THE SPEAK OF MY HEARTS!
ぜんぜん悪びれた様子もなく、そんな声を上げる虎徹にふうっと息を吐き出すと、先程からの一連の虎徹の行動を振り返ったバーナビーは少し呆れた声を上げる。
「アナタは、悪戯好きの子どもですか」
「まっさかーいい歳したオッサンですよー、ってね」
ははは、と虎徹は笑うとバーナビーが座っているベンチの横に座る。そしてバーナビーが持つ茶色の紙袋をじい、と見つめてから、腹減ったと声を上げると、へらりとした顔で笑った。
「そんなに食べるのが待ち遠しかったのなら僕に渡すのはどうかと思いますよ?」
「えーでも、お前こういうの食べた事なさそうだし、これは俺のとっておきなんだからまあ、食べたまえよ、バニーちゃん」
バーナビーは一度は受け取った茶色のその袋を虎徹に渡そうとすれば、笑う虎徹がやんわりとそれを断り、あけて中をみ?と促した。
「まあ、俺の分も入ってるんだけどな。あ……っと、こっちポテトとコーラだからなー」
「僕はコーラなんて飲みませんよ」
「なーに言ってんだよ、こういうのにはコーラって決まってんだ」
言いながら、虎徹が手元に持っている袋からコーラを取り出して、フライドポテト一本バーナビーの口元に差し出す。
「バニーちゃん、あーん」
「なにがあーん、で……んっ!」
「ここのポテトも旨いんだってばー」
ははは、と笑いながら無理矢理にバーナビーの口の中にポテトを押し込めば、びっくりした顔のバーナビーがもぐもぐと口を動かしたあと、アナタって人は!と声を上げたが、そんなバーナビーの声に動じることもなく、子どもみたいな笑みを浮かべる。
「どうだ?おいしいだろ?」
そう言われると、バーナビーは小さなため息と共に言ってやりたかったあれこれを四散させてしまい、そうなってしまえば、バーナビーの口から漏れるのは肯定の言葉だ。
「おいしいです」
ポロリと口から吐き出してしまえば、まるで自分の手料理を褒められているかの如く、嬉しそうに虎徹は、だろう?と声を上げて、笑みを浮かべる。そしてまたポテトフライを一つ摘むと、今度は自分の口の中にぽいと放りなげて、もしゃもしゃと口を動かした。
ベンチに座って、長い足をプラプラと動かす様はでかい大人なのに子どもみたいで、それでいて自分のペースを崩そうとしない虎徹にバーナビーはいろんな意味で勝てないなとそんな事を思っていた。事実バーナビー自身、先ほどから何度も繰り返される虎徹の『バニー』という呼び方に訂正をする気すら起きないのだ。
何度言っても効かないのと、そう呼ばれる事にバーナビー自身が慣れてきているという事実があるのだから、本気で性質が悪いとバーナビーは思わなくもないのだが。
「あっ、俺さぁ、腹減ってんだからさー、バニーちゃん、ハンバーガー早く早く!」
ちらり、と視線を送れば、目はあったその人は笑みを崩さないままにそんな言葉を発してきて、もうなんだろう、結局やっぱりどこか最後まで憎めないようなそんな虎徹相手に、バーナビーはふうっと息を吐き出すと、はいはい、と笑う。
そして茶色の紙の袋をあけると、中から包みを一つとりだして、どうぞ、と虎徹に差し出すと虎徹はサンキューと声を上げるのだから、その声にバーナビーは笑った。
「なに言ってるんですか、それ買ってきたのはアナタでしょ?」
「そうだったなぁ!」
すっかり忘れていた、と言わんばかりのその声に思わずバーナビーは笑う。
その笑い声に虎徹は唇を尖らせると、ひでーなーと一言呟いて、またポテトをつまんで自らの口に放り込みもぐもぐと噛んでからごくり、と喉を鳴らして咀嚼する。
