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【Marriageシリーズ 1】Something Blue

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「悪かったよ。僕が悪かった。本当にごめんなさい」

這う這うの体で大きなカートトランクを引きずって自宅に帰りつくと、先に帰宅していたドラコの前でハリーは素直に謝った。
リビングのテーブルを挟み向かい合ったまま、何度も頭を下げる。
それでもドラコは腕を組み、そっぽを向いたままだ。

「今回の出張は長かっただろ。だからドラコの顔を見たら嬉しくて堪らなくなって、それで……あの、その―――」
ドラコから漂う不機嫌なオーラに、ハリーの言い訳がフニャフニャと口の中で消えてしまう。

「―――僕が大げさなことが大嫌いなのは、君も知っているだろ?」
「知っています。……だから、ホントごめん」
またハリーは謝った。

見た目も体格も立派な大人なのに、ハリーには今でもどこか落ち着きのなさが残っている。
それが彼の魅力のひとつでもあるし、欠点でもあった。

「ハリー、君はまわりの空気が読めない」
「まったく仰るとおりで……」
ハリーの両肩が落ちる。
チラリと顔を上げると相手は難しそうな顔をして、眉間にしわを寄せていた。

ドラコは一旦機嫌を損ねるととことんまで悪くなるという、かなり後々まで尾を引くスリザリン出身者らしい性格だった。
きっとこの怒りが収まるのは多分、半日先になるだろう。
ハリーは居心地が悪そうに小さく咳をして、椅子に座りなおした。

「それで……、ええっと、お土産なんだけど……」
手近にある大き目のショルダーバックを引き寄せ、その中に手を突っ込む。
「はい、これ。色がきれいだったから」
取り出したのはスクエアの形をした『水色のケーキ』だった。

(みっ……水色のケーキ?!!)
まったく美味しそうではない色によって、毒々しい程にデコレーションされたものが、目の前に現れた。
しかもハンパな大きさではない。
ゆうに30cm以上はあり、かなりデカい。

ブルーの鮮やかさには全く混じりけがなく真っ青な色で、上に乗っている色とりどりの星のモチーフは赤に黄色緑と、原色のオンパレードだ。
搾り出したクリームはありえない蛍光色のようなオレンジ色だった。
容赦ない色の洪水に目がチカチカしてくる。

ドラコは気味悪そうに、ケーキの入っている透明のパッケージを指差した。
「……これは食い物なのか?まるで出来損ないの、色粘土を固めたみたいなケーキだぞ。それか、冗談で絵の具のチューブの中身を、スポンジの上に乗せたような、とんでもない色どりだ」

「でも美味しいと思うよ。きっとドラコなら気に入るはずさ」
「なんで、僕が気に入ると思ったんだ?」
「だって甘いからね。砂糖より甘い。ドラコは甘いものが好きだろ?」
ドラコのケーキを指さす指が、ぶるぶると震えた。

「いっ……、いくらな、僕が甘いものが好きでも、限度があるからな。しかも、砂糖より甘いって、いったいどういう甘さなんだよ?!」
「口に入れた瞬間、甘くて脳天が痺れるくらいにすごいよ」
「………そんな、ものすごいものなんかいらない」
ボソリとドラコが呟いた。

「気に入らないの?せっかく買ってきたのに。だったらこれなら、どうかな」
「美味しかったから」と言いつつ、袋にも入っていない丸のままのりんごを5、6個取り出す。
いびつなそれらは、テーブルの上から転がり落ちそうになり、慌てて受け止めて戻しながら、ドラコは首をひねった。

(……なんで、ニューヨークのお土産にリンゴ?どこにでもあるぞ、こんなものは?それとも、リンゴ自体を「ビックアップル」に、かけているのか?)
低く唸る。

次に「おいしい」という同じ意見で、緑の葉がついたカブが1束出てきた。
果物、野菜ときたら、今度は肉かと思ったら、案の定ビーフジャーキーがバックから取り出される。
その次はどこにでもありそうな、M&Mのチョコバーの詰め合わせの大袋に、自由の女神の形の書きにくそうなボールペン。
ホグワーツに向う汽車とどこか似ているという理由で買ったという列車の模型。

ハリーは得意そうに、「魔法ではなく、電池で動くんだ」と嬉しそうだ。
「ああそうか。よかったな……」
力なくドラコはハハハ…と笑った。

「ハリー……、君はいったいどこへ出張してたんだ、本当は?」
「見たら分かるだろ、アメリカだ」
あっさりと答える姿を見て、ドラコはやれやれと首を振る。
あまりのセンスのなさに、呆れるのを通り越して頭痛がしてきた。

「あと、これは一ヶ月ぶりの再会を祝して、君に」
バックの一番下から取りだしたのは薔薇のブーケだった。
ハリーはご機嫌な顔で相手に差し出す。
やっとまともなプレゼントだと思ったが、真っ赤なそれはどこか、へたっている感じがした。

「なんだか、つぶれかけていないか?」
困った顔で受け取りつつ尋ねてみる。
「ああっと、そういえば一番最初に買ったから、バックの底に入っていたんだ。だからグチュッとなっちゃった」
バツが悪そうに頭を掻く。
ドラコはついていけなくて、もうグチュでもグチャでも勝手にしてくれと、うんざりと思った。

テーブルの上にはゴチャゴチャとしたものがところ狭しと並び、まったく統一感がなくて、別の意味で素晴らしい光景になっている。
これが全部自分へのお土産だとしたら、自分というものは相手にとったらどういう風に見られているのかと、一度真剣に問い詰めたくなってしまった。

「―――そして最後にこれが、僕の君へのとっておきのプレゼント」
そう言って差し出されたのは、水色の小箱に白いリボンのかかったものだった。
「開けてみて」とせっつかれて開くと、中から出てきたのはシルバーのペアリングだった。

ドラコは眉間にしわを寄せて、疑わしそうに相手を見る。
「いったいこれはどこのおもちゃ屋で見つけてきたんだ?トイザラすか?フリーマーケットか?」
「ひっ……ひどいぞドラコ。ちゃんとした本物だよ。―――そして、その2つある指輪のひとつを君に受け取って欲しい」
唐突に腕を差し出すと、がっしりとドラコの手を握ってきた。
「愛している」
告白のついでのようにドサクサに紛れて、少し小さめのリングのほうをドラコの指にはめようとする。


「だーーーーーーっ!!いっ、いったい、どうするつもりだ、ハリー!!」
ドラコはらしからぬ大声を上げて、その指輪も箱ごと振り払った。


「せっかくのプロポーズなのに、ひどいじゃなか。何で振り払うのさ!」
「お前、場面とかムードとか雰囲気とかがあるだろ?!なんだって、こんなついでのように、リングをはめようとするんだ?」
「だからふざけてないって。この指輪はメチャクチャ高かったんだからね。なんだか知らないけど、有名なジュエリーショップの本店がニューヨークの五番街にあるらしくて、わざわざ出かけてやっとの思いで買ったんだから。しかし、あんなにリングが高価だとは思わなかったよ」

「―――五番街?」
「ああ、マグル界のことは君は疎いから知らないと思うけど、超高級店が並んでいる通りだよ。おかげで僕の貯金は底がつきそうだよ」

よくよく見ると確かにそれは本物らしい輝きを放っていた。
「いくら高価なものでも、本物でも、ついでのように渡すなんて……」