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Gold

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数々の輝かしい戦歴を潜り抜け死闘をかいくぐり、クィディッチの花形シーカーでもあるハリーは、ロンの無二の親友だった。
あれほどの有名人の隣にいるロンを見て、誰もが不思議そうにふたりを見比べた。
英雄のハリーと、これといった特徴もなくどこにでもいる平均的でつまらない普通の男の子。

(ああ、いったい僕が何をしたっていうんだ?僕が誰かに迷惑をかけたか?誰かをひどく傷つけたりしたか?………僕はここにこうして立っているだけなのに、なんでみんなそんな哀れむような目で僕を見るんだ―――)

ロンは自分が悔しいのか悲しいのか、今ではよく分からなくなっている。
ロンはもうずんぶん前から、泣くことを忘れていた。
誰かにひどいことを言われても、ただそれに反論することもなく、見えない傷を深くしていくだけだ。

そんなロンが泣き声をあげ、その痛みを隠そうとはせず涙を流すのは、いつもドラコの前だけだ。

「………うう……。お前なんか大嫌いだ―――」
そう言いながらドラコのシャツに顔を押し付けて、肩を震わせた。

薄いシャツ越しにあたたかいシミが広がり、それがドラコの心まで濡らす。

相手のあごを持つと、そっと顔を上向かせる。
「ロニー………、僕は意地悪か?」
「ああ、お前は性格が悪すぎる」
まるで愛の告白を聞いているような顔で、ドラコはロンの唇を見つめる。

「僕は傲慢で容赦ないか?」
「ああ、お前ほど暴力的なヤツなんかいない。いつも僕を殴ったり、床に這い蹲らしたりして、それを見て残酷に見下すように笑うから……」
ロンの瞳からまた涙が零れ落ちた。

ドラコはそれを舌で舐めとり、小さくしゃくりあげる唇に何度もキスをしてささやいた。

「―――かわいそうな、お前。」
ドラコはロンの涙に濡れたほほを両手で包み込む。

「お前なんか、大嫌いだ……」
ロンは震える唇のまま、きつい眼差しで相手をにらみつけても、ただドラコは無言でそれを見つめ返して、指先でその絶え間なく瞳から流し続けている滴を払ってやるだけだ。

(………たくさんの人に囲まれて育ったお前は我慢しすぎて、自分の感情も甘えも泣き言もみんな胸にしまい込んでしまっている。もう我慢することに慣れてしまって、我慢を我慢とも思ってもいない)

「ああ、ロニー―――」
その燃えるような赤毛に顔をうずめて、ドラコは祈る。

『その胸の奥にある深い悲しみがいつかは消えますように』と。

ドラコはロンのからだを何かから守るように、自分のほうへと懐深く抱き寄せる。

ドラコの暖かい鼓動。
バニラとムスクが混じった柔らかなコロン。
やさしい指先。

ロンは相手の胸に顔を押し付けて、そっと瞳を閉じる。
その腕の中だけが唯一の自分の居場所だった。
どんなわがままも許してくれる場所だった。

「―――僕を憎んだっていい。嫌ってもいいから。……もう我慢するな。泣きたいときは素直に泣けよ」
甘え方を知らないロンは、何度も何度もドラコの胸に顔を摺り寄せるだけだ。
それでもドラコは幸せそうに目を細めて、満ち足りたような笑みを浮かべた。



秋の夕暮れは早く最後の輝きを残した太陽が、そんな抱きしめあうふたりを照らし、長い影を作ったのだった。

               ■END■
作品名:Gold 作家名:sabure