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金糸雀はうたう、あまやかな旋律を

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「───ということで今度の『依頼』、綱吉は僕について回って」
「…えと、大丈夫、なんでしょうか?」
 マンションに帰宅した雲雀から簡単に事情を聴いた綱吉は、まずためらうような表情を浮かべた。
「俺が一緒に回ったら、恭弥さんの『お仕事』の邪魔になるんじゃ」
 遠方での『依頼』の際、綱吉は宿泊先までは一緒に行くが、現場に立ち会ったことは一度もない。『仕事』をしている雲雀の負担やお荷物になってしまうことを、なにより綱吉は嫌がるのだ。
「平気だよ。はっきり言って、僕への『依頼』の方がおまけだからね、今回は」
 スーツから私服に着替えてリビングのソファに座った雲雀にアイスコーヒーを出して、綱吉は彼の隣にすとんと腰を下ろす。
「あの人から孫に旅行をプレゼントしたい、っていうのが、本来の目的」
「孫って…ティモッテオさんが、俺のことを?」
 確かにティモッテオと綱吉とでは、相当な年の開きがあるから、たんに子どもと呼ぶよりは、孫のように見られていたとしてもおかしくはないけれど。
「うん。リボーンが言ってたよ、『可愛い孫』だって」
 大きな瞳をきょとりと瞠らせる綱吉に、雲雀は頷く。
「…綱吉が正月に手紙を書いてからこっち、あの人も話題にする事は殆どなくなってたから、てっきりこういうことは諦めたかと思ってたんだけど」
 肩をすくめて苦笑し、雲雀はアイスコーヒーに手を伸ばす。
「今になって、こんな方法を取ってくるとはね。やっぱり、そう簡単には引かないか」
 会わせて欲しい、と直接言ってこなくなった分はましなのか、はたまた厄介なのか。
「だけど俺、ティモッテオさんにそこまでしてもらえるような人間じゃ、ないのに」
 グラスを傾ける雲雀の横で、綱吉は眉を曇らせる。
「恭弥さんやリボーンみたいに、『お仕事』ができるわけじゃないし…それに、会いたいって言ってもらったのも、ごめんなさいって断っちゃったし」
「あれはね、どこかで一度きっちり言っておかないと、なし崩しに面会の場を設ける羽目になってただろうから、良いんだよ」
 空いた方の手で、雲雀は綱吉の金茶色の髪を撫でた。
「俺…お年玉とか旅行とか、あれこれいっぱい良くしてもらっても、全然お返しできることがないのに…貰ってばっかりで、良いんでしょうか」
「とりあえず害はないし、あっちが勝手にしたいって思ってるだけなんだから、お礼言って受け取っておけば良いんだよ。こういうのは受け取らなかったときの方が、後の被害が大きいから」
「そういうもの、なんですか?」
「そういうものなんだよ。特にあの人の場合はね」
 どことなく経験のあるような口ぶりで雲雀は言うと、中身が半分ほどになったグラスをテーブルに戻し、綱吉の華奢な肩を抱き寄せる。
 こめかみの辺りをこつりと触れ合わせると、細い両腕がそろりと伸ばされて、雲雀の腰に回された。
「……春先からしばらく、偶に行く買い物以外で綱吉は外出してなかっただろ?家の中にずっと居て、暇だったんじゃない?」
「そんなことは…ひゃっ」
 かぶりを振った綱吉の項に、グラスを持っていた方の手で触れると、冷たかったのか体が小さく震えた。
 謝る代わりに頭のてっぺんに軽く音を立ててキスを落とした雲雀は、そのまま綱吉の少し伸ばされた襟足を梳く。
「そう?仕事の合間に見かけた時の綱吉、すごくつまらなそうな顔してたよ」
「う…す、すみません。恭弥さん、いっぱいがんばってるのに」
「いいよ、構わない」
 さらり、さらりと襟足をくすぐっていると、綱吉の唇からほうっと吐息がこぼれた。
 撫でられるのが気持ちいいのだろう、もっとして、と言わんばかりに雲雀の手に擦り寄ってくる。
「…で、僕の方は綱吉も知っての通り、ここのところ仕事と『依頼』の両方で忙しかったから、どこかでちょっと休む理由が欲しかった所なんだよね」
「最近ずっと、仕事と『お仕事』で、スケジュールがみっちり埋まってましたもんねぇ…」
 全体的にふわふわぽわぽわしていて、どこか落ち着きのない綱吉の髪だけれど、意外とここは癖が少ない。もっと長く伸ばせば髪自体の重みも手伝って、すとんとまっすぐな流れが見られるのかもしれない。
 ただ、夏至を過ぎて梅雨明けの足音も近づきつつあるこの時期には、結んで小さなしっぽができる程度の今の長さでも充分暑く感じるのかもしれないが、綱吉は切らずに伸ばしたままでいてくれる。
 金糸雀の尾羽みたいで綺麗だから伸ばしていて、と雲雀がお願いしたからだ。
「だから今度の『依頼』は、内容も簡単だし、綱吉と旅行もできるから、正直渡りに船かなって思ってる」
 自分をだしにされたのは少々気に入らないが、滞在費は全額ティモッテオが持ってくれると言うのだし、乗らない手はないだろう。
「そう、ですね。『お仕事』さえ済んじゃえば、あとはゆっくりできますし」
 忙しそうにしていた雲雀に休める時間ができるのは嬉しいし、その時間を綱吉と一緒に過ごしたいと思ってもらえるのは、もっと嬉しい。
「だろ?」
 くすん、と笑って、雲雀は綱吉の肩を抱く腕に少し力を込める。
「ってことで、一緒に行ってくれる?綱吉」
「はい、ご一緒させてください」
 顔を上げた綱吉は、雲雀の問いにこっくり大きく頷いてくれた。