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7/18 新刊 pressure game(虎兎)

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眼下に広がるシュテルンビルトの夜景を独り占めするかのように眺め、虎徹は大きく息を吐いた。
昔水害で苦しめられたこの街は三層構造へと形成され、少し嫌味とも取れるような地区わけがされている。上層が富裕層が暮らすゴールドステージで、その下に中流層のシルバーステージがあり、最下層に当たるのが下流層の居るブロンズステージ。
そのネーミングからしてはっきりと違いをわからせようとしている。正直言って少し気に食わないと思うが、それでもこのシュテルンビルトが虎徹たちヒーローが守るべき場所だ。
今虎徹がいるのは、そのゴールドステージすら見渡せるビルの屋上だ。その縁のギリギリに座り込んで、足はすでに宙の上。
多分バランスでも崩して落ちれば普通は死んでしまうだろうが、このスーツを着ている場合は命までは奪われないだろう。何より、落ちるなんてヘマをするつもりは虎徹にはない。
仕事を終えたばかりでスーツが暑苦しかったが、頭部を覆う部分だけ脱ぎ捨て屋上へ転がしといた。
虎徹の黒髪が暴れるように風に揺らされている。夜風が顔に当たって幾分マシになってきたところだ。
「はー、あちぃな…」
視線を下へと向けたが、ブロンズステージはここからじゃ薄暗くて見えない。ゴールドステージがもたらす夜景の光が眩しいほど輝いて幻のようだ。
「夜景なんか眺めてる場合ですか」
後ろから聞きなれた声が呼びかけてくる。呆れたような、それでいてどこか諦めているこの口調はもう何度も耳にしていた。この若者の年の割りに丁重な敬語もすでにクセになってきた。
「なあ、お前この街の名前の意味って知ってるか?」
脈絡もなくバーナビーにそう尋ねるも、もはや慣れているのかこの聡明なパートナーはすぐに返答してくる。
「由来のことですか?きちんと調べたことはありませんけど、意味だけでいえば星座だったと思います。どこか外国の言葉ですけど」
「星座ねぇ…」
そう言われ、虎徹は顔を上げ視線を夜空へと向けたが、星座なんて呼べるような星はなかった。いくつか小さく光る星が数えるくらいにしか見えず、あとは真っ暗な空が広がるだけ。その中を飛ぶ飛行機の明かりのがよっぽど煌々たる輝きを放っている。
虎徹は黙って、その光を目で追った。
「それより、夜景よりもよっぽど僕には気になる光景が見えるんですが」
「あー、そうね」
虎徹は空を見上げたまま、視線をそちらには下ろさなかった。自分がしでかした事で、わざわざもう一度見て確認するまでもない。
「あれ、どうされるつもりですか」
その問いかけにいつもの苦笑を虎徹は返す。それでもう伝わるはずだ。
どうもこうもいつもと同じで、裁判によって虎徹が払うべき賠償金になるか判断されるだろうが、多分また支払うことになるだろう。
今回の犯人はかなりの人数で徒党を組み、銀行を襲った強盗犯だった。襲った銀行からなんと七台ものそれらしき逃亡犯の車が、いっせいにバラバラの方向へ猛スピードで逃走した。
ヒーロー達は手分けしてその車を撃退していったのだが、本当に金を持ち逃げしていたリーダー格を当てたのが虎徹とバーナビーだった。そこまでは良かったのだが、問題は車の止め方だ。バーナビーが止めるのも聞かず、先手必勝で虎徹はなんと能力を使用してそのまま車に蹴りを入れようとしたのだ。
タイミングが合えば悪くない攻撃と言えなくもなかったが、車のボンネットを狙ったはずが少し手前で虎徹の蹴りは炸裂し、結果税金をかけてつくられた道路は破壊され、飛び散った道路の破片が逃亡車のフロントガラスを盛大に割った。虎徹が蹴りを入れた道路は車の走行などとてもじゃないが無理になり、慌てて逃亡車は勢い良く道路にタイヤの痕を残して回転し、元来た道を走り出そうとしたが、それを手で押し切って止めたのがバーナビーだった。
逃亡する手段さえ奪ってしまえば犯人を捕まえるのは至極簡単で、つまりはわざわざ道路を破壊する必要はなかった。
「また言われますよ、正義の壊し屋さん」
十年近く背負ってきた看板だ。今更そんなこと気にするなら、とっくに虎徹は戦い方を変えているだろう。無駄だとわかっていながらバーナビーは告げたのだ。
それが虎徹の信念だということも、今では少し理解出来る。この男はポイントやヒーローとしての人気より、ただひたすらに市民を救うことを理念としている。それはわからなくないが、綺麗事と言ってしまえばそれまでだ。
実際、あの道路は整備されるまで通行止めになるだろう。それだって市民にとっては迷惑の一つになる。
それに、ことはそれだけで収まるわけじゃない。
「つーかよ、もっと早くに知らせてくれりゃいいものを、いったい何だってこんなに出動が遅れることになったんだよ」
虎徹がぼやくように言うと、その苛立ちを示すように夜風で乱れた髪を乱暴にがしがしとかく。
確かにいつもより、事件に対して対応の遅れを感じた。普段ならもっと早くに出動の連絡がアニエスから来てもおかしくないのに、七台の車はかなり分散され、逃亡していた後だった。
だが、その理由をバーナビーは知っている。
出動前、トレーニングセンターにある何台ものテレビが、今回襲われた銀行の近くでやっていたデモをニュースで流していたのだ。
ネクストに対する能力の使用禁止や、ヒーローTVの放映反対のデモ。
これは今に始まったことではない。
今より昔の方が、ずっとネクストに対して差別が大きかったのをバーナビーも知っている。
ヒーローアカデミーでもそのことは授業で習ったし、いつの時代も人は差別を無くすことは出来ない。それはネクストだけにあらず、歴史をちょっとでも紐解けばわかりきったこと。
人と見かけが違うだけで差別が起こるのだ。それが特殊な能力を持つ新人類となれば、拒絶反応は相当なものだろう。しかしネクストと呼ばれる能力者は年々増え、更にはその能力を使った犯罪者も出てくるとなれば、対応するのに最も適している存在は同じネクストとなる。
ヒーローTVのおかげで、今では街を守るヒーローとしてネクストは広く認識されるようになり、差別も減ってきた。
とはいえ、見えないところでは差別を受けたり、不気味がられたりすることだって数多くあるだろう。ヒーロー達だって今はそれぞれの企業の管理化に置かれた状態で、街を犯罪者や災害から守るという役割を与えられた存在だからこそ人気を獲得しているだけだ。
非常に繊細かつ解決の難しい問題を、今はTVショーの明るい世界に押し込め誤魔化してきたとも言える。本当は、いつこの問題が公になったっておかしくはないのだ。
特に虎徹のこの破壊行動は、ネクスト反対派にとっては批判する格好の材料になる。それをきっかけに、世間の矛先だっていつ批判に変わるかわからない。
「少しは自重してください。出動が遅れた理由、本当に知らないって言い張るつもりですか?」
カマをかけてみれば、やはり虎徹は黙って空を見上げたまま。
知らないわけがない。
普段、難しいことは面倒くさがってなのかわからないという態度を取るが、この男がそんなに無知なわけがないのはバーナビーにだってわかる。十年近くヒーローとして戦いを続け、生き残ってきたのだ。それなりに頭の回転だって早くなければ、数ある戦闘に対応出来るわけがない。