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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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soleil<ソレイユ>

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 「咲いたとも」
 ジュリアスは渋面を作ってその黄金色の花の群生の前で言った。
 「確かに咲いている」
 横で、この光の守護聖の館の庭への珍客−−闇の守護聖クラヴィスが頷いた。
 「……ひどい植えられ方をしているが……な」クラヴィスはくく、と笑って続ける。「まあ、それでも種を蒔いていただけましと言うべきか……」
 むっとした表情でジュリアスがクラヴィスを睨みつけた。
 「そなたがいきなり私の館に来たというので、どうしたのかと思えば、そのような嫌みを言うためだったのか?」
 「おまえが彼との約束を果たしていれば、そろそろ咲くころだと思って見に来たのだ。『ひまわりの咲いているところへ』と尋ねたらすぐこちらへ案内された」
 クラヴィスはそう言うと花の群生の生えているあたりを指さした。
 「それにしても、もう少しまばらに蒔くという知恵はなかったのか」
 ひまわりの群生は一箇所にぎゅっと集中しており、あとは黒々とした土が露出している。いかにもその一点に種を流し込んだという風情だ。
 「仕方あるまい、種を蒔いたことなどないのだから」
 「では、マルセルから種の蒔き方を習えばどうだ?」
 ふっと鼻で笑うとクラヴィスは、守護聖中で最も年若く、聖地に来て間もない緑の守護聖の名を告げた。
 ジュリアスは目の前のひまわりと同じ背の高さのクラヴィスのほうへ目を移し、言った。
 「よけいなお世話だ」



 もともとそのあたりは美しく設計された庭園だった。ジュリアス自身、別段庭園に興味があったわけでもない。なにせ彼は首座の守護聖として多忙を極めており、そうそう自分の館の庭園でも散策する暇などなかったのだから。第一、彼の館に来る者自体、それほどいるわけではない。今となっては彼の片腕である炎の守護聖が時折立ち寄る程度である。
 だが、少し前までは気安くひょっこりと現れる者がいた。
 緑の守護聖か……。
 クラヴィスの言葉を思い出す。ジュリアスとて、あのひまわりの種の蒔き方はまずかったと思っている。習えば良かった。ただし、マルセルではなく、あの種をくれた本人から。