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稜(りょう)
稜(りょう)
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【独伊♀】Your Knight 2【サンプル】

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恋とはどんなものかしら



 梅雨が明けて、連日、猛暑が続いている。
 アスファルトからは陽炎(かげろう)が立ちのぼっている。目を刺すような陽射しに耐えられず、運転席のサンバイザーを下ろした。後部座席のフェリシアーナは日焼け止めを腕や首に塗っている。赤信号で停止した間に水を飲むと、声をかけられた。
「それ、もらってもいい?」
 少しひるんだ。彼女に飲ませること自体に抵抗はない。だが、問題はそこではなく。
「私が口をつけてしまったのですが」
「知ってるよ?」
 間接キスだと伝えたかったのだが、彼女の方はかまわないらしい。それならこちらも気にすることはないはずなのに、複雑だった。彼女が飲むのを見なかったのはちょうど青信号になって発進したからだ。それだけだ。
 角を曲がると大きな観覧車が見えた。これから向かう遊園地のシンボルだ。運転席と助手席の間から彼女が身を乗り出す。瞳は期待で輝いている。
「早く遊びたいな」
 彼女はいてもたってもいられない様子でうずうずしている。
「もしお帰りが遅くなるときはご連絡ください」
「うん。ねぇ、せっかくだからルーイも来る?」
 無邪気に彼女は言うが、そういうわけにはいかない。
「いえ、私は待機します」
「そう……。暑いから気をつけてね」
「はい。ありがとうございます」
 そのままの体勢で彼女は携帯電話をいじりはじめた。揺れるストラップについている青い透明な石には見覚えがある。ちらちらと見ていると、視線に気づかれた。
「これは、海に行ったときに拾った海ガラスだよ」
「そうでしたか」
「お友だちがストラップにしてくれたんだ」
 メールを送ると、携帯電話を握りこんでため息をつく。バックミラーを見ながらそわそわと前髪を直したり、表情を作ったりする。
「ねぇ、ルーイ」
「はい」
「私、かわいい?」
 苦いものが胸に満ちた。彼女が見た目を気にする理由がよくわかるからだ。
 ――俺は、ただのボディーガードだ。
 自分に言い聞かせても、まだしこりが残っている。そのせいですぐには答えられなかった。
「かわいくない?」
「そんなことはありません」
「じゃあかわいい?」
「……はい」
「ありがとう! ルーイにそう言ってもらえたら、今日のデートも、うまくいく気がする」

*

「遅れてごめん!」
 ゲートの近くの柱にもたれかかってるアルフレッドに駆け寄りながら謝った。つばのついたキャップと眼鏡を外して汗をふいてる。こんなに暑いのに待たせちゃったなんて。バッグから水筒を出して渡すとうれしそうにごくごく飲んだ。
「本当にごめんね」
「俺も今来たばかりさ! そんなことより、今日も君はかわいいね! びっくりしたよ!」
 オーバーに驚いたジェスチャーをして見せる。おかしくてくすぐったくて、笑ってしまう。
「ありがと。うそでもうれしい」
「俺はうそを言わないんだぞ!」
 ふざけ合いながら、チケットを買って入場する。休日だからか、やっぱり人が多い。陽射しが強くて日傘を広げた。
「はぐれちゃいそうだね」
 本気じゃなかったのに、そう言ったら肩を引き寄せられた。びっくりして落としそうになった傘の柄を取って、中に入ってくる。
「こうすれば大丈夫さ」
 こういうのって恋人っぽい。そう思って、本当に恋人だったことを思い出す。付き合ってまだ三日めだからちっとも実感がない。
 告白はアルフレッドの方からだった。映画サークルでよく会ってたし話もしてたけど、「友だち」としか思ってなかった。それなのにいきなりそんなことを言うから、からかわれてるのかなって最初は思った。だけど彼は本気だった。
『二人で出かけたり一緒にご飯を食べたり、そういう関係からでいいんだ! どうかな?』
『それなら、いいよ』
 「友だち」としてならともかく、「恋人」としてはピンと来ないけど、明るくてにぎやかなところはきらいじゃなかった。むしろ、一緒にわいわいできる人はすき。
 もう一つの理由は、恋人がほしいなってずっと思ってたから。恋愛がテーマの漫画やドラマを見ると、私もあんな恋がしたくてどきどきした。運命や世界を変えるほどすごいものじゃなくてもいいから、胸がときめく甘酸っぱさを体験してみたかった。
 だから、アルフレッドが「恋人」になってすごくうれしかった。一番最初に言ったのはルーイだった。すごくびっくりしてた。あんなに驚いた顔ははじめて見た気がする。すぐにいつのも顔に戻って、「おめでとうございます」って言ってくれた。
 どうしてなんだろう。そのとき……ぜんぜんうれしくなかった。ルーイがお祝い以外のことを言うはずがないのに。私、なにを期待してたの? どんな反応なら満足したの、って訊(き)かれると、それはそれで困っちゃうくせに。
 ……キスのことは、本当にただの勘違いだったのかも。顔になにかついてたとかで、深い意味なんてなくて。そう考えれば納得いくほど、あのあとはものすごく普通の態度だったし。気にしてるのは私だけで、もうルーイは忘れちゃってるのかもしれない。
 ――だけど私は、ルーイのこと。
 首を振った。今は、ルーイのことを考えるのはやめよう。せっかくの休日に、恋人と――アルフレッドと遊んでるんだから、そっちに集中しないと。
「どこに行くー?」
「俺は全部行ったことがあるから、君が行きたいところでいいよ」
 そう言われると悩む。だって行ってみたいところが多すぎる。パンフレットを見てると、みんな面白そうだもん。
「どうしようかなぁ」
「じゃあ、あれに乗ってみないかい?」
 アルフレッドはレールがぐにゃぐにゃしてるジェットコースターを指差した。子どもみたいに目がキラキラしてる。
「いつも来るたびに乗ってるけど、本当にエキサイティングだよ!」
「そうなんだ」
 ジェットコースターのある遊園地に行ったことは何回かあるけど乗ったことはない。友だちと来たときは並ぶのが大変だから、ってパスしてたし、姉ちゃんと来たときは「あんなんに乗る奴の気がしれねぇ」って言うから乗らなかった。興味はあるんだけど。
「ラストの長い下り坂で撮影されるとき、バーから手を放すのが最高にクールなのさ!」
「危ないよー」
「真似しないでくれよ!」
 そういうわけで、ジェットコースターの列に並んだ。待ち時間が長いから話題がつきて気まずくなったらどうしようかなって思ってたけど、そんなことなかった。高校生のときの話で笑ったり、映画の話をしたり、大学の話をしたり、すごく楽しい。男の子ならではの視点や意見もあって面白い。「友だち」だったときとなにも変わらないけど。
 アルフレッドはデートに慣れてるみたいだった。カッコいいし、背も高いし、親切だし、話も面白い。色んな彼女と色んなところにデートに行ったんだろうなぁ、って感じがした。
 ――なんで私は平気なのかな。
 だって、物語には、彼氏の元カノに嫉妬する話がたくさんあった。嫌がらせのメールを送ったり電話したり。嫌がらせまではしないけど、嫌な気分になるって言う友だちもいた。そのときは理解できなかったし、今もそう。
 「恋人」になったばかりだから? もうちょっとしたら、そんな気持ちになるの?
「そろそろだよ」
「あ、うん」