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屋根裏部屋の空の下

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1.

〈遊馬〉
 見ている。
 アストラルが、期待に満ちた眼差しでこちらを見ている。
「あのなあ……」
 一言反論しようにも、ここまで期待を寄せられるとどうも返答に困る。どうしてこうなった、と遊馬は事の元凶に八つ当たりしたい気分に陥った。
 遊馬とアストラルの目の前に立ちはだかる大きな陳列棚。ちょうど遊馬の目線の高さのところにそれは置いてあった。『異次元ジェット・アイアン号DX』の箱は。

 異次元ジェット・アイアン号。特撮番組『異次元エスパー・ロビン』に登場し、主人公のロビンと共に大空を飛ぶ巨大戦艦だ。
 主演である風也の事件を機に、遊馬はアストラルと一緒に『異次元エスパー・ロビン』を観るようになった。
 途中からの視聴、加えて今まで興味がなかったために、初めの内は話の筋をつかむのは遊馬にとって難しいものだった。しかし、アストラルが懇切丁寧に説明してくれたので、今では大体の設定は理解できる。デュエルの時もこれくらい素直なら、という台詞は少々聞き捨てならなかったが。
 
――オレは、どっから間違った?

 玩具店のロビンコーナーに二人して足を向けた時か。アストラルが帰り道でロビンの看板を発見した時か。それとも、遊馬がロビンに興味を持ち出した時からか。いずれにしても、ここに来た時点で二人の運命は決まっていたのだ。
〈遊馬。私はこれが欲しい〉
 こうなると分かっていたなら、最初から寄り道なんかしなかった。

 遊馬とアストラルの目の前の陳列棚には、ロビンファミリーのソフビ人形だの、ロビン変身セットだの、ロビンに関する様々なグッズが派手なPOP付きで陳列されている。その中のこれにアストラルが目をつけたのは、遊馬にとって不運としか言えなかった。
 件の『異次元ジェット・アイアン号DX』は、定価だと五千円を軽く超える。この店ではいくらか値下げされているものの、それでも中学生の小遣いが一瞬にして吹っ飛ぶ金額だ。
 遊馬は散々困り果てた挙句、
「無理だ」
 要望を却下する道を選んだ。
〈どうしてだ?〉
「どうしても、だ。オレにはこいつを買うことはできねえぜ」 
〈おかしなことを言う。店で売っているということは、買うことができるのではないのか?〉
「値段が問題なんだよ、値段がっ」
〈値段?〉
 正真正銘の異次元からの来訪者は、自分の願いが拒否される理由をよく分かっていないらしい。遊馬は、問題の値札をまっすぐに指して言った。
「見ろよ。これ一個分の金で、カードパックが一箱買えちまうんだぞ」
〈何と。これにはそれほどの価値があるというのか……!〉
 遊馬の願いも空しく、アストラルが全く別の方向で感動してしまった。彼にも分かりやすいだろうと、デュエルで例えたのが仇になった。これでは一向に埒が開かない。
 近くにいる店員が、遊馬にそろそろ疑惑の目を向け始めている。当然だ。傍目には、学校帰りの中学生が延々と独り言をつぶやいているようにしか見えないのだから。
「実物大なら、風也とデュエルした時に散々見ただろー。ほら、帰るぞ」
〈遊馬、だが、〉
「あー、もう! 帰るっつったら、か・え・る・のっ!」
 強引に会話を打ち切り、遊馬は陳列棚にくるりと背を向けた。アストラルはその場に残ろうとがんばっていたが、質量のない身体は、遊馬の動きに逆らえずにずるずると引きずられていく。これではまるで……。
 ああ、そうだ。遊馬はようやく思い当たった。今の二人は、買う買わないの押し問答をする親と子そのもの。玩具店でもよく見かける光景だ。ただし、世間一般の子どもと違って、アストラルは泣きも喚きもしなかったけれど。
 通学路に戻った後も、アストラルは何度も店の方を振り返っている。そんな彼の様子に、遊馬の心の隅っこがチクリと痛んだ。

作品名:屋根裏部屋の空の下 作家名:うるら