そらとら その2
平和な休日の昼下がり。
日夜市民のために働くヒーローにとっても、穏やかな休息の時間だ。
しかし、傍らの青年は、ほんの近所のスーパーに買い物に行って帰ってくるまでの小一時間ほどの様子を見ている限り、休息には程遠い忙しさだった。
迷子の子どもを見つけてはすかさず声をかけ、大きな荷物を抱えている老人がいればすかさず声をかけ、玩具を落としたと泣いている子どもにも、もちろん迷わず声をかける。
何もお前がそこまでしなくても、という台詞は喉元まで出かかったけれど、最終的には自分も積極的に巻き込まれているのだから世話はない。
結局のところ、自分も困った人間を見かければ放っておけない性質なのだ。
しかし、それにしても、と思う。
この男と並んで歩いていると、いつでもこの調子なのだ。
虎徹が知らぬところでも概ねこの調子なのだろうが、ヒーローとて所詮は人の子。ほどほど、というものを覚えなければ、身がもたない。
「お前さあ、そういうの疲れねえ?」
「?何のことだい?」
ようやく彼の家の近くまでやってきて、周りも静かになったところで、何となく訊ねてみたものの、彼は無邪気にきょとんと首を傾げた。
そんな彼の笑顔には、疲れた様子などまるでない。隠しているわけでもなく、彼にとっては本当に何の苦でもないことなのだと悟り、虎徹は自分の愚かな質問を飲みこむことにした。
「ああ、悪い。つまんねぇこと訊いたわ」
苦笑交じりで手を振って誤魔化そうとするが、夏の青空のような瞳がきらきらとこちらを見つめたままなのに気づき、まいったな、と内心でぼやきつつ、頭の上のハンチングを目深にかぶる。
「………お前は、いつでもどこでも、キングオブヒーローなんだなってことだよ」
いつでも、どこでも、みんなのヒーロー。
表も裏も、外も内もない。だからこそ、彼はキングオブヒーローであり続ける。
「ありがとう!そして、ありがとう!私は、きみにそう言ってもらえるのが一番うれしいよ」
「何で?」
「きみは私が心から尊敬するヒーローで、すごく大切なひとだから」
にっこりと微笑みながら、さも当たり前のようにサラリと言われて、虎徹は思わず視線が泳いでしまった。
何というか、とても、反応に困る。
「………あのよ。気持ちはありがたいんだが、真顔でそういうこと言うの、人目のあるとこではやめねえか?」
「どうして?」
「どうしてってお前……反応に困るんだよ!いい年したおっさんが往来で男相手に赤面してるとかアウトだろ普通!」
妙に必死になって説明してしまって、自ら墓穴を掘っている気がしないでもない。
しかし、相手はそんな虎徹の剣幕に対して、いまいちピンときていないようだった。
「それに、こう、頭撫でたりとか、色々うっかりできないだろ」
勢いで、うっかり口が滑った。
ハッとして我に返ったときには、すでに目の前ではわくわくと目を輝かせていた。
「色々?色々って何だい?」
「期待に満ちた目で訊き返すな。こんなとこじゃ、教えてやんねーよ」
足を速めて歩きだした虎徹のあとを、彼はすぐに追いかけてきた。
横に並んで、こちらを覗き込むように首を傾げて、少しだけ声をひそめる。
まるで、ないしょ話のように。
「じゃあ、家に帰ったら教えてくれるかい?」
「………さあ、どうだかな」
思わせぶりな笑みで返すのは、ずるい大人の証拠だった。
日夜市民のために働くヒーローにとっても、穏やかな休息の時間だ。
しかし、傍らの青年は、ほんの近所のスーパーに買い物に行って帰ってくるまでの小一時間ほどの様子を見ている限り、休息には程遠い忙しさだった。
迷子の子どもを見つけてはすかさず声をかけ、大きな荷物を抱えている老人がいればすかさず声をかけ、玩具を落としたと泣いている子どもにも、もちろん迷わず声をかける。
何もお前がそこまでしなくても、という台詞は喉元まで出かかったけれど、最終的には自分も積極的に巻き込まれているのだから世話はない。
結局のところ、自分も困った人間を見かければ放っておけない性質なのだ。
しかし、それにしても、と思う。
この男と並んで歩いていると、いつでもこの調子なのだ。
虎徹が知らぬところでも概ねこの調子なのだろうが、ヒーローとて所詮は人の子。ほどほど、というものを覚えなければ、身がもたない。
「お前さあ、そういうの疲れねえ?」
「?何のことだい?」
ようやく彼の家の近くまでやってきて、周りも静かになったところで、何となく訊ねてみたものの、彼は無邪気にきょとんと首を傾げた。
そんな彼の笑顔には、疲れた様子などまるでない。隠しているわけでもなく、彼にとっては本当に何の苦でもないことなのだと悟り、虎徹は自分の愚かな質問を飲みこむことにした。
「ああ、悪い。つまんねぇこと訊いたわ」
苦笑交じりで手を振って誤魔化そうとするが、夏の青空のような瞳がきらきらとこちらを見つめたままなのに気づき、まいったな、と内心でぼやきつつ、頭の上のハンチングを目深にかぶる。
「………お前は、いつでもどこでも、キングオブヒーローなんだなってことだよ」
いつでも、どこでも、みんなのヒーロー。
表も裏も、外も内もない。だからこそ、彼はキングオブヒーローであり続ける。
「ありがとう!そして、ありがとう!私は、きみにそう言ってもらえるのが一番うれしいよ」
「何で?」
「きみは私が心から尊敬するヒーローで、すごく大切なひとだから」
にっこりと微笑みながら、さも当たり前のようにサラリと言われて、虎徹は思わず視線が泳いでしまった。
何というか、とても、反応に困る。
「………あのよ。気持ちはありがたいんだが、真顔でそういうこと言うの、人目のあるとこではやめねえか?」
「どうして?」
「どうしてってお前……反応に困るんだよ!いい年したおっさんが往来で男相手に赤面してるとかアウトだろ普通!」
妙に必死になって説明してしまって、自ら墓穴を掘っている気がしないでもない。
しかし、相手はそんな虎徹の剣幕に対して、いまいちピンときていないようだった。
「それに、こう、頭撫でたりとか、色々うっかりできないだろ」
勢いで、うっかり口が滑った。
ハッとして我に返ったときには、すでに目の前ではわくわくと目を輝かせていた。
「色々?色々って何だい?」
「期待に満ちた目で訊き返すな。こんなとこじゃ、教えてやんねーよ」
足を速めて歩きだした虎徹のあとを、彼はすぐに追いかけてきた。
横に並んで、こちらを覗き込むように首を傾げて、少しだけ声をひそめる。
まるで、ないしょ話のように。
「じゃあ、家に帰ったら教えてくれるかい?」
「………さあ、どうだかな」
思わせぶりな笑みで返すのは、ずるい大人の証拠だった。