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璃琉@堕ちている途中
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ノンストップ、バッド

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張間美香が死んだ。
それ自体は、私にとって喜ばしいことだった。
事故死だった。
右折して来た車との衝突。助手席に乗っていた彼女は、即死だったという。
しかし、病院の霊安室で見た顔には、傷一つ残っていなかった。
岸谷が整形したままの、あの首とよく似た、けれど似ても似つかない、張間美香に彩られた、美しい顔。
ただ、そっと触れた顔は、いつものように小憎たらしく「お義姉さん」と、笑いはしなかったけれど。
きっとこの布の下は、傷だらけなのだろう。誠二と重ねたはずの身体は、見る影もないのだろう。
ぼんやりと思った私の頬を、しかし、涙が伝うことはなかった。

私だったら良かった。

その車を運転していた誠二が、張間美香を庇って死んだのだった。

私の生活は破綻などしなかった。
何も変わらない。
私は折原の傍らで秘書として過ごしていた。過ごし続けた。
折原と私の分の料理をし、折原と二人でそれを食べた。夜になれば折原とキスをし、折原に抱かれた。
その繰り返しだった。

時期を同じくして岸谷を喪った折原と、私は変わらぬ日々を送ったのだった。

新羅がさ。
情事の名残りのある声で囁く折原に、私は返事をしなかった。
折原の話を聴くのは、私だけだから。彼もそれを知っているから。
新羅がさ、花に水を遣りながら言ったことがあるんだ。
返事をしないでいると、折原もまた、無言になってしまう。
中学の生物部、あいつと一緒だったんだけどね。あいつが部長、俺が副部長で。
漸く口を開いたかと思えば何度か聴いたことを繰り返すだけの彼は、伸ばした左腕を、見つめた。
…………狂ってたんだよ、あいつ。
お前に言われたくはないだろうと心中で溜息を吐きつつ、私は折原の腕時計を、その文字盤を眺めた。
時を刻んでいたかは、暗くてよくわからなかった。

いや、そうじゃない。
どこかで、わかっていたからだ。
けれど私は、何でも良かった。
折原が生きていて、私が生きている。
それで、多分、十分だったのだ。

誠二の遺体を前にした時のことを、私は、覚えていない。思い出せない。