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内緒です

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この気持ちを伝えるつもりはない。



「本当にそれでいいのか?」

ガシリ、正面から僕の両肩を存外しっかりとした武骨な両の掌で掴み誠実さを含む真摯な瞳を真っ直ぐに合わせ常よりも低い声と重い口調で投げかけられた親友の問いは、あらゆる場面で見る汎用性の高い定型文なのは分かっているがしかし、偶々僕の長年抱えている決意に疑問を呈するに相応しい問いで顔には出さないが内心ドキリとしてしまう。無論本人にそのつもりは欠片も無いだろうし、また僕が内心動揺した事実とその理由を吐露しない限りは知る由も無い。

「うん、レジ空いたからどいて正臣」

そしてこの会話に至るまでの経緯は結構くだらなかった。

連日続く炎天下が示す季節は日の長い真夏、もう夕刻だというのに空は未だ明るくコンクリートに残る熱気はサラリーマンや主婦や学生達の区別無く疲労した身体を容赦なく襲う。クールビズは体内の熱気を少々逃がしてはくれても襲い来る熱気を撃退するまでの力は無い。
まだ新人だがれっきとした社会人の僕達も例外なく暑気に体力を奪われ、涼を得て気力を補おうと幼馴染み兼親友兼今は同僚の正臣と出向帰りに立ち寄ったコンビニでガリガリ君の季節限定梨味に手を伸ばしたその時待て!無駄にいい声で止められ何事かと思えばソーダ味の良さを忘れたのか…?意味有り気に問われた。問われても。

僕の広いとはお世辞にも言えない交流関係で三つも間柄を兼任する程に付き合いが深く長いのだから当然この大袈裟な挙動にも慣れてはいるがあまりにも内容が無いよう、慣れているからこそ面倒臭い、あと暑いからなんか凄くウザい、以上の理由から普通に邪魔だと返答してからレジへと向かった。
向かう途中でも後ろからもうソーダ子ちゃんには飽きたのかそんな男だったとは見損なったぜ!だの、無くしてから気づいても遅いんだぜ…?だの、リュウガミネクンステナイデ(正臣裏声)だの、しつこく声をかけられ常々疑問に思うのだが何故当の本人は全く恥ずかしく無さそうなのだろうか。どこぞのOLさん達にクスクスと忍び笑われこちらは暑さのせいでなく顔が熱いというのに。

「一口くれ」
「…」

そそくさと逃げるように会計を済ませコンビニを出てすぐに封を開ければ、遅れて出てきた正臣が当然みたいな顔で平然と要求してきた。一連の抗議は一体何だったのか。
厚顔とはこんな顔を指した言葉だったのかもしれないと見飽きた顔を嘆息混じりに見上げながら、ここで断るのも何か大人気ない気がして仕方無く差し出した。大人は時に理不尽に損をしてでも矜持を取らねばならない。
同い年なのに僕だけが大人にならねばならないあたりが特に理不尽だ。

「うめー!大和撫子のように慎ましく三歩下がってデリシャス!」
「ごめん日本語で…あ、ホントだ美味しい」

キンと冷えた氷の粒は爽やかで芳醇な梨の風味に浸されしゃくしゃくと咀嚼すれば甘味と同時に涼感も得られて気持ちがいい。ネット上で好評の流行品だったので試しに買ってみたのだが、成程甘味が強い割には後味がサッパリしていて今の季節に合う。梨自体は秋が旬の果実だが氷菓にする事によってこんな風に新たな発見もあるのだからジャンクフードも立派な食文化の一つであって捨てたものでは無いよなと考えてからふと思い出した。
そういえばジャンクフードが嫌いなあの人も確かチャットで、

「臨也さんも食べたってな」
「…そうだっけ」

そうだった。厳密に言えば彼ではなく彼の作り出したネット上の人格の情報通でミーハーめいたネカマ臭い口調の女の子、実際ネカマだがそれで何故そのキャラ設定にしたのか今更ながら解りかねる、その甘楽さんがチャットでこのアイスを話題にしていた。思い返せば僕も、その人格の設定上世間で流行りの物事は一応抑えておくのか、彼が珍しくジャンクフードを褒めていたのでその内買おうと思ったのだ。
それでいて忘れてしまう程度の世間話だったのによく覚えているなと、そもそも彼の名を聞くだけで不快感を全面に押し出す親友が自らその名を出したのに違和感を感じて、一歩斜め前を歩く正臣の顔を覗いてみる。
案の定ただの中空を鋭く睨んでおり、おそらくそれは此処に居ない彼に向けられているのだろう、目線だけでなくブツブツと平和島さん早く殺ってくんねーかないや誰でもいいけどシネハヤクシネ、と不穏な呪いの言葉も吐いているのだからおそらく、ではなく間違いない。

親友が何を訴えたいのか、先程のコンビニでの奇行の裏にどんな意図があったのか、何となく読めてきた。
完食したガリガリ君の棒をスッと差し出して問う。

「これがあの人?」
「…捨てなさいそんなもの」

バッチぃから捨てなさい!まるで母親のような口調で諭す正臣の表情は反して子供のようにぶすくれている。
苦笑して再度棒を見てからそういえばこのアイスはくじ付きだったと思い出して裏返してみるが、やはりアタリの文字は無い。大して巧い喩えでも無いと思ったが、一見何も無い綺麗な棒が実はハズレというのはそれらしいかもしれない。知らない人は一生気づかないかもしれないところが特に。
でも僕は知っている、知っているから言わないと決めている。
正臣は彼に関わり続けている事それ自体が心配なのだろう定期的にこの話になる。

僕達が高校いや正臣は中学の頃か、新宿の情報屋なんて胡散臭い商売でこの界隈では著名な、かつて起きた様々な事件の糸を裏で引いていた折原臨也には過去散々な目に遭わされたが何故か社会人になった今でもチャット仲間として繋がっている。離れようと数回試みてはみたのだがその度に罪歌や黄巾賊関連の不穏な情報が流れ気になってログインしてみるとセットンさんが変わらずに居てついつい久しぶりですね、なんて会話から再開してしまっていた。
確証は無いが不穏な情報を流したのは十中八九あの人だろう、また騙されたと思うのだが下手に刺激するのも危ないのでなぁなぁにフェードアウトしていく、その繰り返しだ。
どうやら僕の存在を忘れてくれてはいないらしい。ただの釣り餌の一つかもしれないが、もうダラーズの無い今は非日常の知人が数人いるだけの僕に大した利用価値があるとも思えないのだが。

チャットメンバーは昔からの僕と彼とセットン、いやセルティさんの三人で時々正臣であるバキュラと恋人の沙樹さんはそのままサキさん、そして稀に罪歌である園原さんも。園原さんはチャットよりセルティさんとメールする方が楽しいんだとかでどれだけセルティさんが好きなんだろう、彼女の中でセルティさんに勝てる気がしない。
他にもメンバーは数人いたが最近僕がよく見るのはこの人達くらいだ。

「捨てられて黙ってる人かな」

別のコンビニのゴミ箱を見つけて棒を捨てながら、暗に下手に彼を刺激すると余計に危ないのではないかと告げると今度は正臣が嘆息してからじっとこちらを見る。
僕だって自ら積極的に関わっている訳では無いが、積極的に切ろうとしている訳でも無いところが後ろめたくて目を少し泳がせる。それは報復が怖い人物だからなのも確かなのだが、僕に捨てたくない気持ちが無いと言ったら嘘になる。だから何も言わないけど。

「…帝人、お前あの人の事まだ好きなのか?」


何も言ってない、のに。

作品名:内緒です 作家名:湯鳥