私は君がいつか誰かに騙されそうで怖いよ
ぴしゃり、と叩きつけるように臨也は門田に言った。
「あのね、ドタチンが雨に濡れて風邪なんかひちゃったらさぁ、ドタチンの周りの人たちがどんだけ心配すると思ってんの? 君はね、傘持たないとダメ。絶対。それでさぁ他の濡れた子に傘をさしてあげなよ。キャードタチンカッコイイ」
「じゃあ僕の持ってきなよ臨也―」
軽く腕をあげる新羅に対し思いっきり侮蔑した表情で臨也は彼に答える。
「は? もやしの代表選手みたいな君なんてドタチンの百万倍風邪ひきやすいにきまってるじゃん」
「まぁそうだけど、俺が風邪ひいて彼女に心配されて看病されるっていうシチュエーションもいいかなってさ……あぁ、ナース姿の君も素敵だよ流石現在の私の恋人そして将来の僕のワイフ!」
「……こんな感じの君が鬱陶しいから、っていうのもあるけどね」
「なるほど」
「ひどい! 君たちに彼女のナース姿という魅力が伝わらないとは思わなかったよ!」
「だからといって安易に同意したらメスで刺すんだろう?」
「よくわかったね。でもそれだけじゃなくって後世に人体の不思議を伝えるための犠牲にもなってもらおうかと思ってたよ!」
あくまで明るく笑う新羅にひきながらも門田は「とにかく」というと自分に押し付けられた傘の内の一本を臨也にずいと押し返した。
「うっかり落としたり、盗まれないように、忘れないように俺がみとくからよ、これはお前が持って行け」
「そうそう、君が持ってきなよ」
門田に続けるようにいった新羅の声にもおされたのか、じぃと自分におしつけられたビニル傘を受け取ると、しばらくそれを見つめて臨也はぽつりと言葉をこぼした。
「……まぁ、あいつはこんなものなくても大丈夫だろうしね」
二人は、大体わかりきった上でその言葉を聞かなかったことにして、彼とそこで別れ。
臨也からもらった割引券に書かれていた店に行くと案の定、
「よぉ、奇遇だな。門田に、……その酔っ払い、新羅か?」
池袋の自働喧嘩人形こと、平和島静雄がいたのだ。
作品名:私は君がいつか誰かに騙されそうで怖いよ 作家名:草葉恭狸