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たかなつき
たかなつき
novelistID. 29439
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運命の輪はメビウスのごとく

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「……戦いは終わった」

 玉座に座りデニムは厳かに宣言した。永い永い先祖から続く民族対立は終わったのだと。
 式典に参列する全ての者が厳粛な面持ちで耳を傾けている。
 デニムは大きく息を吸い込んで続けた。

「しかし、問題は山積している。貧困にあえぐ者、戦禍によって家や家族を失った者、そして未だ恨みを抱く者……」

 言いながら、デニムは戦後処理で見て回った短い時間でであった者たちのことを思い出していた。ウォルスタ人が虐げられていた頃とそう変わらない、いや一層に増した貧困と飢餓。この戦いでいたずらに増えた孤児、身寄りのない者――大切な存在を失った人々。それらはどうしても恨みの感情を発生させるとデニムは痛いほど理解していた。
 公人としてデニムはたとえ虚飾と言われようと、人々に希望と活力を与えるために言葉を紡ぐ。

「願わくば、遺恨を残さないで欲しい。忌まわしき過去と決別して欲しい。我々の未来のため、子どもたちのために、過去を悔い、あらためなくてはならない。我々にはそれができるはずだ!
 新たな世界のために、このヴァレリアに暮らす同じ民として平和な未来を築こうではないか!」

 朗々と語るデニムは思考の端で、そんな己を嘲笑うもう一人の己を自覚していた。どの口がそんなキレイゴトを語るのかと。デニム自身も過去に囚われていて未来に進むことなどできていない。ヴァレリアの未来のビジョンも見えずにいて、他人――民に未来を築こうと示せるものなど何もないのだ。
 勝手に回る口に薄ら寒ささえ感じても、デニムは厳粛な君主の顔のまま語り終えた。聴衆を見まわせば皆活き活きとした表情で、新たな未来を思い描き希望を胸に抱いているようだった。
 そんな希望に満ち溢れた場を乱すように荒々しい足音が玉座の間に響く。

「デニム・モウンに制裁をっ! ウォルスタに栄光あれっ!!」

 狂気じみた光を瞳に宿した男に銃を向けられ、そのまま体に衝撃が走る。胸のあたりの空虚がいや増して、デニムはぐらりと玉座から崩れ落ちた。
 どこか遠くで呼ぶ声に、デニムは重い瞼を閉じる。先の戦で果てた戦友たちか、それとも身を案じた臣下が己を呼んでいるのか。どちらともわからなくてデニムの意識はどんどんと混濁していく。

(……死ぬのかな、僕)

 このままなら確実に死ぬとわかる失血量と損傷具合にデニムは生死を考えるのを放棄する。代わりに己が死んだ後のことを考えだす。
己の跡は誰が継ぐのか、など。これといって突出した人材はおらず、いま己がいなくなれば確実に後継者争いが起きる。そうなれば統一ヴァレリアの意義は消え、民は確実に疲弊する。いまだってそうなのだから争いが再び起きれば尚更だ。
礎となれ、という父の遺言も成し遂げたわけでなく中途半端だ。これからやるべきことはまだたくさんあったはずで、志半ばで消えるのはデニム自身が許しがたいことだった。なんのために戦友や大切な人を失ってまで自分はここまで来たのか。それを考えれば途中で投げ出すなど許せなかった。
 不意に脳裏に赤い影がちらついた。陽気な笑顔、意外と手触りのいい羽を持つ風使い。彼と交わした約束を思い出し、どうやら破ってしまいそうな予感がしてデニムはひそかに謝った。
 ロスローリアンに盗まれた新生ゼノビア国の至宝、聖剣・ブリュンヒルド。ようやく取り返したそれを携えて、戴冠式の二週間前に彼と仲間の白騎士はゼノビアへと帰っていった。
 別れ際にデニムは彼と約束したのだ。亡くなった聖騎士の愛した、そして命懸けで守った国を見に行くと。
 必ず訪れる。そう約束したのに、デニムの命の灯は消えようとしている。
 彼と出会った始めの頃、「命あっての物種っていうだろ?」と言われたのを思いだして、デニムは暗黒に塗りつぶされていく意識の中で頷く。

(――もし、もしもやり直せるなら僕は)

 暗闇の中に次々と失ってしまった人々の姿が浮かび上がる。聖騎士ランスロット、星占術師ウォーレン、騎士ラヴィニス、父、ヴァイス、カチュア、数多の戦友たち……
 助けられるものならば皆を、たとえ傲慢と謗られようと、可能ならば全ての仲間をすくいたい。

「――――」

 思いは切実に募り、声にならないかすかな吐息だけがデニムの口から零れる。もう体が重かった。五感はとっくに失われ、代わりに感じるはずのない冷気が這いあがって体を覆った。
 これが死だと言うのか、だとすればなんて孤独で恐ろしい。
 デニムがそう思ったのはつかの間で、一瞬にして浮遊感に包まれた。おぞましい冷気は消え、温もりにかわるとデニムは安堵して意識を手放した。