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メトロ詰め合わせ

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めっ。



 何をしたのだろう、ソファに腰掛けた丸ノ内の前で、銀座がさもそれらしく腰に手を当てて背をかがめていた。だから言ったでしょう、と言うのが日比谷の耳にも聞こえたが、だから何だと言ったのか、丸ノ内が何をしでかしてしまったのか、宿舎に戻ってきたばかりの日比谷には見当も付かない。
 丸ノ内、と銀座がかの赤い人を呼んで、呼ばれた丸ノ内が俯かせていた顔を上げた。開業してから何年経ったと思っているのやら、それとももう数えるのが面倒になってくるとそうなってしまうのか、丸ノ内の唇は駄々を捏ねる子供のように尖っている。
「丸ノ内」
「ふんだ、オレは何もしてないぞ」
「嘘を吐く子は嫌いだよ、僕」
 銀座が言うと、丸ノ内の眉尻がひょこりと僅かに下がった。どうやら、嫌われるのは嫌らしい。丸ノ内らしい事だ。
「ごめんなさいは?」
「………」
 本当に何をしたのだろう、謝罪を促す優しげな声にぴくりと肩を震わせつつも、丸ノ内は言われた通りの言葉を吐く事はなかった。その代わりにそっぽを向いて、やはり唇を鳥のくちばしのようにさせている。
「丸ノ内、めっ」
 二人の話を耳を大きくさせながら聞いていた日比谷は、その単語を耳に入れた瞬間思わずコーヒーを噴きかけた。メトロで二番目に古い路線に向かって「めっ」である。流石メトロの重鎮と言うべきか、特に丸ノ内に対して、銀座は何を言い出すか分からない。
「言う事聞かない子にはおしおきだからね、丸ノ内」
 日比谷も丸ノ内の次に開業した路線だから、銀座との付き合いはそれなりに長い。だが、それでも一度も「めっ」なんて叱り方をされた事はなかった気がする。こうして、丸ノ内に対して言っているのは何度か聞いていると言うのに。
 おしおきと言う言葉が効いたのだろう、横を向いていた丸ノ内の顔が、降参したように正面――銀座の方を向いた。これ以上関わる気になれずに向けた背の向こうで、小さく丸ノ内がごめんなさい、と言うのが聞こえる。
「……よしよし、いい子だね」
 恐らくは頭でも撫でられているのだろう、丸ノ内のへへ、と言う緩みきった声を聞きながら、残り少なくなったコーヒーを飲み干して日比谷は嘆息する。
(帰ってきてこんなの聞かされる、僕にごめんを言って欲しいよ)
 空になったカップを持って立ち上がり、日比谷はどうすればさり気なく食堂から脱出出来るだろうかと思案した。

(20091103)
作品名:メトロ詰め合わせ 作家名:セミ子