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ラボ@ゆっくりのんびり
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Walk Together, Again. (戦国BSR)

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 暗闇の中にいた。
 痛みが身体中を包み、流れる血液が容赦なく体温を奪ってゆく。重力が何倍にもなったように身体が重たくて、指先の一本も動かすことがままならない。
 死ぬのだ、と三成は思った。これが死なのだと思い知る。
 秀吉さまと半兵衛さまが、身を委ねざるを得なかった死の両腕に、私は抱かれている。逃げ場などどこにもない。
 瞳を開けていることはすでに出来なかった。視力が奪われたからか、聴覚だけは普段よりも鋭敏になっているような気がする。

「ひとりにしてくれ」

 という声が聞こえ、三成は精神だけでなく身体も未だ現世につなぎ止められていることを悟った。もしもここが天国、あるいは地獄だとしたら家康の声など聞こえるわけがない。勝者は現世に留まることを許されるはずだ。だが今耳朶をなめたのは家康の声に他ならない。何度も聞いた声だ。戦場で、軍議の場で、或いは褥のなかで。そして、様々な感情を込めながら三成の名を呼んでいた声だ。親愛を、呆れを、そして恋情を込めて。聞き間違えるはずがなかった。
 一瞬の後、本田忠勝が動く音が聞こえ、とうとう家康がひとりになったことを知った。
 ──私が未だ生きているということに気づいたのか。いや、本当にそうならば見せしめとして皆が見ている前で首をはねれば良いだけの話。
 先ほどまでは漠然としたことしか考えられなかったが、時間が経つにつれ、徐々に三成は細かなところにまで思考が及ぶようになっていた。ただ、詳細に考えたところで、家康の本意は掴めないままだったが。
 身体の横に何かが下ろされる音がした。
 瞳が開けられないから何なのかわからなかったが、きっと家康が腰を下ろしたのだろうと、三成は思案する。
 死体(だと、家康は思っているだろう三成の身体)の隣に腰を下ろし、彼は何をするつもりなのだろう。家康は、とどめを刺すでもなく、ただ静かに三成の隣にいるだけだった。家康がどうしたいのかまったく分からず、かすかに三成は不安を覚える。そんな風に思えるぐらい自分が回復していることに三成は気づいていなかった。身体に突き上げられた拳の痛みも徐々に薄くなっている。瞳を開けたり、身体を動かしたりはまだ出来なかったが、言い換えれば今の状態は眠っているのと近い状態だった。

「っ……、ぅ、」

 ふと、隣から漏れ聞こえた音に、三成は心の中で首を傾げる。笑いをかみ殺しているようにも、涙を押し殺しているようにも聞こえた。視覚が機能しない所為で聴覚が冴え渡っているが、それだけで十割を補えるかと言えばそうではない。気になる。三成は、ぐっと目のあたりに力を入れた。簡単にまぶたが持ち上がるとは思わなかった。しかし、少し力を必要としたが、まぶたはすっと開いた。天照大神が閉じこもった天岩戸から出てきたときのように、急に三成の瞳に光が射し込む。それもそのはずだ。三成の目の前で座り込み、帽子をかぶり、腕で顔を覆ってうつむいているのは、誰もが認める太陽なのだから。しかし、顔が見えない。ふるえる肩を見て、先ほどの音は嗚咽だったのだろうかと思案した。
 だけど、泣く理由がわからない。
 家康は三成を討ち、天下を泰平に導くことが出来たのだ。喜びこそすれ、泣く理由などどこにも見あたらない。
 家康、と言葉を吐き出そうとした。しかしひゅうひゅうと空気が漏れるだけだった。

「う、……っく、」

 家康の声は、ほとんど涙にまみれたものだった。応じようとするも身体は動かない。まばたきひとつすることさえ三成にとっては重労働だった。まぶたを持ち上げられたことが奇跡だったかのように思える。
 家康。
 唇だけで呼びかけた。届くわけがないと知りながら、届けばいいと願う。

「…………」

 ふと、家康の嗚咽が止まった。顔を覆っていたはずの腕が、そっと下ろされる。と同時に、うつむいていた顔が持ち上がる。涙に濡れた家康の瞳が、三成のそれと交わった。

「……みつな、り?」

 間の抜けた声で問われたが、三成はそれに応える術を持っていなかった。


**************************
 

 石田三成の生存について表立った発表はされなかった。
 理由として、まだ三成の傷が癒えぬこと、三成自身が何かを出来る状態でなかったことが挙げられる。徳川家康率いる東軍の勝利によって終わったこの戦で、西軍大将凶王三成こと石田三成へ一抹の恨みさえ抱かなかった者はほとんどいない。そういった者の襲撃を懸念し、三成が回復するまでその発表は控えようというのが家康の出した答えだった。そして三成の生存についてはごく一部の者にしか知らされず、未だ体調が思わしくない三成は家康の構える城の奥深くにある一室で治療を受けていた。
 この寛大すぎる処置に反対意見が一切なかったわけではない。多くの家臣をはじめ、三成本人からも「殺せ」と言われたが、家康は頑なにそれを拒んだ。権現さまは気が触れたという者もいたし、慈悲深い上司を持って感激したという者もいた。

「……何故私を殺さない」

 と、三成が問うのも当然のことだった。
 ほぼ毎日三成の様子を見に来る家康に対してそんな言葉を浴びせると、彼は一瞬だけ驚いたように目を見開いたあとゆっくり破顔した。

「三成。せっかく生きていたんだ。そんなこと言わなくたっていいだろう」

「貴様が勝ちを得たこの世界で私は逆賊に等しい。例え貴様が私の生を認めたとしても、大多数は認めんだろうな」

「それはないさ」

 と、家康は気軽に言ってのけた。その自信はどこから来るんだと問おうとしたが、未だ体調が万全ではない三成はひとことふたこと言葉を発すだけで疲れてしまう。言葉の代わりにふう、と息を吐く。その反動か、枕に埋めた頭がさらに深くなった気がした。

「なあ、三成」

 言葉は発せなかったので、三成は視線だけを家康に送る。家康はあぐらをかいた膝の上で祈るように指を組み、三成ではなく畳の目を見ながら静かに口を開いた。

「自分勝手な話かもしれんが、ワシは、おまえが生きていてくれて嬉しいよ」

 その言葉を皮切りに、徐々に降り出した雨のように、家康の口からぽつりぽつりと言葉が漏れ出てきた。