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私は君がいつか誰かに騙されそうで怖いよ

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「やけに物わかりのよい取り立て先に詫びとしてこの店の割引券を一枚だけもらい上司に譲ってもらったのはいいものの、その使用期限が今日までだった」とカシスオレンジを飲みながら語った静雄は、門田と新羅という珍しい組み合わせにいぶかしがりながらも門田の必死のフォローと新羅の煽りで酒を飲むことに集中し始め、……そして、その結果が冒頭であったのだが。

「……門田君、門田君……やっぱり寝てるかい?」
「……ん」

 ぼんやりとしていた頭をふり、重い頭を上げて声の主を探すと、自分を心配そうにのぞきこむ黒髪が見えた。

「あ、起きたかい? ごめん、僕もそろそろ出ようかと思ってね、流石に眠ったままにしとくのも悪いし起こしたんだけれど……」
「……いや、大丈夫だ。むしろ起こしてくれて助かった」

 門田は手をひらひらと振って気にしなくて良いことを伝え、微かに痛み出した額を押さえた。二人の面倒を見るつもりが、今日の出来事を思い出しながら寝ていたのか。ざまあないな、と思ったところでふと気づく。

「静雄はどうした?」
「彼ならね、僕を起こしてお金をおいて帰ったよ。あぁ、君に『すぐ寝ちまって申し訳なかったって伝えといてくれ』だってさ」
「ったく……そんなのいわれてもよ、俺たちが来る前から飲んでたんだろ、しょうがねぇよ……あ」

 門田らしくない気の抜けた声に新羅が眼鏡の奥で瞬きをした。

「どうかした?」
「いや、静雄に、傘……つーか降ってるよな? 雨」
「静雄を見送るときに見たけど、降ってたよ。やっぱり臨也の天気予報はよく当たるね。 あと傘は私から静雄に渡しておいたよ。随分遠慮されたんだけどね……」

 そういいながら白衣のどこからか財布を取り出してお金を数え、新羅は続ける。

「『なんのために俺の身体が丈夫だと思ってるんだ』とかいわれてこっちもカッチーンときちゃってさぁ、『毎度毎度手当てする身にもなってみろ』って凄んだらね、黙って受け取ってくれたんだよ! いやー彼が私の言うこと聞くなんて何年振りだろう! お赤飯炊かなくっちゃ!」
「こんな時間からか」

 バイブ音を鳴らした携帯のメールを確認するついでに時刻をみると丑三つ時近くなっている。門田はため息をつくと財布から自分の代金と臨也からもらった割引券を出してカウンターにおいていた新羅の代金の上に重ねた。
 そして店主に挨拶をした後二人して外に出て案の定雨が降っているのを見て各々反応を示し、屋根のある場所に出てふと気づく。

「……お前、傘は」
「いや、もうすぐ彼女が迎えに来るらしいから私は遠慮しておくよ。きっとレインコートも作ってくれるだろうし」
「作……? 俺もさっきいつもつるんでる奴等から迎えにくるって連絡があってな。だから俺もいらねぇよ。ったく、どっから聞きつけたんだか……」
「いや、いや、門田君、さっきもいったけれど僕は彼女がいればそれで十分で、他には何もいらないんだよ。私は君達みたいに多くは望まない。だから、必要ない」

 だからはい、と新羅は臨也がそうしたようにビニル傘を門田に差しだした。
 門田は数回瞬きをして、新羅の笑顔とビニル傘の間で視線を何往復かさせて、それでやっと受け取った。

「……アイツも、こんなことするぐらいならやめたらいいのに」

 特に話す話題もなくなってあとは迎えを待つ算段となり、静かになったところでぽつり、と新羅が呟く。

「馬鹿らしいっていうか、なんていうか、……ずるい」

 新羅の言葉に門田は心の中で同意し、そしておや、と思う。寝る前ほどのテンションの高さが見られないので酔いを醒ましたものとすっかり思い込んでいたのだが、彼が静雄でも臨也でも噂の「同居人」ですらない自分にここまで内情を零すことは全くない。
 もしかしてまだ酔っているのかもしれない、と門田は考え、新羅の「独り言」を聞き流す。

「あいつ、確かにちょっと捻くれたところはあるし、性根悪いのは昔っからだけど、……」

 言葉が止まり、雨音が辺りの空間を支配する。
しばらくそうして、ぼんやりと新羅はここにいないその人物へ語り掛けるようにいった。

「傘が一番必要なのは、君じゃないか」







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