soleil<ソレイユ>
聖地に戻ったジュリアスは、庭園に客がいることを側仕えから聞いた。行ってみると、何かてきぱきとした物言いが聞こえてくる。
「あ、お帰りなさい、ジュリアス様!」
「……戻ったか」
ジュリアスは呆然としてひまわりの植わっているあたりに座り込んでいる彼らを見た。二人とも手にスコップを持ち、土だらけになっている。
「クラヴィス、マルセル……これはどうしたことだ?」
「クラヴィス様がこのひまわりの話をしてくださったんです。で、見に来て……」
「あまりにひどい植え様なのでいきなり掘り始めたというわけだ」
「……だが、そなたまで……? クラヴィス」
「何本かはお花を持って行かれたので仕方ないですけれど、残った分は植え直しました、ジュリアス様。クラヴィス様も手伝ってくださったので助かりました」
しゃがみ込んでいたマルセルは立ち上がると明るく言った。クラヴィスも同じく立ち上がり、ぐーっと伸びをするとぼそりと言った。
「緑の守護聖はいつも人使いが荒くて強引なのだ」
「え、え、そうなんですか?」
二人のやりとりを聞いていたジュリアスは、やがてくすくすと笑い始めた。驚いたようにマルセルがジュリアスを、そしてクラヴィスを見た。
そうだ、緑の守護聖はいつも強引だ。
だが憎めない、愛すべき人柄。
「……ご苦労だったな、二人とも。極上のワインのみやげがある。御礼に御馳走しよう」
ワインと聞いて、我慢していた感情が吹き出したのか涙ぐむマルセルのほうを見て、ジュリアスは静かに言った。
「そなたもつきあうがよい、マルセル。そして私にも教えてほしい」
「え……?」
思わず顔を上げたマルセルに、ジュリアスは微笑みかけた。
「ひまわりの育て方をな」
「はい!」
一転して破顔し、マルセルは応えるとジュリアスを見た。
「ジュリアス様って、ひまわりのようですね」
ジュリアスは、一瞬動きを止めてマルセルを見た。
「眩しいほど鮮やかに咲いている様子が似ています」
「図体と態度の大きいところもそっくりだがな」横でクラヴィスが続けた。
「……ばかもの」
そう言うと、二人にくるりと背を向け、ジュリアスは館に向かって歩き始める。目が少し潤む。おかしくて笑っているからだとジュリアスは自分に言い聞かせてみる。
「僕、ひまわりが好きですよ、ジュリアス様!」
後ろでマルセルの声がする。
−−そうか。ひまわりが好きか。
今度は本当に、ジュリアスは笑った。
− FIN −
作品名:soleil<ソレイユ> 作家名:飛空都市の八月