THE SPEAK OF MY HEARTS!
目の前のこの人が一体何を考えているかなんて僕にはわかる筈もない。僕が理解できるのはこの目の前の人物がどうせなら、がたぶん僕の有給日に掛かるであろうということだ。というか、そもそもこの目の前の古臭いヒーロー論を持っているこの人が有給消化なんてそんな事が信じられない。そう思いながら、僕はその人に目をやれば、当の本人はロイズさんと視線を合わせへらり、と笑っていた。難しい顔をしているのはロイズさんで、本当にこの人の思考はわからないと思っていれば、ぽつりと声を上げたのはロイズさんだった。
「ヒーローに休みは……」
「無いんですよね、わかってますよ。何かあったらコールしてもらったらちゃんと現場に駆けつけますから」
ロイズさんにそう言葉を発しながら、とんとん、と指で示すのは腕のPDAだ。そう笑ってから、総務と声を上げた。
「なあ、バニーの有給使う日ってどの日だ?」
「バーナビーさんにまだ日にちは決めてもらっていません、バーナビーさん何時にされますか?」
総務と呼ばれたその人は僕に笑みを浮かべると、文字通り仕事用の笑みのその顔で僕の有給の日取りを促す。
「なぁ、バニーお前有給取ったらその日暇なんだろ?」
「予定外の休みなんで一日ゆっくり休むつもりですよ」
「だったら、ちょっと俺に付き合えよ、相棒だろ!あっ、総務。この日を俺とバニーの休みにしてくれる?」
「よろしいですか?バーナビーさん」
「えっ、あ……」
いきなりのそんな言葉、休みを合わせて挙句にちょっと付きあえと言われて、要するにそれは休みの日もこの人に拘束されるような事を意味していて……と、思考が言葉の意味を理解出来ずにいれば、そんな僕の顔を覗き込んできた髭の顔が僕に、にかっと笑みを浮かべた
「最高の休みにしてやるから、オジサンにどーんと任せてみなさいよ」
ふふふ、と笑う顔がやけに子どもみたいな笑顔で、思わず僕は頭の中でいろいろと巡る思考を止めて、その笑みに思わず笑い返した。
「なんですか、その自信」
ちらりと視線を先ほどロイズさんがいた方向に向けると、彼は肩を竦めてから、好きにしたらという表情を浮かべている。
「大体、本当に同日に休みとか何考えてるんですか?」
「でも、実際何か事件あったらこいつで呼ばれるから問題ないって」
そう言われながらPDAを見せつけられた後に、へらり、と笑う顔と目が合った。
「大体、ヒーローに休みが無いのは俺は百も調子だから、そんなに不安そうな顔すんなよ」
笑う顔と目が合って、そう声をかけられると思わず僕はなんだか自分の心配なんかとてもちっぽけな事に思えた。大体、この間のジェイク事件の一件での傷を無理やりに治した所為で、結局つい最近退院したばかりだというのに、この人はそんなことなんて無かったとばかりに笑うばかりだ。
一体何がしたいんだと思いつつ、自分もまた同じように病院から退院をしたばかりだ。笑みを浮かべるその顔はあの時、信じてなかったらどうしたんですか、と言った僕に対して『信じてる』と言ったあの顔に似ていて、その顔をじっと見ていた僕はぽろりと言葉を洩らした。
「わかってますよ」
小さく洩れ出た声はそんな言葉だったけれど、その声に目の前のその人は笑うと、総務よろしく!と声を上げ、その声にかしこまりました、と返事が返ってくる。
そんなやり取りを聞きながら、僕は明日の今日で有給か、と思わずなんだか不思議な気持ちが湧き上がってくるのを感じた。
「あ、バニー、今日の昼休み暇か?」
「え?」
不意打ちのその声に、そんな声を洩らせば、一緒に飯食おうぜと声が上がり、何度か瞬きをしてから、アナタの奢りならばと笑えばと声を上げれば、ちゃっかりしてるなぁ……と笑う声がアポロンメディアの総務部に響いいた。
本当に、この人はなんだかとても飽きなくて、妙だけど、安心させてくれる空気を持っている人だな、なんてそんなことを思ってから、僕は声を上げた。
「自業自得ですよ、オジサン」
ふふ、と笑えば、ひっでーという声にもう一度僕は笑うだけだ。
「まあ、奢ってやるからよ、俺との昼飯に付き合えよバニー」
発せられる声と共に、ぽんと肩に置かれた手。その手の主の顔を見てから、僕は「しょうがないですね」と答えると「先に行くぜと」言いながらひらひら片手を振りながら入り口に向かうあの人は先にトレーニングセンターに行ってるわーと声を上げて出て行く。
唇から吐き出されるのは思わずなんだか笑い声で、くすくすと一頻り笑った後にふう、と息を吐き出せば、ごほん、とロイズさんがひとつ咳払いをした後に、君も、と声を上げる。
「君もトレーニングセンターに行くんだろ?」
そういわれて、はい、と声を上げれば、取材のスケジュールもまた入ってきているから、その辺りを虎徹くんにもそれを伝えておくように、と言われ僕はそうですね、とそう答えた。
そうして頷いてから、ふと思ったのは、なんだか流されてるな僕。というそんな言葉だったのだけれども、だけれどそんなものもまあ、いいかと思いながらトレーニングセンターに向かう。
きっと、あの人はどうせ碌にトレーニングをしてないんだろうけど、なんて思いながら。
作品名:THE SPEAK OF MY HEARTS! 作家名:いちき