それから、ふっともう一度笑みを浮かべてバーナビーを見つめた虎徹は声を上げた。
「まあ、そんな事より、バニーちゃんも食べろって」
特別でお気に入りのひとつなんだぜ、と虎徹の言葉にふんわりと漂うハンバーガーの匂いにそうですね、と声を上げると、バーナビーはもうひとつのハンバーガーの包みを取り出した。
「トマトとレタスと……あと、このハンバーガーのソースとケチャップとマヨネーズがすげー絶妙なんだよ。あ。隠し味はマスタードな!」
そんな虎徹の説明を聞きながら、丁寧に包み紙を剥くとがぶり、と虎徹大絶賛のハンバーガーにバーナビーはかぶりついた。
もぐもぐ、とかみ砕きながら本当だ、とそんな感想を思っていれば、横では虎徹がハンバーガーの包み紙を開ける前にべちん、とハンバーガーを両手で押しつぶしていて思わずバーナビーはぎょっとした顔を浮かべた。
「何やってるんですか?!」
「え、つぶしてる?」
「何で疑問系なんですか!」
「いや、バニーちゃんの気迫に押されて?」
虎徹としては、そんなところにツッコミを入れられるだなんて思わなかったんだろう。驚きを隠せないのか、バーナビーの声に疑問系でばかりの回答しか出来なくなっている。
「僕の気迫に押されたら、そんな風にハンバーガーを潰すんですか……?」
意味がわからない、とため息交じりにそう声を上げれば、ああ、と虎徹は声を上げる。
「潰したほうが、味がぎゅーってつまって美味しいと思ってる」
そんな事を真剣な目で、まじめな声で言う虎徹にはあ、と思わずバーナビーは声をあげた。
「そんな事で味が変わるなんて無いでしょ」
呆れた声でそうバーナビーが呟けば、そんなことねーよーと虎徹は声を上げつつ、手のひらで押しつぶしたハンバーガーの包みを開けてかぶりついた。
「全部きれいに美味しくいただける気がしてんだけどなぁ」
もしゃもしゃ、と食らいつきながら空を見上げてそういう虎徹に、もう一度バーナビーははあ、とため息を付く。
「ナンセンスですね、そもそもそれだけで美味しくなるなら、ハンバーガー屋さん自体がつぶしたものを売ってる筈でしょうし」
そんな正論の言葉をバーナビーが言うと、その意味に虎徹は何度か瞬きすると、そりゃそうだ、と虎徹は呟いたのだった。
だが、だ。
「やっぱり俺的には潰した方が美味しい気がする」
なんて声を上げるのだから、バーナビーはその声になんかもう、そういうことでいいんじゃないですか?と声を上げた。
「だっよなー」
ははは、と笑う虎徹はもう一口とつぶれたハンバーガーにかぶりつけば、ぺちょりとはみ出たソースが虎徹の指先を汚したのだったから、思わずバーナビーは
「子どもみたいですよ……」
と呟くと、うっと虎徹は声をあげて、でも!と声をあげた。
「ここのこれが好きなんだし、美味いんだからしょうがない!」
なんて声を上げたのだから、はぁ、とだけバーナビーは息を吐き出した。空は青いのに、風は気持ちいいのに、隣に居る人がなんでこの人なんだろうなんてそんな事を思いながら、バーナビーはがぶり、とハンバーガーにかぶりつく。ファーストフードのこんな食べ物なんてそう食べたことはなかったけれど、確かに横のあの人が言うとおりに美味しいじゃないか、と思いながらもぐもぐと無言で食べていれば、ぽつり、と虎徹が声を出した。
「なぁ、バニーちゃん」
口の中に物が入っている状態だから、言葉を発さずに、視線だけを隣に座る虎徹に向けた。その視線には、バニーじゃなくて、バーナビーです、と云う気持ちも込めてだ。
作品名:THE SPEAK OF MY HEARTS! 作家名:いちき