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稜(りょう)
稜(りょう)
novelistID. 11587
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【独伊♀】Your Knight 2【サンプル】

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「秒針が十二ぴったりになったら噴水を見てくれるかい」
「わかった」
「じゃあ、カウントするよ。十、九、八、七、六、五、四、三、二、一――」
 闇が訪れた。
 突然だったからなにが起こったのかすぐにはわからなかった。噴水のライトや周囲の街灯が一斉に消えたんだ、って気づくころにはすぐにそんなことどうでもよくなった。
 七色の水が噴水から流れている。水面に虹ができたかと思うと、一色ごとにリボンみたいに束ねられて、今度は七本のリボンで編み物がはじまる。
 水と光のイリュージョンを、息をのんで見つめていたら肩を引き寄せられた。
「綺麗だろ?」
「うん、すごく!」
「定時になるとこれがはじまるんだ。君に見せたくて」
「ありがとう」
 こんなアトラクションがあるなんて知らなかった。みんなにも教えてあげなくちゃ。一番最初に教えたいのは、……。
 やっぱり、ルーイだった。
 このデートが終わってすぐ会うのがルーイだからってだけじゃない。うれしくてわくわくすることだから、特別な人に真っ先に教えたい。
 なにかがわかりかけてきてる気がする。今まで、気づかずにいたこと。
 水の柱が七つ立って、めまぐるしく色を変えていく。綺麗なんだけど目がちかちかする。まばたきしてたら、私に合わせてかがんだアルフレッドの顔が近づいてきた。
「そのまま、目を閉じていてくれるかい」
「え……」
 唇と唇の距離が狭まる。キスされるんだって、わかった。もちろん口と口で。今度は私の勘違いじゃない、はず。だって、肩をつかんでる手が熱い。
 ――ルーイ。
 目の奥で青がまたたく。海ガラスよりもずっと綺麗な色の瞳。眼差しに押されてまぶたを閉じて、呼吸が混ざって、死んじゃうのかと思うくらい心臓がどきどきして、だけど、ルーイなら嫌じゃなかった。ルーイならいいと思った。
 頭の中は今にもキスしそうなアルフレッドじゃなくて、ここにいないルーイのことばかり。
 どうして私はこんなときもルーイのことを考えてるんだろう。ルーイは関係ない。それに、私が誰と付き合って誰とキスしても、ルーイはなんにも言わない。
 ――そんなの嫌だよ。だって、私は。
 もう少しで、ふれる。唇と唇が。私と私の心が。
 ――私は、ルーイのことが。
「っ……や」
 再びあたりが暗闇に包まれた直後にふれたのは、唇と手だった。肩から手がどいた。一歩後ろに退いて距離を取る。光が戻って、じっと私を見てるアルフレッドの姿が明らかになる。
「……」
 アルフレッドはなにも言わない。いつもおしゃべりだから、余計にこわかった。きっと怒ってる。あんなにいいムードだったのにしなかったなんて、ショックだったと思う。
 今日一日デートしてみて、今まで知らなかった色んなアルフレッドが見えた。一緒にいてわくわくしたし、すごく楽しかった。それにやさしくて、とてもいい人。「友だち」としてだけじゃなくて、「恋人」としても完璧だった。
 ――だけど、違うんだ。
「ごめん」
 声がふるえる。自分で自分を抱いた。これから言おうとしてるのがひどいことだってわかってる。だけど、もうこれ以上、こんなこと続けちゃいけない。
 ボディーガードをフランシス兄ちゃんからルーイに変えるって決めたときのことを思い出した。罪悪感と、それでも曲げられない気持ちが胸の中でざわざわする。
 あのときは、ルーイの笑った顔が見たかった。それだけだったのに。
「私やっぱり、貴方のこと、『友だち』としか思えない」
 なんでもっと早く気づかなかったんだろう。色んな人を振り回して、迷惑をかけて。
 ……だけど、気づいてしまったら、もう無視できない。
「どうしても?」
「……ごめんなさい」
「そっか」
 アルフレッドは髪をかき上げた。大きくため息をついて、眼鏡を外してシャツの胸ポケットにしまう。素顔がやけに幼く見えた。同じ歳の男の子なんだ、って今さらみたいに思った。
「なんとなく、そんな気はしてたよ」
「えっ?」
 びっくりしたら、苦笑された。声にはあきらめと吹っ切れた感じが混ざっている。
「俺じゃない誰かのこと考えてるなって、わかってたんだ」
 ぎくっとした。その通りだったから。私は、自分が思うよりもずっと残酷なことをしたのかもしれない。後悔が押し寄せて呑まれそうになる。
「ごめんなさい」
「謝らないでくれ」
「でも」
「今、すごくみじめな気分なんだ。謝られるともっとひどくなる」
 拒絶する口調に打ちのめされる。泣きたくなるなんてすごくワガママだ。
 だって私が悪い。自分の気持ちを知らないでふらふらしてた。そのせいでアルフレッドにひどいことしたくせに泣いちゃダメだ。
「……ありがとう」
 そう言ったら驚いたみたいだった。だけど、明るい笑顔を見せてくれる。
 すごく素敵な人。やさしくて強い人。……ルーイと同じだけど、違う。フランシス兄ちゃんを選ばなかったのも同じ。
 私は、ルーイじゃなくちゃダメなんだ。
「今日はすごく楽しかった」
「俺もさ。……じゃあ、また、サークルで」
「うん」
 軽く手を振って、アルフレッドはアトラクションのあるゾーンへ行ってしまった。まだ遊ぶんだって思いながら、姿が見えなくなるまで見送った。なんの罪滅ぼしにもならないけど、せめてこれくらいしなくちゃ。
 長くため息を吐き出して、ゲートに向かった。退場口を抜けて、ルーイに連絡するためにバッグの中からケータイを探す。
「お嬢様」
 電話どころかまだケータイすら見つかってないのに、目の前にルーイが立っていた。もしかしたら少し前からゲートの近くで待ってたのかも。……アルフレッドにキスされそうになったところ、見てたのかな。
 気になったけど、今は、そばにいるのがひたすらうれしい。
「遅れるならご連絡を――」
「ルーイ!」
 ぎゅっと抱きついた。厚くてたくましい胸板に顔を押しつけるとすごくほっとする。しっかりアイロンがあてられたワイシャツに、ほんのり感じる整髪料のにおい。胸がどきどきする。この人でなくちゃダメなんだって叫んでる。
「ルーイは、私のナイトだよね?」
 いきなりこんなこと訊かれて、ルーイは戸惑ったみたいだった。沈黙の長さに不安になって手を取る。大きくてあたたかい手。
「守ってくれるよね?」
 ルーイはようやく私を見た。海ガラスみたいな綺麗な青。ほっとして、なんだか泣きそうになる。私の手を両手で包んで微笑んでくれる。
「はい」
「ずっとそばにいてね。約束だよ」
 今日のこと、絶対に忘れない。ようやくたどり着いた気持ち。

 私は、ルーイのことがすき。