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お題で短文浦一

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「雨がやむまで隣にいるよ」



しとしとしと、さあさあさあ。ぷかりと吹かした煙の向こうで銀色の雨が降る。一枚分開け放たれた戸の向こう側から湿った空気が流れ込んで来て、シン、とした室内をじめじめと不愉快な手の平で撫で回して行く。薄暗い大気はどこか霞んで見える。梅雨の季節に特有の煙るような天気。そして梅雨の雨に特有の子供の暗鬱とした気配。背中合わせに触れる彼の体温まで湿り気を含むようで、浦原にはいただけない。煙管の吸口を咥え、深く吸い込んだ刹那にこつんと背中に軽い衝撃。同時に背後から伸びた手が浦原の頭上に鎮座した彼曰く胡散臭い帽子を取り去った。ぷは、と気の抜けたように白い靄が鼻先で崩れる。
「どうしました?」
「別に」
首だけで振り返ると彼は浦原から奪った帽子を顔を隠すように被り、ずるずると腰を滑らせた。浮いた肩と首から上だけで浦原に凭れ、胸から下は畳に寝そべっている。苦しくないんですかね。思うが、浦原は彼の好きなようにさせる。視線を彼から外して前を向く。目前にある忠実な右腕によって整えられた庭は、こんな澱んだようなひと時の中でも美しい景観を浦原の目に映し出す。それは少し異様で、そして全く日常のひとかけらであった。きっともう少し経つと、彼の願いとは裏腹に雨脚はさらに強まるだろう。そうすれば浦原の背に僅かに凭れた子供は浦原の羽織の袖を引き、戸を閉めろと求めるだろう。耳を塞ぎ手足を引き寄せ、雨音を消してくれと浦原に懇願する。彼の鼓膜を叩くのは雨音ではない。至る所が変わらぬのなら、彼の悲鳴を呑み込むのに是も非もないだろう。浦原は、濡れ縁へと伸ばしていた足を折り畳み、戸を引いた。


(君が泣く)


作品名:お題で短文浦一 作家名:ao