二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
稜(りょう)
稜(りょう)
novelistID. 11587
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

【独伊♀】Your Knight 2【サンプル】

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 

 数人前に並んでたグループがコースターに乗ってる。安全バーが下がると、するすると動き出す。係員さんの指示で列を詰める。もう少しで私たちの番。
 コースを見ると、発進してすぐ坂をのぼって、そこから急降下。それから一回転して、また坂をのぼって、らせん状にループしたあとは水面に飛びこむ。
 案外こわそうだな、って思ってたら、ものすごい絶叫が聞こえた。ジェットコースターに乗ってた人たちの声だ。ざあっと血の気が引いた。
「ど、どうしよう……」
「どうしたんだい?」
「こわいよ……乗りたくない」
「えっ!?」
 アルフレッドはものすごくびっくりした声を出した。また次がやって来て、前の人たちが乗りこむ。次は私たちの番。コースターに近づいて、足がすくんだ。
「やっと順番が来たのに」
「わかってるけど……でもやっぱり無理だよ。こわい」
「大丈夫だよ。俺がついてるじゃないか! こわいことなんてないんだぞ!」
 そう言われても、恐怖は消えなかった。どうしたらいいのかわからなくて涙が浮かぶ。
「ごめんね。もう、乗りたくない」
「……」
 係員さんが近づいてきて、私たちに訊(たず)ねた。
「どうなさいましたか」
 せっかく順番がやってきたのに巻き添えにするのは申しわけなくて、精一杯言った。
「乗りたいなら乗っていいよ。私、待ってるから」
 目をこすって涙をふいてたら手を握られた。
「俺たちは帰るから、次の人に譲ってくれるかい?」
「わかりました。では、あちらからご退場ください」
 手を引かれるまま、ついて行った。アトラクションの建物を出てもなにも言えなかった。
 楽しみにしてたみたいなのに、私のワガママのせいでアルフレッドまで乗れなくなっちゃった。怒ってるかな。そりゃあ怒るよね。どうしよう。
「ご、ごめ――」
「ごめんね!」
「え……」
 どうしてアルフレッドが謝るんだろう。なんにも悪いことしてないのに。私の方が迷惑かけちゃったのに。びっくりして涙が止まった。
「君がこわがってるのもわからなかったなんて、彼氏失格だよ。ごめんね」
「そんなことない。むしろ、私の方が彼女失格なのに」
「君の言っていることがわからないよ」
「だって――」
「シーッ」
 人差し指が唇に当てられて、なにも言えなくなる。笑顔でウインクしながら、アルフレッドはポケットをごそごそ探っていた。失敗した、って表情になる。
「ハンカチを忘れちゃったよ……カッコ悪いな」
 首を振って、バッグから自分のハンカチを取り出す。近くのベンチに座って涙をふいて、大きく深呼吸したら気持ちが落ち着いた。
「どうして乗らなかったの?」
「一人で乗ったってつまんないじゃないか! それに、泣いてる女の子を放り出して一人だけ楽しむなんて、ポリシーに反するんだぞ!」
「……ありがとう」
 そう言うと、照れたように笑った。


 色んなアトラクションを回ってたらものすごくお腹がぺこぺこになった。
 木漏れ日の綺麗なベンチに座ってお弁当を広げる。アルフレッドは一口食べて、「すごくおいしいよ!」と言ってくれた。うれしいんだけど照れくさい。
「ありがと。お茶もあるよー」
 水筒からお茶をコップに注ぐ。振り向きながら、差し出した。
「はい、ルーイ。どうぞ」
 アルフレッドは変な顔をした。なんで? すぐには理由がわからなかった。自分のセリフを思い出して、ようやく失言に気づく。
 私、無意識に「ルーイ」って呼んでた。
「ごめんね!」
 いつものくせで呼んじゃったんだ。私の隣にいるのはルーイじゃないのに。
「気にすることないさ! 間違いは誰にだってあるからね!」
「本当にごめんね」
 デート中はルーイのこと考えないようにしてたのに、それでも名前を呼び間違えるなんて。サンドイッチをむしゃむしゃしながら、アルフレッドが訊ねる。
「ところで、ルーイって誰だい?」
「私のボディーガード。すごくムキムキで、真面目で、やさしい人だよ」
 思い出すだけで笑顔になってる私がいた。海ガラスのストラップを握りこむ。
「間違えるほど似てるのかい?」
「ぜんっぜん。金髪で目が青いってところ以外、共通点なんて」
 ルーイは、会うなり「かわいい」って言ったり、手放しに料理を褒めてくれたり、一緒にはしゃいだりなんてしてくれない。いつも真面目な顔でなかなか笑ってくれない。
 ――ああ、そっか。
 ボディーガードは恋人じゃない。だからキスもしない。当たり前のことなのに、なんで今まで気づかなかったんだろう。
 勘違いしてたんだ、私。いつもそばにいてくれたから、ルーイのこと、恋人みたいに思ってた。本当はそんなこと全然ないのに。ルーイは私のこと、「お嬢様」としか思ってないのに。
 だけど私は、ルーイと一緒だったら、ジェットコースターに乗ったはず。どんなにこわそうに見えても、ルーイとなら平気だった。こわくなんてなかった。アルフレッドとじゃ、こわさの方が強くて乗れなかったのに。
 ――想ってるのは私だけなの?
 そう考えたらさびしくて、泣きそうになる。胸に塊がつかえたみたいに苦しい。お茶を飲んでみてもまだ消えなくて、ずっとそこでくすぶってる。
「先生を『お母さん』って呼んじゃう感じかい?」
「そうかも」
 だけど、逆に、ルーイを「アルフレッド」なんて呼んだりはしない。絶対に。
 確信できてしまうのが後ろめたかった。


 帰る予定の時間がとっくに過ぎてるのも、ルーイが何度も電話をかけてきてるのも、知ってた。だけど知らんふり。だって、今向き合ったらきっともやもやしちゃう。だからメールも送らないまま、ケータイはバッグの底にしまいこんだ。
「いいのかい?」
 アルフレッドの方が私よりも心配そうにしてる。うなずいて、握られた手の指先に力をこめる。本心を見抜かれるのがこわくて視線を落とした。
「……まだ帰りたくない」
「それなら、とことん付き合うよ」
「うん」
 ルーイならきっと叱る。それがルーイのやさしさだから。だけどあんなにやさしいのに私のことはなんとも思ってないんだ。……それなら会いたくない。
 アルフレッドと腕を組んで、ゆっくりと園内を歩いた。夜のパレードは終わってるから人はまばら。イルミネーションのきらめく建物やメリーゴーランドが幻想的で、昼とは違う場所みたい。立ち止まって、写メを撮ったり、じっとながめたりした。
「あ、忘れてた!」
 時間を確認したアルフレッドは、急にあせった様子で、どこかに向かって大またで歩き出した。歩幅の大きさが違うから小走りになって追いかける。
「どうしたの?」
「説明はあとでするから、ちょっと急いでほしいんだ。あと数分しかない」
 なんのことだろう。わからなかったけど、アルフレッドの口調とか表情で、なにかとっても楽しいことがあるんだって想像がついた。どんなのなのかな。
 到着したのはゲート前の噴水だった。ライトアップされた中央のモニュメントからとくとくと水があふれて、ちょっとした滝を作って池を満たしている。どうしてここに来たがったんだろう。なにがあるわけでもないのに。
「ねぇ、なにがあるの?」
 時計の秒針を凝視してるアルフレッドに声をかける。そしたら時計を見せてくれた。