木漏れ日
1.
その木蔭は丘から渡ってきた風が丁度よく木々のあいだを吹き抜けていくので、二人がよく過ごす絶好のポイントだった。
僕は視線を本に落としたままだ。
「ねぇ、ドラコ。ここが分からないんだけど?」
と、ひどく簡単な問題の答えを、ハリーが聞いてくる。
これで20回は質問に答えている僕は、大げさにため息をついた。
「いいか、この薬草は、雪柳を使うんだ」
「へぇー、そうなんだ」
カチカチと芯を出して、シャーペンというもので、教科書に答えを記入していく。
(これはインクもいらないから、こぼれなくて、携帯に便利なんだ)と以前、ハリーが自慢していたものだ。
(もちろんドラコのも買ってきたから)と、プラスチックとかでできた、いかにも安そうなものを差し出した。
彼はあちらの世界では、かなりいろいろ苦労しているみたいだった。
小遣いなどないと思うので、どうやって手に入れたのか分からないが、その苦労したであろう過程のことを思って、素直に受け取った。
「ありがとう」と言うと、ひどく喜んだ顔をした。
もしかして感激して泣いたかもしれない。
僕はよく覚えていなかった。
いつもハリーはいろんなもの(ガラクタや役に立たないものが多いけど)を、いつも僕に何かしら押し付けてくる。
そのたびに「ありがとう」と言うと、笑ったり、泣いたりするので、もう記憶がごちゃまぜだ。
……まあ、どちらにしても、僕のたった一言に、盛大に喜んでいるみたいだけど。
なにがそんなにもハリーを感激させるのか、僕はイマイチつかめないでいた。
「ねぇ、今度はこの問題なんだけど……」
僕は度々読書を中断されて、ひどく不機嫌になってきた。
「おまえ、いい加減に、自分で考えろっ!」
「ああ……。えっと、ごめん」
背を丸め、しょんぼりとうつむく。
まるで犬が叱られたみたいだ。
これがあの伝説の魔法使いというか、子供のヒーローというか、そういうものと同じ人物か、はなはだ疑問に思うことがある。
まるで詐欺のように、僕の前ではひどく情けないカッコばかりをさらしているからだ。
思ったより風は強くて、読んでいるページをパラパラとめくるし、時折の強風で髪が後ろに引っ張られたりして、大変だ。
「……うっとおしいな」とつぶやく。
となりで大人しく問題と格闘していたハリーが、がばっと顔を上げた。
「えっ?!僕また何かしたっけ?」
「いや、この強い風のことを言っているだけだ」
「ああ、すごい風だねー」とかのんびりと言いつつ、おもむろに僕に近づいてくる。
「―――で、なんで、僕の目の前に座るんだ?」
「風よけになってあげようかと思って」
幹を背にして座っている僕の前に、ハリーのからだが覆いかぶさってくる。
「誰か来たらどうする?」
「来ない、来ない」
「ここは学園内だから、そんなことはないだろっ!」
手に持っている分厚い本で相手を殴ろうか、そのまま突き飛ばしてやろうかと思案していたら、バラバラと複数の足音が響いてきた。
僕は迷わず、ハリーを突き飛ばした。
地面にひっくり返ったハリーの周りを、茂みからやってきた一年生たちが取り囲んでいる。
「見つけましたよ、ポッター先輩!箒の乗り方を教えてくれるって約束したじゃないですか」
「えっ、あれ今日だっけ?」
「そーですよ。みんな楽しみにしていたのに。探したんですよ」
子供たちに囲まれて、ハリーは頭をかいた。
「忘れっぽくて、ゴメンね」
(あいつ、子どもにまで謝ってるし)僕は思わず噴出してしまいそうになった。
ハリーは子どもに大人気だ。
きっと、生まれたときから何度も読んだ絵本に出てきたヒーローが目の前にいるのだから、新入生たちがハリーを放っておくわけがない。
いつもちびっこい連中に取り囲まれていた。
ハリーは別にそれを迷惑そうな顔もせずに、時間があればよく遊び相手になっている。
今日もそうだったみたいだ。
ハリーは僕に向かって「ごめんね」というリアクションをして、両手を子どもたちに引っ張られて、校庭へと向かっていった。
僕はももうここにいる意味もなくなったので、立ち上がった。
夕食までには時間があるし、どうしょうかと思う。
髪がまた強風にあおられて、うっとおしい。
特に前髪の部分が。手で整えてみると、やはり少し髪が伸びすぎているみたいだ。
僕は一度、部屋に戻ることにした。
