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【Alwaysシリーズ 4】 Sweet home

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休日のその日は朝から雨で、何も予定がなかった。

朝食の皿洗いを終えてハリーがリビングへと戻ってくると、ドラコは白い犬のマロニエを隣に侍らせて、ゆっくりとソファーでくつろいでいた。
ふわりと長くて美しい毛並みに茶色の斑点を散らせたイングリッシュ・セターと、プラチナの髪にシンプルなシャツのドラコとのコントラストは、本当に目を細めるほど優美だった。

ドラコは伸びすぎた前髪をかき上げたまま、視線を下に落として俯いている。
他の犬たちもおとなしく彼の足元で、銘々に好きなポーズで寝そべっていた。

ハリーはマロニエを端に寄せると、ずうずうしく空いた部分に自分がちゃかりと割り込む。
そう広くないソファーで肩をぶつけるほどにじり寄り、ハリーは隣をのぞきこんだ。
ドラコの手には見慣れたドラゴンエンブレム入りの便箋が握られている。

「――何、また手紙なの?君の実家から?」
相手は相変わらず顔を上げることはせず、視線を下に落としたままそれに目を通していた。
「ああ、さっきフクロウ便で届いたんだ。早く帰ってこいってさ。いつもどおりの内容だよ。魔法界に帰ってくるなら、僕の出す条件は何でも飲むって。たった一人の跡取りだから、相手も必死みたいだ」
そして最後まで目を通すと、やれやれ……という感じでそれを折りたたみつつ首を振る。

「以前、黒髪の女性を断ったら、今度は黒髪で眼鏡の相手を紹介してきたよ。もしこれも断ったら、次はきっと黒髪に眼鏡で、しかも緑の瞳の相手になるかもしれないな。それもキャンセルしてずっと断り続けて屋敷に帰らなかったら、最終的には黒髪で眼鏡をかけて緑の瞳で、しかも男性を僕の相手に見つけてくるかもしれないぞ」
「――でも譲歩しまくっても、その相手は僕じゃないんだ」
「そう、でも僕の相手は絶対に君じゃないらしい」

 やっと手紙から視線を上げて、ハリーを見て微笑む。
「全く分かってないよ、僕の親は」
 腕を伸ばし、相手の黒髪に指を突っ込みクシュと撫でる。

「僕の欲しいのは、ただひとつだけなのに」
薄いブルーグレーの瞳で覗き込み、意味深に口の端を上げてニッと笑う。
ハリーはその言葉と指先のくすぐったさに、嬉しそうに相手を抱きしめた。




ぼんやりと窓の外を見上げると、ビルのあいだからのぞく空は灰色で、窓ガラスにはポツポツと水滴が付き、それが下へと流れている。

「今日の予定はないし、これからいっしょにバスルームへ入らないか、ハリー?」
突然思いついたようにドラコは声をかける。
「……今から?」
「今から」
「まだ朝だし、午前中なのに?」
「ああ、ぜひお願いしたいね」
「そういうお願いは、僕としてもやぶさかじゃないけどね」
と答えるやいなやソファーから立ち上がり、ドラコの目の前でシャツを脱ぎ始める。
ご機嫌で鼻歌を歌いつつ、ズボンのジッパーにも手をかけた。

いきなり着ている服を全部脱ごうとした相手に、ドラコが慌てて
「ああ、そのままでいいよ。ズボンまで脱ぐな」と釘を刺した。
「なんで?お風呂に入るのに」
「とりあえず濡れるけど、それくらいは身に着けておかないと……」
そう答えて首を傾げるハリーを先にバスルームへと押し込む。

風呂へお湯を張ろうとか思っていると、ドラコが洋服のまますぐに入ってきた。
しかも茶色のゴールドまでいっしょだ。
「――なんで服を着ているの?しかも犬つき?そういうプレイなの?」
「……はぁ、いったい何カンチガイしているんだ?」
ドラコは大げさにため息をつく。

