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7/18 新刊 pressure game(虎兎)

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しかも次々に相手が勝負から去り、ついにはプロまでその場に参加し、もはやバーナビーではどうやっても歯が立たないだろう心理戦がその場で繰り広げられるところまできていた。
信じられない。
あの、考えるより行動をモットーとしている虎徹とは思えない冷静さで、カードも相手も翻弄していた。いくら自分の手に自信があっても、相手がそれ以上じゃないという保証はどこにもない。だからこそ、バーナビーは勝負に出ても負けて、大量にチップを失うことがあった。そこが虎徹の言う、負けず嫌いの性格が出ている部分だろう。
けど虎徹はめったに読み間違えない。引き際も潔いもので、バーナビーは何度もどうしてフォールドするのかもどかしく思う場面だってあった。それでも相手の最終的な手を見れば、降りざるを得ない場面だったとわかる。
それが集中力なのか、それとも忍耐、またはもっと違うものなのか。
プロも打ち負かした虎徹は一度ゲームから離れ、一杯やるかとバーナビーを連れだってバーカウンターへと引き上げた。
虎徹は水割りを頼み、バーナビーはこれ以上アルコールを摂取するのを控えるためペリエを注文する。そしてすかさず、どういうことですかと質問した。
「どういうことって何だやぶから棒に」
ははっと軽く笑われて、正直腹が立った。このおっさん、また白を切り、はぐらかすつもりかと苛立つ。
「誤魔化さないで下さい。まさか運が良かったなんて一言で片付けるつもりじゃないでしょう?」
「……」
虎徹は黙ったままビールを飲む。だが、このままその強さの理由を聞かずに話を終わらせるつもりはバーナビーにはない。
「アニエスさんは、虎徹さんの腕を知ってて抜擢されたんですね」
「ま、そうなのかもな…」
「それで、いつ身に着けたんですか?」
「昔、まだ若かった頃の俺は、今以上に血気盛んだったんだよ。だから、賠償金も今以上に高額だった。しかも俺は大した蓄えもなく、会社もそれを負担するほど金銭的に余裕があったわけじゃない」
「それでポーカーを?」
「最初からポーカーを狙ってたわけじゃないんだがな。それでも色々試していく内に、俺にとってギャンブルの中でも確実に勝てるゲームはこれだと思ってな」
「あなただって、十分負けず嫌いじゃないですか」
「そうさ。だから勝てない手では勝負しない。早めにフォールドする」
「損失をどれだけ小さく抑えられるか、ですね。確かに…見事に徹底してましたね」
「確かに俺は負けず嫌いだ。だが、ポーカーっていうのは勝ち負けの数は勝負には何の意味もない。総合的な戦術とそれに伴う結果で勝ちは決まる。そしてポーカーにおいて勝つために必要なのは冷静さだ。それを失えば、一度カモにされる」
「おじさんから冷静さだなんて言葉が聞けるとは思いもしませんでしたよ」
「はは、そういじめるなよ。いい手がきたら勝負する。だがそれだって絶対じゃない。お前もやってみてわかっただろう」
「ええ、僕は挑発に乗り、大量にチップを賭け負けた。でもあなたは読み間違えない」
「場に出たカードは覚えておく。久々にやったから自信がなかったが、これはもうクセだな。すぐに感覚が戻った。そして何気ない会話、これまでのゲームの傾向から相手のクセを探る。そうして相手がどれだけの自信があるのか図れば、本当に自分が勝てるのかわかる。それに相手がこっちの作り出したクセに気付けば、逆にブラフで騙す」
聞けば聞くほど信じられなかった。横に座る男は、本当に虎徹なのか。
自分が止めるのも聞かず、無鉄砲に行動するくせに。
「が、まあ、相手が手練になればなるほど、読むのも騙すのも難しい。そうなれば結局は最後、自分の直感に従うしかない」
「直感ですか」
「そう運とは違う。自分の直感だ」
「それは確かにおじさんの得意分野だ」
「そうだ。だから俺は、ギャンブルの中でもポーカーが好きで、その瞬間がスリルがあってたまらない」
獰猛な獣が牙を向く。
虎徹の目がギラつき、バーナビーを見据えた。
確かにたまらない。
隣に座っていたバーナビーは、その視線を向けられ全身が震えた。恐怖ではない。虎徹の男の部分を垣間見た気がして、快感にも似た震えだった。
本当は知っていた。
ヒーローとして出動する時も、それはちらりと姿を覗かせる。
虎徹は確かに人助けを最優先にしているし、そこに嘘はないだろう。だが、それが狂気でないと誰が言える?己が傷つくことも、もしかしたらその命を奪われることすら意に介せずに立ち向かう。それは確かに理想のヒーローだと言えるが、無謀とも思える行動の中に絶対それがないとは言い切れない。
虎徹には最愛の娘がいて、守るべきものがある。そういう人がなりふりかまわず、あんな無謀な戦い方、本当は出来るはずがないのだ。だからきっと、そのすべてを凌駕して、その戦いに身を投じているに違いない。それが狂気でなくなんだというのか。
そしてそれを虎徹はセックスの際も時々見せる。優しい中にも、たがが外れると少し意地悪で乱暴で、何もかも奪われてしまうほどに求められた。
でもそれがたまらない。
きっとその時、虎徹は失ってしまった妻も、最愛の娘のことも考えないようにしているだろう。じゃなきゃ、あの優しい義理人情に厚い男が、自分とセックスするような関係になれるわけないのだ。
なんでこんな部分知ってしまったんだろうと、後悔するほどにそれはバーナビーを虎徹に夢中にさせた。
バーナビーには父親という存在が欠落している。正確にいえば、幼い頃しかその存在を知らず、以後彼はずっと一人だった。周りにはたくさんの年上の男はいたが、その誰もがそういった存在に成り代わることはなく、また関わり合いを持つこともなかった。そして二十四歳になった今、こちらの気持ちなどお構いなしに虎徹は自分を気にかけ、世話を焼いてきた。果たしてそれが父親という不在の穴を埋めるものだったのかはわからないが、確かに虎徹にかかればバーナビーはすぐに子供扱いされ、そしてそれを拒否しようにも気がつけば自分が子供だと思い知らされる。
ビールを煽り、狂気の沙汰とも思えるようなスリルを味わい自分を翻弄するくせに、彼はすでに愛しい妻を想い続け、最愛の娘の父親でもあることに変わりはないのだ。
底が知れない。
まだこの男にはきっといくつもの嘘や秘密があるような気がしてくる。自分の知らない顔をきっといくつも持ってるのだ。そう思うとますます夢中になってしまいそうで、悔しくて胸が掻き毟られるほど痛んだ。
別れは近い。
自分はそんな相手と駆け引きめいた恋愛をするほど、大人じゃないのだ。