いのりのかたち
道端に揺れる名も知らない野草の花を見て、移り変わる季節を思う。
家へと向かう道をゆっくりと辿りながら、風に撫でられる髪を抑えて空に目をやれば、高い澄んだ青に浮かぶ雲が細く伸びていた。
今日、私はまた一つ歳を重ねた。
友人たちの祝福と、あたたかい気持ちの詰まった贈り物を受け取って、母の待つ家へと帰る。
きっとまた、大好きな甘いアップルパイを焼いて待ってくれている筈だ。
ふわふわしたクリームのケーキだって大好きだけれど、今日みたいな特別な日には、母の特製レシピのアップルパイがいい。
家まではもう少し。
何となく視線を廻らせれば、大きな荷物を後ろの台車を設えた自転車をこぐ、配達人の後ろ姿が路地の奥へ消えていくところで。
自然と足取りがはやくなる。
ああ、もしかしたら、今年も。
私には、母のアップルパイの他に、もう一つ楽しみにしているものがある。
まだ家まで遠いのに、何処かから甘い花の香りがしてきたような気がして、そっと辺りを見渡した。
これは何の香りだろう。
一昨年は百合だった。
その前はダリア、
ガーベラ、
アイリス。
…花の送り主は、今はもういない大好きな父の、一番の友人だった人だ。
昔、本当に小さい頃に、誕生日に家に来てくれた事があった。
その時可愛いうさぎのぬいぐるみと一緒に、小さな花束を手渡してくれた。
色鮮やかなピンクの花がとても可愛くて、とてもきらきらして見えて、それからしばらく私は花束を手放さず、彼から離れずにいたらしい。
もしかしたら困らせていたのかもしれない。詳しくは憶えていないけれど。
私がねだったからか、それからずっと、毎年私の歳と同じ数だけの花を贈ってくれる。
彼はとても忙しい人なので、私はそれからほとんど会っていないのだけれど、ただ、毎年こうして届く花があの人の言葉のない便りだった。
「ただいま」
声を掛けて扉を潜れば、母はいつもと同じ優しい笑みを浮かべて「おかえりなさい」と笑ってくれた。
扉を開けたのと同時に、ふわりと漂う甘い、甘い林檎の匂いと、
それから、
「わぁ…」
深い、深いピンクの薔薇の花束が。
家へと向かう道をゆっくりと辿りながら、風に撫でられる髪を抑えて空に目をやれば、高い澄んだ青に浮かぶ雲が細く伸びていた。
今日、私はまた一つ歳を重ねた。
友人たちの祝福と、あたたかい気持ちの詰まった贈り物を受け取って、母の待つ家へと帰る。
きっとまた、大好きな甘いアップルパイを焼いて待ってくれている筈だ。
ふわふわしたクリームのケーキだって大好きだけれど、今日みたいな特別な日には、母の特製レシピのアップルパイがいい。
家まではもう少し。
何となく視線を廻らせれば、大きな荷物を後ろの台車を設えた自転車をこぐ、配達人の後ろ姿が路地の奥へ消えていくところで。
自然と足取りがはやくなる。
ああ、もしかしたら、今年も。
私には、母のアップルパイの他に、もう一つ楽しみにしているものがある。
まだ家まで遠いのに、何処かから甘い花の香りがしてきたような気がして、そっと辺りを見渡した。
これは何の香りだろう。
一昨年は百合だった。
その前はダリア、
ガーベラ、
アイリス。
…花の送り主は、今はもういない大好きな父の、一番の友人だった人だ。
昔、本当に小さい頃に、誕生日に家に来てくれた事があった。
その時可愛いうさぎのぬいぐるみと一緒に、小さな花束を手渡してくれた。
色鮮やかなピンクの花がとても可愛くて、とてもきらきらして見えて、それからしばらく私は花束を手放さず、彼から離れずにいたらしい。
もしかしたら困らせていたのかもしれない。詳しくは憶えていないけれど。
私がねだったからか、それからずっと、毎年私の歳と同じ数だけの花を贈ってくれる。
彼はとても忙しい人なので、私はそれからほとんど会っていないのだけれど、ただ、毎年こうして届く花があの人の言葉のない便りだった。
「ただいま」
声を掛けて扉を潜れば、母はいつもと同じ優しい笑みを浮かべて「おかえりなさい」と笑ってくれた。
扉を開けたのと同時に、ふわりと漂う甘い、甘い林檎の匂いと、
それから、
「わぁ…」
深い、深いピンクの薔薇の花束が。