼をおくエリザベータは、一口分だけ血を吸って退散した侵入者と直接遣り合えなかったのがまだ不満な様子だった。

ギルベルトとローデリヒは神学校を卒業してようやっと仕事に慣れてきたころあいの若者だった。
故郷が近く、年も近いのでなんだかんだとコンビを組まされ、気が合わないながらになんとかやってきたところ、飛び込んできた依頼は女性の警護。
森に吸血鬼が棲みついたのだと神学校へ連絡が入り、懐かしい村に戻って来てみれば、数年のうちに見違えるように美しくなった幼馴染のエリザベータが狙われているという。
ギルベルトは学校に入って以来、村に戻ってきたことはなかったので、出迎えたエリザベータが曲りなりにも女性の体裁を整えていて大変吃驚した。
さらに、成長した彼女が幾多の求婚を拒んで待ち続けた男が、隣の教区牧師の一人息子であるローデリヒだと知って愕然とした。
幼馴染のやんちゃ坊主だったものが、見事に羽化して美女に変貌した挙句、恋愛中とは。しかもその相手が自分の知り合いだとは。
つまらない思いはあれど、邪魔をする理由もなく、適度に距離を取って見守っておきたいところではあったが、すでに吸血鬼に目星をつけられているというのでは離れているわけにもいかない。
不本意ながらも、ギルベルトはローデリヒとともに、エリザベータの屋敷に泊まり込んで吸血鬼退治をすることになったのだった。

「お前、そんで、俺たちの説明はどれだけ覚えてるんだ」
ギルベルトは目を細めてエリザベータをにらむ。
う、とエリザベータが言葉に詰まった。
「えーと、ニンニクと十字架が苦手で、流れる水が渡れなくて、銀の弾丸か胸に杭を打ち込むかしかなくて」
指折り数えながら上目づかいにギルベルトを見る。
ギルベルトは冷たく見下ろして、無言のまま次を急かした。
「…処女の血が好き」
「で?」
そこはどうでもいいのでさらに先を尋ねると、エリザベータはうつむいた。
「…招かれないと部屋に入れない」
「覚えてるんじゃねえかよこのアホ!!! 上等だコラァで吸血鬼入れた女とか世界にお前だけだバカ!」
遠慮なしの大声で怒鳴りつけると、エリザベータがぴくりと眉を跳ね上げた。
「売られたケンカ買って何が悪いのよ!!」
「お前、自分が狙われてる自覚あるのかよ!!」
エリザベータが口をとがらせる。
「そうやって挑発に乗るから楽な獲物だと思われてるんだろ!?」
気まずそうに視線を逸らした首筋に、赤くぽつんと征服の印が残っているのが実に痛々しい。
ギルベルトは大きく息を吐いてがりがり頭を掻くと、腕組みして考え込んだ。
このじゃじゃ馬を追いかけまわす気概のある吸血鬼も大概だが、エリザベータに隙が多いのも確かだ。
いつまでも守りきるのは難しい。
「もうちょっとおとなしくて控えめで物覚えのいい女だったらまだやりやすいってのになあ」
「聞こえてるわよギルベルト、殴られたい?」
「嫁き遅れで処女ってだけでこんなに追い掛け回すとか、奴も相当の変わりm」


ローデリヒは教会本部への電報を打ちながら顔を上げた。
「今、何か重いものが落ちたような音が…」

人狼の血を受けて半分魔物になっているはずのギルベルトではあったが、殺意を伴う全力のフライパン殴打の前にあえなくノックダウンを喫した。
幸い意識が飛んだのは一瞬だった。
「ひ、ひっでえなあお前もう、女としても人としても相当ひどい!」
恨み言をほざきながら起き上がると、エリザベータは顔を真っ赤にしてギルベルトをにらみつけている。
「す、好きで嫁き遅れてるんじゃないもん」
「眼鏡でホクロでブルネットの男が求婚してくれるの待ってたって無駄なんじゃね?」
「っ、ま、待ってないわよ! 結婚するならローデリヒさんがいいなーとか、3回くらい言ってみたし」
「えっ」
「なんか、『そうですか、じゃあ牧師の知人に声をかけてみますね』的な感じで流されてるんだけど、あれって天然なのかな…」
思い出したようにエリザベータの瞳にすがりつくような色が灯る。
「フラれてるだけじゃねえのそれ…や、まあ、天然かもしれないけど」
捨てられた子猫のようにしゅんと萎むエリザベータを見ていられずに、思わず助け船を出す。