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窓辺には夜の歌

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 ひとりにしてくれと頼んだときでさえ、彼はそれを受け入れなかったのに。

 今日だけだからな、俺がいつもこんなこと許すと思うなよ。いつもよりずっと静かな声で彼が言う。回された彼の右手が毛布越しに背中を叩く。指の先で脈拍よりも少し遅いリズム。とん。とん。とん。寝かしつけられている子供みたいでとても不本意だけれど、背中の暖かさに文句を言うことなどどうでも良くなってしまって、叩かれるに任せた。思うまま彼の肩にこめかみを乗せた。麻薬的だ、と思う。依存を自分に許せばスポイルされる。どんな思いでドアから手を引いたと思ってるんだと逆恨みしたいような気持ちになった。くるまれた足と凭れかけた頭、肩の毛布、彼の指。途中の思考と説明を全部飛ばして、困るじゃないか、とだけ呟くと、彼は知ったことかと口の端を上げて笑った。今日だけだからな、と彼が繰り返す。またこんなことしてみろ、次は部屋に引きずり込む。脅迫とも取れる宣言に、今日だけだよ、もうしないよ、と目を上げると、なんだしないのか、と彼が残念そうな顔をするから、どっちなんだと可笑しくて笑ってしまった。とんとんと緩やかなリズムを刻む手が背を抱いていてくれる。色の違う髪を混ぜるように頭をすりつけて、彼が笑う。
 口を開こうとして、それがとても尊いものであることを唐突に思い知らされて声が詰まった。けれどどうしてもそうしなくてはならない気がしたから、深く息を吸い込んでゆっくり声に出した。シリウス。返事の代わりに彼は背を抱く手に力を込めた。もう一度名を呼ぶと、彼はぐいと身体を寄せて髪にキスをくれた。三たび呼ぶ前に彼に名を呼ばれてしまったから、おかえし、とばかりに頬にキスを。こんなところでこんな時間になにをしているんだと思えば笑いもこみ上げてくるけれど、意味も理由も必要ない。呼べば返るこたえ。
 夜の終わりは闇が滲むところから始まる。窓の外には星が見えているから、明日はきっと良い天気になる。闇色は灰ではなく青に滲む。朝が来ればいちばんの新しい光はこの窓から差し込む。東に向けて設えられた窓。陽が昇るまでの間、少し目を閉じていよう。彼に身体を預けると、彼もこちらに身体を傾けたから、こっそりとその膝に毛布を掛けた。朝が来たら彼におはようを言って、それからミルクを温めよう。だからそれまではここでこのまま、夜が過ぎるのを眺めていよう。今日だけだから、いいでしょう?

 ひとつのかたまりになったまま。東の空に陽が昇るまで。    


 
作品名:窓辺には夜の歌 作家名:雀居