屋根裏部屋の空の下
2.
そろりそろりと階段に忍び足で近づく遊馬。数歩歩く度に周囲を確認し、誰もいないと分かると再びゆっくりと歩き出す。彼の手には、小さな紙箱が一つ。
やっとのことで、遊馬は階段にたどり着く。現時点で、台所や居間に祖母や姉の姿はない。最後に左右を確認して、階段を上がろうとした遊馬だったが。
「――遊馬」
階段の三段目に足をかけたところで、不意に名を呼ばれた。いきなりのことだったので、遊馬は驚いて階段から足を踏み外しそうになる。ふらつくのをどうにか耐えて、急いで振り返ってみると、そこには明里が腕組みをして立っていた。
「な、何だよ、姉ちゃん。買い物なら、台所のテーブルの上だぜ」
「見れば分かるよ。私が頼んだんだから。でも、――その手の中にある物まで、頼んだ覚えはないんだけど?」
つかつかと、明里が遊馬の元に歩み寄ってくる。慌てた遊馬は、紙箱を後ろ手に隠した。紙箱の中身が、遊馬の背でころりと軽い音を立てた。
「これは、姉ちゃんが思ってるようなもんじゃなくって」
「いいから見せなさい。さもないと、どうなっても知らないからね」
明里に弁解は通用しなかった。このままでは本当に、力づくで没収されてしまう。遊馬は渋々階段を下りると、隠していた箱を明里に差し出した。明里は遊馬の手から箱を荒々しく奪い取ったが、箱に書かれていた文字を見るや、唖然とした。
「ね、姉ちゃん……?」
「何これ。異次元エスパー、ロビン?」
ロビンのンのところで鍵が光り、中からアストラルが遊馬の右横に現れる。彼は最初に明里に目を向け、次に箱、最後に遊馬をじっと見つめてきた。アストラルのまっすぐな視線が、痛いほどに突き刺さる。正直言って居心地が悪い。
だから、こっそりやりたかったのに。遊馬は内心でつぶやいた。
「えと、姉ちゃん、ロビンのこと知ってんの?」
「知ってる。確か、奥様方や若い女性にも大人気なヒーロー物よね。へー、あんたこんなのに興味あったんだ。ふーん」
「興味あっちゃ悪いかよ」
「ううん、いいのよ」
遊馬にあっさりと紙箱を返して、明里は言った。
「カードじゃなきゃいいの。カードじゃなきゃ。ね?」
「……あ、あは、あはははは……」
遊馬はもう笑うしかなかった。色々と後ろ暗いところがあり過ぎたので。返された箱をつかむ手に、思わず力がこもった。