【FY】詰め合わせ
ぐっと喉の真ん中辺りで何かしらの言葉を飲み込んでしまった有楽町の横顔を見て、肩を竦めながら立ち上がる。ついでに横で呆けたままの半蔵門の首根っこを掴んで、引きずる。少々荒っぽいが、そうでもしない限りずっと眺めていそうなのだ。
「さ、出るよ半蔵門」
「えっ? ……日比谷ぁ?」
「つべこべ言わない。これ以上は馬に蹴られる」
短く言うと、半蔵門よりも先に有楽町が顔を顰めさせた。何か言いたげに開く唇は先程見た時よりも随分と落ち着いていた。取った手段はともあれ、副都心の判断自体は正しかったようである。
「日比谷っ」
「有楽町さ、ちゃんと見極めて拒否しないとダメだよ。一応、君が年長者なんだから」
有楽町には悪いが、言い訳なんて聞く気にはなれなかった。甘い匂いのする唇から吐かれる言葉なんて、想像するだに恐ろしい。
一言だけ小言めいたものを放り投げて、半蔵門を引っ張って部屋を出る。空気を読めぬまま部屋を出る事となってしまったらしい半蔵門には気楽でいいもんだ、とだけ言って。日比谷は持った本の背で肩を叩いた。
(――さて、と)
お人好しの有楽町は、いつ副都心の執拗なキスを拒めるようになるのやら。
(20091216)