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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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soleil<ソレイユ>

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 「おまえの庭は堅苦しいな、ジュリアス」
 「そう言われても、私はそれほど庭園で散策している暇もないのでな」
 ジュリアスは、顰めっ面を見せたまま腕組みをして庭を見つめる彼を見た。
 「少しぐらいほっとできる空間というものは必要だぞ」
 「そのような場所はとくに必要ではない」
 そう答えたときの、彼の少し寂しげなまなざしを、ジュリアスは思い出す。首座として一人でやってきた。これからもそういうつもりでいたのに、彼はそのようなジュリアスの思いにお構いなしに入り込んではずけずけとものを言い、行動する。
 そして、彼が聖地を去ることになったときもそうだった。
 「これを渡しておくぞ、ジュリアス」
 「何なのだ……? これは」
 渡された小袋の封を切り、中を見るとそれは種だった。
 彼は、ジュリアスの横にいて、何か言おうとしているクラヴィスに指で唇をおさえてみせると、とんでもないことを言った。
 「ジュリアス、おまえの庭で、もっとも日当たりの良さそうな場所を耕しておいたから、この種を蒔くがいい」
 「な……何だと?」
 「大丈夫、前に植えられていた薔薇はもっと薔薇の適したところへ大切に移しておいた。おまえはただ蒔くだけでいいんだ」
 はたして彼の言うとおり、ジュリアスの館の庭園の一つに植えられた薔薇は、少し陰のある別の庭園に上手く移し変えられ、元あった場所には黒々とした土が露出していた。
 種など蒔いたことがないので、どうしたものかと思ったが、とりあえず土を少し掘って、ぱらぱらと蒔いてみた。爪に入った土が取れずに困ったものだ。
 彼が見たら笑っただろうか。
 だが、それでもひまわりは咲いたのだ。


 一人で行くからと、ジュリアスはひまわりの花束を持って老人から教えられた丘に向かった。そしてその花束を手向けながら、あの前の鋼の守護聖以外、前任の守護聖たちすべてを見送ったことを実感した。様々な最期。だが彼のように笑っていたというのは珍しい。
 彼らしい。幸せそうで本当に良かった。そして。
 「そなたがひまわりを好きでいてくれて嬉しく思う……カティス」
 花束の向こうへ、ジュリアスは呼びかけるように呟くと深く礼をした。