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【臨帝】さよならの雨・抜粋

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※スカトロ描写入ります。このサンプル分だけ。








 雨の、雨の音がする。外はまだ雨が降っている。
 どうして止まないのだろうか。梅雨の時期が終わらないわけがない。いつかは晴れるはずだ。
「う、ううぅ、うぅ……」
 すぐ傍で聞こえるうめき声に臨也は跳ね起きる。
 見上げれば上半身を起こした状態の帝人が居た。
「良かった!」
 あれは夢だったのだと臨也は安堵する。たとえ夢ではなかったとしても今が現実だ。もうどうでもいい。
 臨也の声に帝人は僅かに眉を寄せるだけで何も言わない。
 少しだけおかしいと思いながら周りを見れば知らない場所だ。少しは覚えのある家具を見つけて引っ越しでもしたのだろうかと臨也は勝手に納得する。
 一軒家を買っていた時よりは部屋の間取りなどから自分の生活が劇的に変わったわけではないと理解できた。
 臨也が頭を置いていたベッドは木の安っぽい作り。
(子供用?)
 ニスの匂いでもしてきそうな低予算の品物に臨也は疑問を抱いたがもっと気になったのは帝人の足が布団から出て外に向いていたことだ。
「どっか行こうとしてた?」
「……行けるはずないじゃないですか」
 低い声は不機嫌以上に何かが滲んでいたが臨也は取り合わない。帝人と自分の間に何があるのか分からないのだ。
「帝人君。真面目な話なんだけど、聞いてくれる?」
 今まで帝人自身にこの現象を話したことはない。
 話してどうなることでもないのかもしれないが一週間は短すぎる。翻弄されて日々は終わってしまうのだ。打開できない。どうあっても逃げられないなど臨也は認めない。
 世界がいくら不条理だとしても自分がそれに絡め取られる理由などないのだ。
「聞かないことなんて出来ないでしょう」
 淡々と、帝人が言葉を吐き出すのにやはり違和感はあったが臨也は無視する。とりあえずは自分の状況を説明してその後にこの世界の自分と帝人との関係を聞けばいいと思った。
「俺って寝てた? 何この、バケツ」
 手の中にあったバケツに臨也は顔を歪める。
「きっかり五分でした」
 帝人の視線の先には昔ながらの鳩時計。赤黒い振り子が揺れている。深夜、零時五分。
「あの、ね。本当、信じられないと思うんだけどさ――」
 臨也は口を開きかけて帝人が脂汗を浮かべていることに気付く。帝人の唸り声で目覚めたのだと思い出して、自分のことでいっぱいいっぱいだったことを恥じた。殊勝に謝罪して帝人の腕に触れる。
 違和感。
「ごめんなさい。謝りますから」
 帝人が肩を揺する。不自然な力の入り方。何を言いたいのか分からない。どうして帝人が謝るのだろう。
「臨也さん、意地悪しないでください。僕が悪かったですから」
 ねだるように「ねぇ」と熱い吐息。染まった頬が愛らしい。性的な誘いにしては唐突で言葉が足りない。
 察することができない臨也に帝人がなおも「ごめんなさい。お願いです」と口にする。噛み合わないどころかさっぱり分からない。
「臨也さんっ!」
 涙声がかわいらしいと湧いた気持ちは帝人の涙で打ち砕かれる。ぽろぽろと零れる液体が綺麗なのに憎らしい。何を求められてるのか分からなかったから「どうして欲しいの?」と臨也はたずねた。ひねりのない正攻法。
 帝人が息を詰める。
「……っ。う、ズボン」
 嗚咽を押し殺すような帝人は「ズボン、下着も、下してください」と早口でまくしたてた。切羽詰っている帝人に引っ張られるように臨也は急いでズボンに手をかける。
 違和感。
「僕を、バケツの上に」
 言われるままに帝人をベッドから持ち上げてバケツに座らせる。そこに至って臨也は自分が何をしているのか気付く。
(これって……)
 下半身をさらけ出してバケツに跨った帝人の体の中からだろうゴロゴロと音がする。鈍いくぐもった音。腸が動いているのだろう。それとは別にビチャビチャと水音がする。
 尿が排泄される音じゃない。
 水溶性の便が便器を打つ音。不快な排泄物の匂い。
 自分のものでも感じたくないというのに他人のものならなお異様。
 目の前で広がる現実。トイレだけで発せられるはずの匂いが普通の部屋の中で立ち上る。異常だ。帝人がいくら非日常を求めていたところでこんなアブノーマルなプレイを欲しがるのだろうか。
 臨也は内心の戸惑いのままに帝人から手を放して身体が後ろへ動いた。
「あ、……や、だめっ! 放さないでッ!!」
 倒れかける帝人を慌てて支える。音からして未だに帝人はバケツの中にぶちまけているのだろう。臨也の支えをなくして帝人ごとバケツが倒れた部屋の中で大惨事だ。
(帝人君の、意思じゃ、ないだろうな……うん)
 恥ずかしそうに眉を八の字にしてぽろぽろと帝人は泣いている。情けなさや悔しさや色々な感情があるのだろう。
(クスリだろうな)
 便意を促すクスリ。直接入れられたのか経口摂取か臨也には分からなかったが便の状態と量が普通ではない。
 帝人の小さな体のどこにこれほどあったのかという程の量がバケツの中で満たされている気がする。音的に。見たくはない。その勇気はない。勇気は関係ないのかもしれない。帝人の嗚咽が痛い。
「帝人君……」
「ひっ、く。うぅ、うぅ」
 どう慰めの言葉をかけるべきか迷いながら臨也は犯人を考えて頭が痛くなった。
「帝人君。本当に、落ち着いて聞いて欲しい」
 そんな話ができる状態ではないと分かっていながら臨也は中断してしまった打ち明け話を再開させようとする。
「も、もう、いいじゃないですか。おしまいにして下さい」
「俺じゃないっ! 俺じゃないんだッ!」
 つい口を突いて出た言葉に臨也は驚く。本当のことだが見苦しい言い訳をするつもりはなかった。もっとうまく丸め込むように告げようとした何もかもが吹き飛んでいく。
(聞いて聞いて、ちゃんと聞いて俺を見て)
 気持ちが焦る。帝人が目をそらすからだろうか。
「俺は、この世界の俺じゃないんだ」
「……なにを?」
「本当なんだ。信じて欲しい。俺は君に酷いことなんかしない。俺だって自分の世界に戻りたい」
 紛れもない本心だった。自分は帝人にこんなことをするつもりはない。変態趣味など無縁だ。冤罪だ。自分じゃない。自分じゃない。自分であるはずがない。
「俺は折原臨也だけど、帝人君にこんなことした奴じゃない。する理由がない」
 訴えを帝人が理解したのかは分からないが涙は止まった。
「お話、したいんですよね?」
(ちゃんと話し合えば解決策も、きっと)
「後ろ拭いてトイレ連れて行ってもらえますか?」
 今、バケツの中にしたというのにどうしてだろうかと臨也は首を傾げたが帝人のペニスが揺れていることに気付いてどう反応するべきか迷う。
「え、えっっと」
 大をしたなら小も今更はずかしくはないだろうとは言えない。臨也に人の排泄姿を見る趣味などない。
「トイレットペーパーでもティッシュでも……あ、ウェットティッシュがベッドのところに」
「あ、あぁ、うん」
 赤ん坊用なのだろうイラスト入りの尻を拭く用のウェットティッシュが置かれたいた。
(日常的に……?)
 ドン引きした。
「臨也さん?」
「この世界気持ち悪いね」