「今からふたりで犬を洗うんだよ。せっかくの日曜だし、予定も何もないからシャンプーしようかと思って。五匹もいるから、手早くしないと昼食の時間までに終わらないぞ」
「なんで今日なの?雨が降っているから湿気も多くて乾きにくいよ」
はりきって服まで脱いで上半身を裸のまま用意万端だったハリーは、がっかりした顔を隠せない。

「雨でもいいんだ。せっかく二人いるんだし、今のうちにとりあえず洗って、丁寧にタオルドライすれば乾くだろ?」
「そりゃあ、乾くと思うけど……」
ムッとした顔のままで、まだハリーは不満そうだ。

ゴールドは風呂を見て身の危険を感じたのか、慌ててそこから逃走しようとした。
ドラコは逃すものかと、赤い犬の首輪を捕まえて、バスの中へ放り込もうとしている。
相手は大型犬だから簡単にはコトは進まなくて、かなり手間取っていた。

「ハリー、お前いったい何しているんだ?さっさと手伝えよ!」
ゴールドが逃げ出そうと太い前足をバタバタさせて大暴れているのを必死で押さえつけてドラコは、ぼんやりと見物して隣に突っ立ているハリーに、キレ気味に声をかける。
「―――ああ、うん分かった」
答えつつも、ハリーは今ひとつ浮かない顔だ。

(僕に期待させておいて、いつもこうだ。まったく!)
とでも言いたそうな表情でしぶしぶと相手の横に座り込み、犬の大きな体をいっしょに押さえる。

バスタブの中にやっと納まったゴールドに満足しつつ、次にドラコはシャワーを出して、いきなり頭からお湯をかけようとしてきたので、慌ててハリーはそれをとめた。
「ダメだよ、ドラコ。いきなり頭からシャワーをかけると犬はびっくりするから、腰からゆっくりとかけて馴らしていくんだ」
「―――えっ、そうなのか?」
驚いた顔で相手を見る。
「うん、そうだよ。犬は元から泳げるから水を被るのは嫌がらないけど、そのシャワーの音が苦手なんだよ。耳がいいから音におびえるんだ」
「よく知っているな」
「五年も飼い続けてきたんだから、それぐらいは常識だよ」

その言葉にドラコは感心したようだ。
「ああ、それでこの前一人のとき失敗したんだ。時間があったから洗おうとして、シャワーをかけたら犬が派手に暴れて、バスルームで追いかけて転んで、本当に大変だったんだ」
「帰宅したら君がおでこに青あざを付けていたのは、そのせいだったの?」
コクリとドラコはうなずく。
ハリーは相手のその神妙な顔つきに噴出し笑った。

シャワーを適温に調整すると、ハリーは慣れた手つきで犬をゆっくりと濡らして、シャンプーで泡まみれにしていく。
マッサージされると気持ちいいのか、すぐにグズっていた犬はバスの中でおとなしくなった。

「もし大変だったら、これから犬の世話はしなくていいよ。僕はこういうことに慣れているから、自分が面倒をみるよ」
「いや、僕は自分が世話をしたいからするだけだ」
そう言うとハリーのとなりに座り込んで、いっしょに洗い始める。

泡立てた指で背中を撫でると、ゴールドは嬉しそうにブルブルと小刻みに体を震わせた。
ドラコが手のひらで首のあたりをマッサージすると、ご機嫌に泡まみれのしっぽをブンブンと振るから、大量の泡が着ている服に飛び散ってしまった。

「わっ!まったく……」
と言いながらドラコは自分の濡れた服を困ったように見たけれど叱ることはせず、逆に甘やかすように犬の頭を撫でる。
そうするとゴールドもまた派手に尻尾を振って、舌を出して首を傾げた。

ドラコはじっと犬と顔と顔を突き合わせていたかと思うと突然つぶやく。
「犬ってさ、ときどき笑うよな」
「―――えっ、本当?」
驚いたハリーに、ドラコは当然そうに頷いた。