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金糸雀はうたう、あまやかな旋律を

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「良かった」
 一緒に過ごせなくて寂しかったのは、なにも綱吉だけではない。仕事だからと割り切っていたけれど、雲雀とて綱吉との時間が取れなくてつまらなかったし、そろそろいろいろ足りなくなってきたところだ。
「───ああ、忘れるところだった。あの人から、綱吉へのお願い事が」
「え、お願い事?なんですか?」
 なになに?と琥珀色の瞳を向けてくる綱吉に、雲雀は一つね、と人差し指を立ててみせる。
「手紙でも葉書でも良いから、旅先から便りを送って欲しいんだって」
「手紙か葉書…それだけで良いんですか?なにかこう、お土産とかも買って帰った方が…」
「さあ、そこまでは言われなかったけど。買ってあげれば喜ぶかもね」
 例えばそれが、どこの土産物屋にも置いてあるキーホルダーのようにチープなものであっても、『可愛い孫』が選んだ品物であれば、ティモッテオは喜ぶだろう。
「じゃあ俺、お土産も何か選びます」
「そうしてあげな」
 額を軽くぶつけて、至近距離で視線を絡めて笑い合う。
「───出発は、いつですか?」
「来週の火曜日。着替えのパッキング、頼んでも良い?」
「四日後ですね。了解です、任せてください」
「ありがとう」
 お礼のキスを唇に一つ貰って、綱吉はふにゃあ、と表情をほころばせる。
 このままのんびりと時間を過ごしていたかったが、雲雀にはまだやることがあった。
「…さて、話しておく事は話したし。仕事の続き、してこようかな」
 ここまでは裏稼業(というか、雲雀の場合はこちらが本業である)、『黒猫』としての仕事だったが、まだ表稼業であるプログラマーとしての仕事が残っている。
 こちらに関してのクライアントとの打ち合わせは、昨日草壁と一緒に済ませてきたので、あとは彼らが出してきた要望通りにプログラムを組み込んでいくだけだ。
「『依頼』のこともあるから、今日中にできるところまでやっておくよ」
「わかりました。…でも、あんまり根を詰めすぎないようにしてくださいね」
 名残を惜しむようにぎゅう、としがみつき、綱吉はそっと雲雀から離れる。
「俺、パッキングを済ませたら、ここで学校の課題の残りやってます。入り用なものがあったら、いつでも声かけてください」
「うん」
 納期直前などで仕事が立て込んでくると、雲雀は普通の会社員が残業をするように、仕事部屋へ遅くまで籠もる事が間々ある。そんなとき、綱吉は彼が片手間でも食事やおやつが摂れるように工夫して提供し、合間に飲み物の補給をさせる事も忘れない。
 雲雀はお腹が空いたり喉が渇いたりすれば、ただひとこと綱吉、と声を掛けただけで、はい、と必要なものが差し出されるという、まさに至れり尽くせりな状態で仕事ができているのだ。
 そしてその作業環境を作っているのは言わずもがな、どうすれば雲雀が仕事をしやすい環境を作ることができるのかを考え、心を砕いて行動している綱吉である。
 お仕事の手伝いはできないから、俺にできることをやっているだけですよ、と綱吉はいつも謙虚に言うが、名前を呼ばれただけで大体を察するなど、並大抵の努力や洞察力でできることではない。けろりとしてやってのける綱吉と、当たり前のようにそれを受け止める雲雀を見て、リボーンからは「おめーらは熟年夫婦かエスパーか」とツッコミを受けたほどだ。
 雲雀が綱吉を「できた嫁だ」と公言して憚らないのも、この辺りが大きな要因の一つになっている。
「じゃあ、よろしくね」
「はい」
 雲雀はアイスコーヒーの半分残ったグラスを手に、仕事部屋へ。
 綱吉はパッキングのためスーツケースを取りに、奥の納戸へ。
 それぞれのやるべきことを果たすべく、ふたりは行動に移った。