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かくにんふよう

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「――思ってたより、まともだぜぇ」
 あの、自分のことさえも子ども扱いする童顔男のおおらかすぎる母親が、どんな作品をと思ったら、ガラスらしい淡色の藍色が混じる、涼しげな小ぶりのグラスだ。
「ふん。傷はないみたいだね。素人作でもちゃんと立つみたいだし、もらっておくよ」
「かあさんも喜ぶよ。そうだ、みんなの使ってるところ、写真で送ってあげようかなあ」
「撮るなら有料だよ」
「はあ゛?おまえら馬鹿かあ?そういうのはもらった奴がちゃんと向こうに礼をすんだろ。電話なり、カードなりおくりゃ済む話じゃねえか」
 思わず言ってしまった銀髪は、数秒間、子どもと童顔にそろって黙って見つめられ、自分の口を呪いたくなった。
「――さっすが・・・」
「やっぱり、本当は『おかあさん』だって噂は・・」
「ちょおおおっとまてえ。明らかにおかしい単語入ってんぞ。いいか?おれはただ ――」
「じゃあねツナヨシ。お茶の時間だから」
「あ、おれも用事すんだからもどろうっと」
「・・・てめえらあ・・」
「じゃあね、このお酒は、スクアーロのだからね」
「!?ま、まて!」
 押し付けてそのまま帰ろうとする童顔を止めると、再度「あ」と紙袋へ手を入れた。
「このグラス。よかったら。二つ残ってるから、一個おまえ」
「いらねえええええええ!!!おまえと揃いなんざ見つかってみろっ!!」
 あのガキどもならともかく、どんな恐ろしい仕打ちが待っているか・・・。
 童顔が、小さな箱を手に、嫌か、と眉を下げる。
 だから、そうじゃなくて ―――。
「――わかった。なら、残りの二つのグラスはおれがもらう」
「え?ふたつとも?」
「日本じゃよく、ちっちぇえグラスで向かい合って酒を呑むんだろ?」
「ああ、サシで? ――いいねえ。じゃあやっぱりこれは、あいつにやらないで、冷やそうよ」
「・・・お前、いつ暇・・・いや、ちゃんと仕事終わるんだあ?」
「今夜来るよ。月見酒する?天気もいいし、きっといい空だよ。――あ 」
 童顔は、珍しくゆっくり漂うように去ろうとする子どもの背に声をかける。
「マーモンも、そのグラス持って集合だぞ!」
「 ――― 」
 ぴたりと止まった子どもは肩越しに小さな顔をむけた。
「――三十分。無料にしてあげるよ。見つかると他がうるさそうだし」
「え?目隠ししてくれるの?やったあ!」
 万歳しちゃう童顔は、そのまま駆け寄り抱き上げた子に、『延長』を頼み込む。
「三十分じゃ足りないなあ・・・」
「有料だよ」
「じゃあ、延長分は、―― ワリカンな」
 童顔が視線を送れば、銀髪が口を曲げる。
「冗談じゃねえぜぇ。―― 福利厚生で必要経費だあ」
「っさっすが!!おか」
「っるせえええええ!!!」
「ぼくの口座に直に振り込んでよね」
 
     
 楽しげな童顔は子どもを抱えているので、銀髪は深く考えもせずその男が持つ紙袋を持ってやり、ちょっと珍しい組合せの三人組がひそひそ顔を寄せながら廊下を進むのを、部下達は壁に身をよせて見送る。
 ふ、と足を止めた銀髪大音声隊長が、思い出したように紙袋に手をいれ、ビビる部下たちに日本酒のビンを渡す。
「そっちの方で冷やしておけ。見つかるなよ。―― おまえら、暇でしかたなかったら、今夜二十二時、北館の裏に来い。各自持ち寄りだあ。わかったな?」
「あ、参加費はぼくの口座に」
「嘘つくな。みんなよかったら一緒に飲もうよ。お祝いも兼ねてるし、たくさん人がいたほうが楽しいし。な?」
 同意を求められた子どもはいつものように口をむっつりとつぐみ、肩をすくめてみせた。
「そのかわり、他の幹部連中には極秘!あいつらが来ると収集つかなくなるから」
 よろしくね、と手を振る年齢不詳男にむっつりしたまま抱えられた子どもと、紙袋を持つ銀髪を見送り、部下の一人が言う。
 
「・・おれの、ねえちゃんとこってあんな感じの家族・・・」
 
 子どもを抱える童顔に、銀髪が顔を身をかがめるように顔を寄せ、話をしている。
 実際の構成はともかく、雰囲気はよくある『家族』にみえた。
 
 ――― この日から、誰かさんのポジションは『おかあさん』から『おとうさん』になるのだが、本人はやっぱり知らないままで、ときおりふらりとやって来る本体のボスも、自分がなんと思われているか、知らないままだ。
 

「・・ぼくが子ども役っていうのが気に入らない」
「なに?マーモン」
「なんでもない。ところで、この前のお月見会、画像が欲しかったら売ってあげるよ」
「ああ、それなんだけど・・・おれのかあさんのところに、差出人不明の楽しそうな写真がメールで送られてきたんだってさ。・・・『ありがとう』って言葉つきで」
「・・・・・・・」
「おれに、――請求してもいいよ」
「・・・・『無料配信中』だったんだよ」
「そう? ―― ありがとう」
 
 子どもはいつものように口をとがらせジュースのはいったグラスに口をつける。
 昨日から突然、遠方への出張を(ガラスの灰皿といっしょに)命じられた銀髪は、きっと、上司にもらしたのを恨んでいることだろう。
 
     空はアオ。
       今日もいい天気。
  
「―今日もいい天気だねえ」
 同じように窓の外を見上げた童顔が、ペンを放り投げてたくらんだ笑顔をむけてくる。

 
   ――― お気に入りのグラスの中、からん、と氷が涼しく鳴った。
 
 
 
 
 
                      暑中お見舞い 申しあげます


作品名:かくにんふよう 作家名:シチ