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金糸雀はうたう、あまやかな旋律を

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「───それで、今度の『依頼』は?」
「ちょっとした現地調査を頼みたくてな、国内だがちーっと遠出して貰いてぇんだ。危険な内容じゃねーから、ツナを連れてって良いそうだ」
「綱吉を?」
 ぱさりとテーブルに置かれた資料を取り上げかけた雲雀は、思いがけない名前を出されてぴん、と片眉を跳ねさせた。
「なんであの子が出てくるの」
 ずっと一緒にいるとは言っても、綱吉に雲雀のようなスキルはない。技術を身につけさせようと思ったことも、逆に綱吉が技術を身につけたいと願ったこともない。
 何より雲雀が、傷つきやすく心根の優しいあの少年を、自分のような血なまぐさい『仕事』に関わらせたくなかった。
 だからこそ雲雀はいつも綱吉に留守を預けているし、その思いを酌んでくれている綱吉も何も言わず、黙って雲雀の帰りを待ち続けている。
「あの子はこちらの世界に、一歩たりとも踏み込ませるつもりはないよ」
「俺だってそんなことさせるつもりはねーよ。ただな、今回は普通の旅行者の振りをしてた方が、おめーの方も都合が良いだろう、っつー見解なんだよ」
「僕に都合が良い?どういうこと」
「いまおめーが持ってる資料、ざっとで良いから最後まで読んでみろ」
 促された雲雀は怪訝そうな顔をしながらも、リボーンに言われたとおり資料に素早く目を通す。
「…何これ。『出向いた先の様子を記録して報告する』なんて仕事、僕じゃなくても君のところの誰かにやらせればいいじゃないか」
 いくら父親の代からの知り合いで、リボーンと懇意にしているとはいっても、一応現在の雲雀はどこにも属していない、いわばフリーの暗殺者だ。現地調査ならば『外部業者』に頼らず、内部の者にさせた方がずっと勝手が分かるだろうに。
「まあそう言うな。請求書を回してくれたら、二人分の滞在費は全部うちの方で持ってやる、だとさ」
「そういう条件を付けてくる辺り、ますます怪しいね。……『どうしても二人で』っていう、理由と目的は何?」
「あー…それがな」
 黒い双眸を僅かに鋭くさせた雲雀の視線から逃げるように、リボーンは明後日の方を向いた。
「可愛い『孫』に、旅行をプレゼントしたいんだとよ」
「孫にプレゼント?」
「ああ。で、あわよくばその『孫』に、旅先から自分に向けて、手紙でもポストカードでも良いから送って欲しいんだそーだ。おめーの現地調査は、そのついでで良いらしい」
 孫、というフレーズを強調しつつ、どこか呆れたような口ぶりのリボーンに、意図に気づいた雲雀もまた、ため息をつく。
「…まだ諦めてなかったの、あの人」
 雲雀の指す『あの人』とはつまり、リボーンの属しているファミリーの、ボスに当たる人───名をティモッテオと言う───のことである。
『仕事』の現場から『黒猫』が浚ってきた『金糸雀』───綱吉のことをリボーン経由で知って以来、強い興味を持った彼は、何かにつけて会いたい、会わせろ、と雲雀やリボーンに零していたのだが、対人恐怖症と呼べるほど人見知りの激しい綱吉の性格を慮ったのと、大事なものは見せびらかさず大切に隠しておきたい雲雀の思いが一致したので、その人と綱吉が直接顔を合わせたことはない。
 ただ、一度話をすれば気が済むだろうと考えた雲雀が、数分だけ電話で話す機会を設けたのだが、話をしたことでますます綱吉を気に入ったその人は、今度は雲雀を通してではなく直に綱吉に向かって「是非顔を見せておくれ」と、文書でメッセージを寄越したのだ。
「まあ、今年の正月にツナ本人が釘を刺してくれたおかげで、会いてぇって俺にぼやく回数が減ったのは良いことなんだが」
「うん、僕もあまり聞かなくなったね」
 けれど、巨大マフィアのボスに一般人の、しかも子どもが親しげに面会をするのは、あまり良いことではないだろうし、なにより雲雀の『仕事』に支障が出るきっかけになっては嫌だ、という理由で、綱吉は彼の申し出をはっきり断っている。
「断られた腹いせにうちから連れ出したりとか、実力行使に出ないでいてくれる辺り、まだマシってことかな」
「いくらなんでもそれはやらねーだろ。ボスだってツナには嫌われたくねーだろうし、もしおめーから無理矢理引き離して、万が一パニックでも起こしたりしたらかわいそうだ、って思ってるんじゃねーのか」
「ああ、確かにね。出かけたときに群れから酷く絡まれたりしたら、今でも時々過呼吸起こすから、あの子」
「そんなにひでーのか、ツナのパニックは」
「これでもかなり改善された方だよ。最初の頃は『夢に見るのが怖い』って言うあの子を、抱いて気絶させてたくらいだし」
 おまけに、雲雀がそれを聞き出すまでは、綱吉は自分から言い出せず、夢にうなされては何度も目を覚ましていたほどだ。すべては雲雀に余計な心配を掛けたくない、それだけのために。
「…俺と話してる時には、おびえた様子は見られねーんだがな」
「君が自分に危害を加えない人間だって分かってるし、僕が傍にいるからね。あの子も、何かあれば誰より先に、僕が動くって知ってるし」
 綱吉がリボーンに向かって軽口をたたけるのだって、雲雀にとってリボーンが気の置けない相手なのだと知っていて、自分がそれを許される立場だと綱吉が理解しているからだ。
「さすがは恋人ってことか?全幅の信頼っつーか、よっぽどツナに信用されてるんだな、ヒバリ」
「依存だって言っても良いよ。お互い自覚があるし、僕もあの子に依存してる」
「おめーもか?」
「だって僕、あの子が傍にいないと寝付けないもの」
 もともと、木の葉の落ちるような些細な音で目を覚ますほどに眠りの浅い雲雀だが、綱吉が傍にいればそれはなりを潜め、深く眠ることができる。
 そして今では、ふわりとやわらかな匂いのする優しい体に触れていなければ、まともに寝付くことすらできない。
「なるほど、それぞれがそれぞれの、ライナスの毛布になってるってことか」
「そういうことかな」
 軽く首を傾けて、雲雀はさらりと認めてみせる。



「で、本題に戻るが。今回の依頼、引き受けてくれるか?」
 視線で書類を示したりボーンに、雲雀は一つ息をついて頷いた。
「しょうがないか。たまにはあの人の言うことも、聞いてあげないとね」