【Marriageシリーズ 1】Something Blue
「だから、ついでじゃなくて、僕は君とずっと離れていてとても淋しかったから、最初に君に会ったらすぐに渡そうと思っていたんだ。ずっとずっと前から決めていたのに」
恨みがましそうな瞳で睨んでくる。
「君は雰囲気にこだわっているみたいだけど、僕の指輪は受け取ってくれないの?」
「……いや、そんなことはないけど。こんな場面でプロポーズなんて」
「えらくシチュエーションにこだわっているみたいだけど、だったらドラコなら、どんな風に告白するんだよ?」
「そうだな、ディナーのあとの落ち着いた雰囲気のなかで、相手の手を取り「結婚してほしい」とプロポーズをしたりして……」
「ああ、もちろん僕もだよ」
「いったい何が僕もなんだ、ハリー?僕はただ「結婚して欲しい」と……」
「イエス!分かった、僕も君が大好きだから、喜んで受けるよ」
「だからそれは僕の意見で、たとえばの話で……」
「だからイエス!君からのプロポーズはみんな『はい』だ」
ハリーは満面の笑みでドラコに微笑みかける。
『そうじゃない』と否定したいけれど、もちろんハリーには届いてないらしかった。
「たとえばどんな?」という質問は、これが目当てだったのか?
ドラコは何がなんだか分からなくなってくる。
(もしかして僕はハリーにしてやられたのか?!僕からプロポーズの言葉を言うように仕向けられたのか?)
意地っ張りな自分ならちょっとやそっとじゃ、相手からの告白に同意することはないだろう。
その逆のパターンで自分からのプロポーズなら、必然的に互いの合意がすぐに出来上がってしまう。
「だから結婚してというのは……」
「だから僕もイエスだよ、ドラコ」
「ちがう、プロポーズというのは……」
「愛している」
「そういうのじゃなくて―――」
「だったら、ジュテーム」
「言い方とかじゃなくて―――」
「一生添い遂げよう」
「そんな誓いは―――」
「幸せにしたい」
「そんな言葉を変えただけじゃあ――」
「だったら歌を歌うよ。君に捧げる歌を」
今にも大きく息を吸い込み歌いだそうとする相手を、慌てて引き止める。
「……ハリー、暴走する君を止めるには、いったいどうしたらいいんだ?」
ドラコのほうが先に音を上げてしまった。
「僕と結婚して」
熱烈に告白してくる相手をじっと見詰めて、やがてため息を一つついた。
「―――ああ、分かった」
真っ赤な顔のままぐったりと頷く。
なんだか言い争うのがバカらしくて疲れてしまった。
クラクラと目眩がする。
いつも自分はハリーに負けてばっかりだ。
恋人が自分の手を取り持ち上げ神妙な顔をして、指輪をはめていくのをぼんやりと眺める。
銀色に輝くそれはまるで、誂えたように自分の薬指にぴったりと収まった。
ドラコも覚悟を決めたように赤いほほのまま、もうひとつのリングを持ち上げ相手の指にはめると、ハリーが「ありがとう。ドラコ」と小さな声で囁く。
手と手が重なりふたりの指にはめられたばかりの指輪がカチャリと涼しい音を立てた。
ハリーはとろけるような笑顔を見せてドラコにキスをし、優しく腕の中へと抱きしめた。
暖かくて、気持ちのいい空気が重なる。
見上げると、ハリーは満面の笑顔で、その満足げで晴れ晴れとした表情を見て、(これはこれでいいか)と思った。
まったく予定外で思いもしなかったけれど、訳が分からないまま自分から告白してしまった。
そしてハリーからたくさんの愛の言葉をもらった。
──もうそれだけでいいと思う。
別にかっこよさを求めたわけじゃなかったからだ。
生活の延長の上に、ついでのようにプロポーズがあったっていいじゃないか。
どんな場面でも、ふたりでいるのが一番なことは分かっていた。
幸福がどこにあるか、もうとっくに自分は知っている。
「お祝いはケーキで」
浮かれた声でハリーが言った。
「………だからって、あのケーキの色はないだろ」
ドラコは不満げに鼻に皺を寄せる。
「何言ってるんだよ。水色はむかしから幸福の象徴だよ。つまりマリッジ・ブルーだよ」
ドラコは呆れたように相手を見上げた。
「……ハリー……。ブルーはブルーでも、いくらマリッジが付いていても、その意味はまったく違っているぞ」
ハリーは驚いた顔をして尋ねてくる。
「―――ええっ、そうなの?じゃあ、本当はどういう意味?」
「つまりだな……。つまり、なんていうのか……。マリッジ・ブルーっていうのは―――、今の僕の気持ちって感じかな」
ドラコは困ったような笑みを浮かべつつ、肩をすくめてそう答えたのだった。
■END■
作品名:【Marriageシリーズ 1】Something Blue 作家名:sabure