その木蔭は丘から渡ってきた風が丁度よく木々のあいだを吹き抜けていくので、二人がよく過ごす絶好のポイントだった。
僕は視線を本に落としたままだ。
「ねぇ、ドラコ。ここが分からないんだけど?」
と、ひどく簡単な問題の答えを、ハリーが聞いてくる。
これで20回は質問に答えている僕は、大げさにため息をついた。
「いいか、この薬草は、雪柳を使うんだ」
「へぇー、そうなんだ」
カチカチと芯を出して、シャーペンというもので、教科書に答えを記入していく。
(これはインクもいらないから、こぼれなくて、携帯に便利なんだ)と以前、ハリーが自慢していたものだ。
(もちろんドラコのも買ってきたから)と、プラスチックとかでできた、いかにも安そうなものを差し出した。
彼はあちらの世界では、かなりいろいろ苦労しているみたいだった。
小遣いなどないと思うので、どうやって手に入れたのか分からないが、その苦労したであろう過程のことを思って、素直に受け取った。
「ありがとう」と言うと、ひどく喜んだ顔をした。
もしかして感激して泣いたかもしれない。
僕はよく覚えていなかった。
いつもハリーはいろんなもの(ガラクタや役に立たないものが多いけど)を、いつも僕に何かしら押し付けてくる。
そのたびに「ありがとう」と言うと、笑ったり、泣いたりするので、もう記憶がごちゃまぜだ。
……まあ、どちらにしても、僕のたった一言に、盛大に喜んでいるみたいだけど。
なにがそんなにもハリーを感激させるのか、僕はイマイチつかめないでいた。
「ねぇ、今度はこの問題なんだけど……」
僕は度々読書を中断されて、ひどく不機嫌になってきた。
「おまえ、いい加減に、自分で考えろっ!」
「ああ……。えっと、ごめん」
背を丸め、しょんぼりとうつむく。
まるで犬が叱られたみたいだ。
これがあの伝説の魔法使いというか、子供のヒーローというか、そういうものと同じ人物か、はなはだ疑問に思うことがある。
まるで詐欺のように、僕の前ではひどく情けないカッコばかりをさらしているからだ。
思ったより風は強くて、読んでいるページをパラパラとめくるし、時折の強風で髪が後ろに引っ張られたりして、大変だ。
「……うっとおしいな」とつぶやく。
となりで大人しく問題と格闘していたハリーが、がばっと顔を上げた。
「えっ?!僕また何かしたっけ?」
「いや、この強い風のことを言っているだけだ」
「ああ、すごい風だねー」とかのんびりと言いつつ、おもむろに僕に近づいてくる。
「―――で、なんで、僕の目の前に座るんだ?」
「風よけになってあげようかと思って」
幹を背にして座っている僕の前に、ハリーのからだが覆いかぶさってくる。
「誰か来たらどうする?」
「来ない、来ない」
「ここは学園内だから、そんなことはないだろっ!」
手に持っている分厚い本で相手を殴ろうか、そのまま突き飛ばしてやろうかと思案していたら、バラバラと複数の足音が響いてきた。
僕は迷わず、ハリーを突き飛ばした。
地面にひっくり返ったハリーの周りを、茂みからやってきた一年生たちが取り囲んでいる。
「見つけましたよ、ポッター先輩!箒の乗り方を教えてくれるって約束したじゃないですか」
「えっ、あれ今日だっけ?」
「そーですよ。みんな楽しみにしていたのに。探したんですよ」
子供たちに囲まれて、ハリーは頭をかいた。
「忘れっぽくて、ゴメンね」
(あいつ、子どもにまで謝ってるし)僕は思わず噴出してしまいそうになった。
ハリーは子どもに大人気だ。
きっと、生まれたときから何度も読んだ絵本に出てきたヒーローが目の前にいるのだから、新入生たちがハリーを放っておくわけがない。
いつもちびっこい連中に取り囲まれていた。
ハリーは別にそれを迷惑そうな顔もせずに、時間があればよく遊び相手になっている。
今日もそうだったみたいだ。
ハリーは僕に向かって「ごめんね」というリアクションをして、両手を子どもたちに引っ張られて、校庭へと向かっていった。
僕はももうここにいる意味もなくなったので、立ち上がった。
夕食までには時間があるし、どうしょうかと思う。
髪がまた強風にあおられて、うっとおしい。
特に前髪の部分が。手で整えてみると、やはり少し髪が伸びすぎているみたいだ。
僕は一度、部屋に戻ることにした。