二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Hitze〔銀新〕

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 



それは唐突にふって沸いたものだった。

銀さんと僕の関係というものを、誰かに改めて聞かれることもなければ、当然答える場もないので考えたりすることはなかった。新八は買い物袋を下げたまま、夕日が照らす道に影を作りながらゆっくりと歩いていく。夕食の買い物にしては遅くなりすぎた。万事屋を出たのはまだ夕日も出ていない昼過ぎだ。偶然、本当に偶然に寺子屋時代の友人に呼びとめられた。
「新ちゃん」
今、自分の周りにこの呼び方をする人は姉上しかいなかったので、正直新八は自分のことではないと思いながらも声の方へ振り返った。すると、成長はしているもののあの頃の面影を残した友人の顔がこちらを見ていた。
「……」
握り締めた手の中には、ビニール袋。この中には今夜と明日のメニューが買い込んである。
(今何してるんだ?)
ひとしきり友人の近況を聞いた後、そう聞かれた。至極当然のその質問に、新八は何故かどう答えたらいいのかわからなくなった。注文したアイスティーが、グラスにいくつもの水滴を残している。それはいつしか合わさって、テーブルへとしみていく。
ぽたりと。
違和感が拭えない。別に今の自分に不満なんてものありもしなかったが、改めて同年代の少年が語る生活と自分はかけ離れているようにも思えた。だから、今ある自分が選んだものを上手く伝えられる自信がない。
「万事屋っていう…、何でも屋っていうか依頼があれば、なんでもするっていう仕事をしているんだ」
新八が思ったとおり、言葉にする端からまったく違うもののように響く。確かに自分はそういう事をしているが、給料なんてあまりまともに貰っていないし、むしろ万事屋にいる時の生活費として消えている気がする。仕事といえば仕事だけれど、事によってはそれ以上の何か大事なものを自分は得ている。それなのに、それを相手に伝えるには難しい。
「そっか。大変だな」
大変?この歳で働いているというそういう当たり前のくくりではそうなるのか。友人が別に嫌味やそういうものを含んだ言葉ではないのはわかっている。当時、寺子屋へ行かなくなった理由からも心配の言葉なのは。
(わかってるけど…)
「今日は、えっと仕事?その買い物袋からすると休みなのか?」
「あ、これはその仕事先の夕食の買い物。なんていうか、もう、そこの家事一切も僕がやってるんだ」
「へえ…」
意外そうな返事が返って来た。まあそうだろう。この説明から、今の三人の生活は想像しにくいのが当たり前だ。なんだか、酷く悲しい気持ちが入り交ざる。自分は一体、突然会った久しぶりの友人に何を伝えたいのだろうか。
「よっぽど信頼してるんだな、お互い」
「え」
「上司のことをさ。新八も信頼されてるってことじゃないの。今時仕事場でそういうの珍しいじゃん」
上司、仕事場。
どれもが何か違い過ぎる。大体、あの人を上司なんて思ったこともなければ、あの場を仕事場なんて考えたことすらない。
「家族みたいな…ものなんだ」
ようやく、一番近いはずの言葉を口に出来た。そう、自分にとって第ニの家族といっても間違いない。
「そっか。じゃあさしずめ上司っていうより、父親みたいな存在なんだな」
「あ、うん」
咄嗟に返事を返していたが、新八にはそれすらもしっくりはこなかった。
友人と別れ、今こうして万事屋への帰路を急いでいる。けれど一向その足は速まることなく、俯いたままその言葉を考えている。
友人が上司と称した銀さんの年齢をどのくらいに想像していたかはわからないが、父親というそのキーワードには当てはまりそうになかった。というか、家族であることを否定はしないのに、その中で銀さんと自分が呼ぶあの人がどういう存在になるのかわからなくなった。そんなに自分は銀時の過去を知らない。
(そうだ…)
三人でいる今ある生活は家族でも、自分は何も知らなさ過ぎる。姉上は姉であり、あの人の過去も一緒に育ってきた思い出もある。けれど銀時というあの人の過去を自分は少しも知らない。
自分はそのことにすら、気付かなかった。
(どうして)
苛立ちと大きな不安が胸をざわつかせた。万事屋への足取りが酷く重たく、まるで体を引きずるように感じる。手の中にある荷物は、食卓を囲む家族の夕食な筈なのに。
何かを。特別な何を自分は確かに感じて、自ら選んだ。あの背中を追っていきたいと。でもただそれだけで、何も知ろうとしていなかったのだ。
欲しがるばかりで、頼るばかりだったというんだろうか。そんなつもりはなかったのに、そういう気がして新八は泣きたくなる。
それでもあそこが間違いなく居場所で、このビニール袋をぶら下げて帰るのは万事屋だ。

帰るなり、玄関先で顔を見れば銀時にどうかしたのか?と聞かれた。もちろん話そうとしたって上手く話せやしなかったし、すぐに見破られるかのようにかけられた言葉に新八は苛立ってしまった。自分の中でそれを隠そうとした部分もあったのに、それすら出来ない。
「べ、別に」
「……、なんだよ。帰りが遅いから心配してやったのに」
その言葉に、すぐに自分の勝手な思い込みだと気付いて新八は慌てて謝った。
「す、すいません。遅くなって」
「ま、それだけじゃねぇみてえだけど」
ぽんと頭をたたかれて、その仕草にまた苛立ってしまう。
(自分は何も、教えてくれないくせに)
何を。
「…お前、今日は泊ってくか?遅くなるし」
銀時の言葉に新八は言葉を詰まらせる。確かに、いつもならこの時間になってしまったら泊ることの方が多い。だけど今日は、帰って一度気持ちの整理をつけたかった。
「僕」
そう言いかけると、玄関から銀時が出ていこうとする。
「ちょっ、銀さん。これから出かけるんですか?」
「そ、ヤボ用なの」
「夕食は?」
「てきとーにとっといてよ」
がらりと扉はしめられ、その背中を見送るしか出来なかった。

もちろん神楽を一人にしておくのも心配で、新八は泊った。銀時がいないことでいくらか気持ちは落ち着くかと思ったのに、銀時がいない中ここへ泊ったのが余計に新八の気持ちを混沌とさせた。
眠れない。眠れる筈もない。
時計の秒針が音を刻むたびに、胸が痛む。
苛立ちが収まることはなく、結局新八は布団をはいだ。そのまま、外の通りが見渡せる窓を開ける。夜の街は静けさとは無縁で、外の通りはそれなりに騒がしく、灯りが見える。夜は、いつ訪れるのだろうか。
(いつ、帰って来るんだよ)
何でこんなにも自分は、今になって気になるのだろうか。
唯一知らない時間は、夜。銀時が飲みにいくと夜の街に消える場所に、自分がついていくことはない。そもそも酒も飲めないので、誘われたことだってない。
どうせ酒も飲めない、子供だ。
「くそっ」
枕を放り投げると、気の抜けた音だけ返って来たが、外の騒がしさにかき消されてしまう。
桂さんに聞いてみようか、と考えた。あの人の過去を知っていそうな人物を、新八は思い浮かべたが意味がなかった。本人から、銀時の口からそれが聞きたかったのだ。
遠くに感じる。
埋まらない何かが追い詰めてくる。
膝をかかえて、子供のようにうずくまる。じわりと目頭を熱くさせた、その時だった。
がらりと乱暴に扉が開かれる音が響いた。
作品名:Hitze〔銀新〕 作家名:マキナ